気候変動や燃料の高騰で厳しさが増す広島の漁業。
魚に携わる人たちがタッグを組んで、広島県産の魚に新たな価値を生み出す取り組みが、始まっています。
8月27日、広島市内で、開催されたイベント。
広島県が主催する瀬戸内の魚の普及促進を目的に行われた「夏の瀬戸内さかな体験会」です。こだわりの漁師がとった魚を目利きの仲買人が厳選し、人気店の調理人が腕を振るいます。
【料理人・牡蠣と肉と酒MURO 小野敏史オーナー】
「この場所のテーマは広島のおいしいもの、いいものをストーリーと一緒に体験してもらうことがテーマになっています。素材を生かしたシンプルな料理を食べてもらいたいと思っていますので、きょうはよろしくお願いします」
お客さんは、取り組みの趣旨に賛同した希望者が、会費を払って参加します。
瀬戸内の魚を食べながら、その魅力を深堀りする貴重な体験会です。
【漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん】
「ちょっと沖より湾内の方がタイの顔が違うんです。目の大きさが変わるんです。なぜかというとエサを一生懸命に探す魚ほど目が大きくなる」
魚に携わる人たちが、それぞれの専門分野で、広島の魚の魅力を語ります。
【仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長】
「瀬戸内の魚は熟成しなくても、すぐにおいしいので熟成する必要はないと思います」
魚を扱いながらもそれぞれの組織を超えて一つのイベントを実現させることは極めてまれです。そのためお客さんを含め、魚に携わる全ての人がまずは、集まること。
それがこのイベントの狙いです。
【県農林水産局水産課・木村剛司参事】
「漁師さんも直接食べる人の話を聞く機会もないし、食べる側も漁師さんの話を聞く機会もないので」
【イベントを企画したMHDF・丸尾軍太さん】
「こういった場でしか聞けない話や、そのこだわりを料理人の方がどのようにとらえて料理を出しているのかを、一貫して見られる面白さはあると思う」
燃料費の値上がりや漁師の高齢化、水温の上昇、環境の変化などで、県内の水揚げ量も
年々減少する中、広島の魚に新たな価値を作り出していく。
このイベントは、未来へのチャレンジでもあります。
料理の素材集めは、仲卸業の吉本さんが、担当しました。
それぞれの素材をプロの厳しい目で選んでいきます。
イベント当日、午前3時過ぎの広島市中央卸売市場。ここには、県内外から、様々な魚介類が集まります。
【仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長】
「チダイでいこうか、マダイでいこうかは卸した後で判断しようと思って、状態がいい方で・・」
Q:今旬ですか?
「旬・・どっちもいいですよ」
広島の海の幸といえば、外せないのがアナゴ。
しかし、近年では、貴重な存在になりました。
【仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長】
「貴重です(県産のアナゴは)ほとんど取れていませんから、とる漁師さんも減っていますし、瀬戸内のアナゴは脂がないイメージなのです。皮が硬くて、(ですが)とる場所によってはすごく脂があって、めちゃくちゃいいアナゴがいるんです。夜食べて驚いていただいたらめちゃくちゃおいしいので」
アナゴはシンプルにお造りで出します。
このアナゴは、漁師の岡野さんがとった自慢の一品です。
(お客さんのおいしそうな表情)
【漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん】
「河口のアナゴが一番いい。腹が金色になって『金アナゴ』で、その河口でとったアナゴです」
Q:(場所を)言っていいんですか?
「大丈夫です」
岡野さんがとる魚には、プロとしてのこだわりがあります。
【仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長】
「(漁師さんが)おなかのエサを出してくれているんです。きょうはしめて刺身で出すのですが、おなかのエサが抜けているので臭みも少ない」
生産者や漁師には、それぞれのこだわりや工夫があります。
栗原さんは、ブランド商品「かきむすめ」を独自の方法で生産しています。
【養殖業・音戸海産 栗原 単 専務】
「小さいカキの方は、大きいカキに栄養を吸わせてサイズを小さくする状態にしながら1年半育てる。半年だけエサを入れるというやり方をしているカキです。味が濃くなる」
(お客さんのおいしそうな表情)
【お客さん】
「味が濃い」
内藤さんが、素潜りでとるサザエには、出荷するまでの処理に工夫があります。
【漁師・マルキ水産 内藤希誉志 代表】
「こだわりというわけではないけど、市場に出す時に水槽の中で泥を吐かす。砂を抜く。4日くらい(水槽で)生かしたら、おなかの中のものを全部出して中にためている砂を全部出す。つぼ焼きにしても、全部食べられる」
魚をおいしく食べるための工夫やこだわり。
しかし、生産者や漁師さんが、日頃、その成果を知ることはありません。
【漁師・マルキ水産 内藤希誉志 代表】
「食べてもらっておいしいという声を聞いたら、今まで以上に手をかけていこうとは思います」
また、生産者や漁師さんは、飲食店のニーズを知る機会も少ないのが現実です。
【漁師・広島市漁業協同組合 岡野真吾さん】
「いい魚を卸すだけではなくて、料理に合った(魚の)しめ方や保存方法など、違う進化や改良ができると思います」
魚に携わる全ての業種が情報を共有することで、瀬戸内の魚の価値を今以上に高めることが可能になります。
【仲買人・広島中央卸売市場 吉文 吉本崇仁社長】
「お互いプロ同士が集まって、1+1が2だったり、3や4になるような取り組みを今後もやっていきたい」
県が推進する取り組みが、瀬戸内の魚の新たな価値を生み出そうとしています。