何故イチローはアメリカで愛されたのか

イチロー引退の報に、なぜイチローはアメリカで愛されたのかを考えてみた。

数々の偉業を達成したスーパースターだから。
もちろんそうだ。
メジャーリーガーも手本とする野球への向き合い方がリスペクトされているから。
それもある。

でも、それらはイチローのキャリアが積みあがってきてからのこと。
原点はシアトル・マリナーズでのデビュー年、2001年シーズンにあると思う。その年、イチローはそれまでの大リーグ観戦を根底から覆した。打席でも、走塁でも、さらに守備でも、片時も目を離せない選手として、ファンの心を鷲掴みにしたのだ。

打つイチロー

イチローが打席に立つとパパーンとヒットを放つ。
内野ゴロだと気を抜いてはいけない。
猛ダッシュで内野安打にしてしまう。
シングルヒットと決めつけたら見逃してしまう。
快足を飛ばして二塁、三塁に進塁するスピードを。
塁に出たらいつ盗塁するかわからない。
あんなフライでタッチアップするのか!
しかもクロスプレーをものにする。
打席でも、塁に出てからも、イチローから目を離したら、すごいプレーを見逃しちゃうぞ!
そんな選手は大リーグといえどもそうはいない。

守るイチロー

守備からも目が離せない。
これは抜けたという打球に追いついてしまう。
スピード感あふれるスライディング・キャッチ。
フェンス直撃!と思って見ていたらジャンプ・キャッチ。
ホームランもフェンス越しのキャッチでアウトにしてしまう。
そしてレーザービームだ。
ライトから三塁へ本塁へ、ストラックアウトだー。
バッターよ、打つならイチローの『エリア51』に打ってくれ。
イチローのスーパープレーを見たいんだよっ!
そんな選手は大リーグ広しといえどもそうはいない。

アメリカの観戦カルチャーを根底から変えた

2001年といえば、大リーグでは一発長打攻勢をねらう『ビッグ・ボール』が主流で、ファンにとってヒーローといえばホームランバッターという時代だ。バキーンとホームランをかました時にウォーっと盛り上がるが、ホームランバッターのゴロとか走塁とか守備に注目なんて、あり得ない。ひいきのバッターが登場するまでビールを飲んでおしゃべりしていればいい。そんな観戦カルチャーを根底からひっくり返したのがイチローだった。

そしてイチローは、ファンを仰天させ、熱狂させ、そして期待に応えた。
2001年のオールスターゲーム(7月10日開催)では、ファン投票で337万票を得た。日本からの大量票や、マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドで行われるという特殊事情はあった。が、それを差し引いても、デビューから3ヶ月の選手に両リーグを通じて1位の投票があったことは、大リーグファンがイチローから受けた衝撃の大きさと熱狂ぶりを物語るものだ。

シーズンを終えてみれば、その年の新人王・MVP・首位打者・盗塁王・シルバースラッガー賞・ゴールデングラブ賞などを獲得。まさに打って、走って、守る、その全てで卓抜したプレーをし続けた証だ。

ファンに贈り続けた“ワクワク感”

そして大リーグのファンは、球場でイチローのプレーをフォローするワクワク感を実感したに違いない。打席でも塁上でも『エリア51』でも、テレビの中継画面では見られないイチローの動作、判断、スピードを目の当たりにする。それによってますますイチローの凄さを体験する。ゲームの間、イチローはずっと楽しませてくれる。そんな選手は大リーグを長く観戦してきて初めてだ。

そしてイチローは、そのワクワク感を丸18年、ファンに抱かせ続けた。ファンはイチローがとんでもないストイックさをもって野球に取り組んできたことも知るに至った。

だからアメリカの大リーグファンはイチローが大好きなのだ。
イチロー、ありがとう。
イチローのプレーの数々は決して忘れないよ。
アメリカの野球ファンは皆、そう伝えたいに違いない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】