「2年連続、10人未満」。この数字、北海道立高校の関係者にとっては、とても重要な意味を持つ数字なんです。
道立高校は新入生が2年連続で10人を下回ると、北海道教育委員会が募集停止など高校の統廃合の検討を始めるからです。
2023年の春、閉校の危機に立たされた高校を存続させようと町と高校が注目の取り組みを始めています。
存続の危機に立たされた高校
「えっ!韓国行ったの?」
「韓国の人が来てくれたの」
「韓国語しゃべれるの?」
「アンニョンハセヨ!カムサハムニダ!」
「ウマシッソヨ!」(いずれも女子高校生)
女子はおしゃべり。男子はスマートフォンでゲーム。
リゾートホテルのような、新築の学生寮で放課後を悠々と過ごすのは北海道南部のある町の高校生です。
和気あいあい!楽しそうな夕食風景ですが、実は彼らの高校はこの春、存続の危機に立たされていました。
北海道函館市から車で約1時間30分の福島町。漁業と青函トンネルの工事基地があったことで知られていますが、1980年代後半のトンネル完成とともに人口は減少の一途。
8月末現在は約3400人とピーク時の4分の1にまで減りました。
マチ唯一の高校、北海道福島商業高校は生徒減少で存続の危機に…。
「北海道の基準では2年連続で新入生が10人未満だと2~3年後、募集停止という事に。2023年の新入生は9人で瀬戸際に立たされていた」(福島町教育委員会 小野寺則之 教育長)
福島町教育委員会の教育長・小野寺則之さんです。
「高校入学を機に函館などに生徒1人だけではなく、家族全員で引っ越す不安がある。高校がなくなるとどんどん寂れて人口流出が止まらない」(福島町教委 小野寺教育長)
新入生9人の瀬戸際からの復活
しかし!
2024年の新入生は29人!2023年の3倍以上の生徒が全国から集まったんです!
「埼玉から来ました」
「京都です」
「岐阜県から来ました」
「東京の日野市というところから来ました」(いずれも2024年の新入生)
町を挙げた3つの成功の鍵
1.快適な生活空間
どうやって閉校の危機を乗り越えたのか?そこには3つの成功の鍵がありました!
2年連続で新入生が10人を下回れば閉校…。瀬戸際に立たされた北海道福島商業高校に、この春は2023年の3倍以上!なんと29人が入学しました。
町を挙げて取り組んだ起死回生の打開策。その3つの成功の鍵とは!
「洗濯機と冷蔵庫と上には2機の乾燥器。こちらがシャワー。こちらが浴槽です。もうひとつ奥にもあります」(北斗市出身の1年生 野崎紘平さん)
復活の鍵、1つ目は町外から学生を招くための快適な生活空間の新築!予想外の新入生の数にもう1棟の建設を始めたほどなんです!
ボリュームいっぱい、朝晩は手作りバイキング!
都会のカフェをイメージした休憩スペースには、スマホを充電できるコンセント付きのテーブルも!
皆が集まって過ごせるコミュニケーションラウンジはおしゃれなつくりでゆったり!まるでリゾート気分です。
全室1人部屋!エアコンやWi-Fi完備で至れり尽くせり。しかも家賃は食費だけのひと月3万円です。
2.最先端の授業
続いて復活の鍵、2つ目は最先端の授業です。
「プログラムをやっているのをパンフレットで知ったのでこの学校を選びました」(松前町出身の2年生 田畑斗羽さん)
福島商業では2023年からデジタル分野の授業を導入。プログラミングなどこれからの人材に求められる技術が学べます。
その技術の1つが…。
「正面を向いたままでホバリングをお願いします」
ドローンの操縦資格です。札幌市から招いた講師が操縦の基礎を教えます。
ただ飛ばしてるみたい?もちろんそんな事はありません!
「勝手に進む方向と、入力する方向が一緒になってしまい安定しなくなる」(北斗市出身の1年生 野崎紘平さん)
訓練で使うドローンはひと昔前の古いモデル。微妙な空気の変化で簡単に機体は思わぬ方向に流されてしまいます。
「今回の機体は補正する機能をOFFにしているので流れていく。自分が意図していない方向に進んでいくのはかなり恐怖があると思う。それに対してしっかり対処するのをカリキュラムに組み込んでいる」(スカイテックドローンスクール 漆崎志保さん)
カーテンを閉じサングラスをかけて暗闇を飛行する訓練や、吊り下げた荷物を投下する訓練も行います。
「一瞬の判断が重要です。長くとどまって、おっ!」
「入った!うれしい!」
「自分が本当にドローンなんてできるかなという感じだったけれど、思うように操作できるようになりすごくうれしかった」(石狩市出身の1年生 岩坂千菜さん)
この夏、福島町では北海道や北海道大学の研究者、IT関連企業が集まり最先端のドローン実験を行いました。
「録画開始!」
「はい!録画開始!」
ドローンをマチの大切な産業に活かす実験です。
白いブイに結ばれたロープの周りに付いている毛の様な物は福島町特産の養殖コンブ。その育成状況を空から確認するのです。
実験には福島商業でドローン操縦を学ぶ生徒も招かれました。
「(Q:ドローンの高度は?)11~12メートル?」
「正解は100メートルです」
「100メートルでもこんなに近くに見える」
「100メートルでもはっきり見える。時間帯によっては海がキラキラして見づらいので、もっと朝早く5~6時台に撮影したほうが良いかもしれない」
実験に見学者として参加した福島商業生。一部の実験では操縦資格を持つ2年生が実際に操縦を行い、1年生は障害物や風速を調べるなどサポートをしました。
そして今回の実験ではここ数年、北海道沿岸で問題になっている赤潮を特殊なカメラで撮影する試みも行われました。
「赤潮の原因、プランクトンの撮影をしている。例えば赤潮なら赤潮が撮影できる光の波長がある。特定の波長に反応するものだけを絞って撮影できるのマルチスペクトルカメラを使う」(北海道大学大学院工学院 滝沢 海斗さん)
さらに!
