「ジーンズに命を救われた」

ニュージーランド沖で溺れた男性が「ジーンズに命を救われた」というニュースが飛び込んできた。

ロイター通信によると、3月6日、ヨットに乗っていたドイツ人男性が荒波を受け、海に投げ出された。
同乗者が投げ入れた救命胴衣を掴めなかった男性は、身に着けていたジーンズを脱いで裾を結び、空気を入れて救命胴衣代わりにしたという。
男性はその後ヘリコプターに救助されたが、実に3時間もの間、この急ごしらえの救命胴衣で漂流していたのだ。

編集部では以前、自衛隊が制作した「サメに襲われた時に身を守る方法」をまとめた動画(「『サメに遭遇したら?』自衛隊が教える“斜め上をいく”対処動画が話題」)を紹介したが、同じ海のハプニングとしては、突然船から放り出されてしまう方が遭遇率は高そうだ。

これからの季節、水辺でのアウトドアに向かう際には、ライフジャケットなどの準備はしっかりしておきたいが、それでも突然のハプニングに見舞われてしまった場合、身近なものを活用できることを覚えておくことは身を守る助けになるはず。
“ジーンズで命拾い”は本当にできるのか、日本ライフセービング協会にお話を聞いてみた。

服を脱ぐことのデメリットもあるので注意

――ジーンズを救命胴衣代わりにする方法は実際に使える?

ズボンを脱いで裾を結び空気を入れて救命胴衣代わりする方法は確かにあります。
しかし、足のつかない水中でズボンを脱ぐのは、立ち泳ぎなどの技術や冷静な対処が必要です。泳力に自信がない人や波が高いなどの状況の場合は逆に危険になる可能性があります。浮力体が周囲にある場合、まずそれを活用する方が良いです。

ジーンズは、体にまとわりつき水中では脱ぎにくい衣類です。脱ぐときにかなりの体力を消耗することが考えられます。しかし、裾を結び空気を入れて救命胴衣にすることが出来れば、空気は抜けにくく、有効かと考えます


――どのように作ればいい?

(1)ズボンを脱いで裾を結ぶ
(2)結んだ輪の部分を首にかけ、胴側を胸の前に持ってくる形にする
(3)胴の部分に手で空気を入れ、膨らませる
(4)手でウエスト部分を閉じて空気を逃がさないようにする
(5)空気が抜けてきたら、再度空気を入れる

日本ライフセービング協会によると、ニュースのように「ズボンを救命胴衣代わりにする」ということは実際に有効な方法だという。
裾同士を結び、ウエスト部分を両手で絞ることで、首にはめられる「浮き輪」を作るイメージだ。

長ズボンであればこの簡易救命胴衣を作ることができ、ジーンズは空気が抜けにくく、十分に浮力を得られるという。

――溺れた時は必ず服を脱いで救命胴衣代わりにしたほうがいい?

ケースバイケースです。
水温が低い場合は、逆に体温が奪われるので脱がない方が良いです。また、脱ぐことによって体力が消耗します。
逆に、衣服を着ていると泳ぐのが困難なので、岸が近く、確実に泳げてかつ体力に余裕がある場合は、脱ぐ選択肢もあります。
服を着たままであればそのまま浮きます。

今回のニュースではこの簡易救命胴衣で3時間の漂流に耐えたというが、水温が低かったり、体力に余裕がない時に「救命胴衣を作らなくては」と服を脱ごうとすると、かえって体に負担をかけてしまうことがある。
反対に、体力に余裕があり、着衣では泳ぎにくいと感じた時には、服を脱ぐことが有効になってくるという。

「溺れた時は、水を吸った服が重くなるので脱いだほうがいい」と習った人も多いかと思うが、服を着たままでも沈んでしまうということはないのだという。
ジーンズで救命胴衣を作ることは正しいアイデアのひとつだが、実際に使えるかどうかは「水温・気温・波浪などの気象海象条件、漂流者の体力などによって判断が異なる」とのことだった。

覚えておきたい水辺の救助方法は?

日本ライフセービング協会によると、溺れた時にはまず浮力を確保し、呼吸ができる状態を作ることが基本。
今回の場合は海での事故だったが、川でも同様で、「流れがある場合は、無理に流れに逆らって泳がず、浮力を確保して、呼吸が出来る状態で流され、流れが無くなった場所から岸に向かって移動してください」とのことだ。
さらに、救助する側になったときの注意点についても聞いてみた。

ライフジャケットの着用が基本(イメージ)

――他に身の回りのもので救命胴衣代わりにできるものはある?

ペットボトル、クーラーボックス、サッカーボール等、ランドセルなどがあります。

――これからの季節、海や川に出かける時に覚えておきたいことは?

海、川など水辺に行く際は、かならず気象・海象状況を確認してください。
海であれば、風・波・流れ(離岸流など)・水温・潮汐など。川であれば、水深・流れが変化する場所、上流での天気(雨が降っていないかなど)や、ダムの放流など増水の危険性はないかなどを常に確認してください。
また、2人以上で行き、お互いを常に気遣う(バディー)こと。さらに子供の場合は、絶対に目を離さない(KEEP WATCH)、手の届く範囲で見守ることが大事です。

救助の手順としては、トーク・リーチ・スローというドライレスキュー(水に入らず救助する方法)があります。

「トーク」…溺者に声をかけて落ち着かせ、安全な場所に誘導したり、近くの浮力体の場所を指示したりする。
「リーチ」…陸上から棒や竿を差し出してつかまらせる。(手を差し出す方法もあるが、救助者が転落しないように十分注意が必要)
「スロー」…ペットボトル、クーラーボックス、サッカーボール、ランドセルなどの浮力体を投げてあげる。ペットボトルは少し水を入れて投げるとコントロールがつきやすく、ランドセルはクッションがある背中側を上にした方が良いです。また、浮力体にヒモをつけて投げると、引っ張ることが出来ます。

救助者が水に入って救助するのは非常に危険で、毎年、救助に行った人が逆に溺れるなどの事故が後を絶ちません。何も持たずに泳いでの救助は極力避けてください。
また、助けられる側の視点として、ペットボトル、クーラーボックスなどをどのように使えば浮くことができるのか?など、助けられる体験をしておくことも重要です。

水辺のアウトドアに出かける際は、ライフジャケットの着用を徹底してほしいが、身近なものを使った応急処置も覚えておけばなお安心。
とっさの場面で使える知識を身につけて、安全に楽しんでほしい。