魚の住家となる「魚礁」などを置く場所を決めるのに便利な海底の3次元モデル作りを行いました。
またこの技術は土砂崩れなどの被害確認への利用も期待されています。
「ドローンはおもちゃじゃなくて立派な機械だと思った。農薬をまいたり物を運んだり、人の仕事をドローンでするように変わる」(北斗市出身の1年生 野崎紘平さん)
福島町は災害対策や養殖コンブの育成確認、環境対策にもドローンを活用していく方針。教育委員会がドローンを授業に取り入れたのは、卒業後も町に残って欲しいという願いのあらわれです。
「1人でも2人でも中には福島で安定して働きたいという子がいるかもしれない。座して死を待つよりも前向きに前のめりで行きたいというのが我々の考え」(福島町教委 小野寺則之 教育長)
建物などの安全性確認にドローンを使ってきた町の建築業者、中塚徹朗さんは卒業生に期待をかけます。
「ドローンの技術を持った人を私たちは今まで金をかけて教育してきた。事前に学んでいるということなので我々の担い手としてつなげていきたい」(中塚建設 中塚徹朗 代表取締役)
3.生徒によるPR活動
最先端の授業!そして快適な生活空間!
でも、ここは北海道の過疎の町…。学校の魅力をなんとか全国に知ってもらう必要があります。
「きのうはエビフライ。超おいしいエビフライ」
「氷も自由に」
高校復活の鍵!3つめは生徒自身によるPRでした!
見学に訪れた横浜市からの親子に1年生が熱心に福島町での生活の楽しさを紹介します。
「部屋の掃除もすぐに埃まみれになるから『お母さんこんなに掃除機をかけてくれとったんや』とか」(兵庫県出身の1年生 田中瑠那さん)
「すごいね!そういう事に気付いたんだ!」(横浜市から学校見学 渕上香緒利さん)
2022年から札幌市や東京で開いてきた学校説明会やオープンキャンパスでは、寮で生活する先輩が学校や福島町の魅力を熱心に語ってきました。
「この学校は少人数だし見学に来た時も良い雰囲気だったのでこの学校に決めました」(岩手県出身の1年生 八重樫沙和さん)
「先輩たちがすごく楽しそうに話していたので私もここに来たら楽しめるかなって」(東京出身の1年生 阿部芽衣理さん)
2024年の新入生29人のうち、福島町以外の北海道内からは13人。北海道外からは11人、福島町出身者は5人でした。町内出身の生徒はどう受け止めているのでしょうか?
「いろいろな所から人が来てコミュニケーションが多くとれるかなと思って来たんです。こうやって今は友達なんですけど、松前町の子と道外の子でここに来なかったら会えなかった」(福島町在住の1年生 新山菫さん)
「地元にずっといたからこそ大人数でいるのが新鮮ですごく楽しい」(福島町在住の2年生 白川仁胡さん)
生徒たちの町との交流も
町内外の生徒たちは積極的に町の人とも交流しています。
「コンブを干すのも最初は1枚づつしか干せないけれど3枚、4枚。5枚まで行けました!」(埼玉県出身の1年生 檜山結菜さん)
6月中旬から8月にかけ毎朝3時に起き、コンブ干しのアルバイトに精を出したんです。
「(Q:働きっぷりは?)最高ですね!気も利くし作業を繰り返すうちに要領よく覚えくれて本当に助かっています」(コンブ漁師 阿部慎太郎さん)
25年後の人口が現在の4割以下の1300人になるという試算もある福島町。
町で90年間続く食料品店の店主は…。
「(Q:町の雰囲気は?)まったく変わりました。町のイベントに顔を出したり、若い人たちが参加するということは、ここに住んでいる人間にしてみたら非常に明るい材料です。高校がなくなるということは困るっていうどころの騒ぎじゃない」(食料品店経営 河原塚利雄さん)
「福島町で店を経営して福島町に恩返しをする仕事をしたい」(岐阜県出身の1年生 仙谷秀久さん)
8月末に行われたオープンキャンパス。横浜市から参加した中学生は…。
「ドローンの資格に興味があって、生徒も先生もすごく温かくて優しくて地域の方々もすごく優しい雰囲気がある」(横浜市の中学3年生 渕上純さん)
少子高齢化が進む過疎の町。その存続は学校と町の魅力作りにかかっているようです。
福島商業高校の取り組みは、10月1日と2日に札幌市の札幌コンベンションセンターで開かれる「第3回ドローンサミット」で紹介されます。ドローンサッカーやデモフライトも行われる予定です。