あと、1か月で平成が終わろうとしている。
この30年を振り返り、新しい時代を考える報道が続いているが、それでは、昭和が終わるときはどうだったのだろうか。

昭和の終わりが近づいていた・・・

皇居に入る血液運搬車

63年余り続いた昭和の時代。
終わりが近づいてきたのを感じさせたのは、昭和62年9月の出来事だった。86歳の昭和天皇が腸の手術を受けられたのだ。公務に復帰されたものの、体調は芳しくなく、ご様子を伺おうと、各マスコミは、昼となく、夜となく、宮内庁関係者への取材を続けた。一番の関心事は、どのくらい召し上がったか。好物のウナギで食が進んだと聞くと、ほっとしたものだ。

全国戦没者追悼式 昭和63年8月 

昭和63年8月、昭和天皇は、静養中の栃木県の那須からヘリコプターで東京に戻り、15日の戦没者追悼式に出席。黙とうの時間を知らせる正午の時報がなった時、まだ、標柱に向かって歩を進められる姿は、体調が悪い中でも、追悼式への出席を望んだ昭和天皇の、執念にも似た思いを感じさせるものだった。

全国戦没者追悼式を終えてヘリコプターで那須へ戻られる昭和天皇

3カ月余りにわたった闘病生活

そして、そのおよそ1か月後の9月17日夜、昭和天皇は、突然の吐血。3か月余りにわたる闘病生活が始まったのだ。

お見舞いの記帳の為に行列をつくる人々

宮内庁は、毎日数回、血圧、体温、出血の有無を発表し、皇居の周りでは、多くの人々がお見舞いの記帳のため、行列を作った。

連日お見舞いの記帳をする人々が沢山訪れた

そういったニュースが連日流れる中、日本中を席巻したのは、「自粛」という言葉だった。

日本中に広がった「自粛」の波

ヨコハマカーニバル、御堂筋パレードなど、恒例のイベントが次々中止に。それだけではなく、長崎くんちといった長年続けられてきたお祭りも、一部の行事が取りやめられるなど、日本国中に「自粛」の波が広がっていった。また、個人のお祝い事も控えられたり、テレビCMも差し替えられるなど、市民生活や、経済に影響を及ぼす事態となった。

当時、宮内庁の記者クラブでは、狭いスペースに、各社、大勢の記者が24時間体制で詰め、皇居の各門にも、「張り番」の記者が張り付いた。宮内庁の発表時は、まるで、通勤ラッシュさながらの状況。私も、その一員として、宮内庁の記者クラブに缶詰状態となり、皇居の外の空気にほとんど触れることはなく、世の「自粛」の波もどこか遠くの出来事だった。

一方、そうした世の中の動きに、いち早く反応されたのが当時の皇太子さま・天皇陛下だった。この年の10月、当時の皇太子さまは、世の中の過度な自粛ムードに懸念を示された。昭和天皇をお見舞いされた後、当時の宮内庁・藤森長官に、「陛下の平癒を祈ってくれる国民の心に感謝の気持ちを持っているが、国民生活に影響が出ると、陛下の常々のお心に沿わないことになるのではないか」との趣旨のことを述べられたのだ。

昭和天皇の闘病の中で広がった「自粛」、世間の空気に流されがちな日本社会。「過度に自粛が広がっているのでは」と思いながらも、なかなか声が上げられない中、「身内」から、「懸念の思い」が発信されたことには大きな意味があったと思う。

30年間持ち続けた「懸念」のお気持ち

お気持ちを表明された天皇陛下 2016年8月

「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます」

陛下は、平成28年、象徴としてのお努めについてのビデオメッセージで、このように述べられた。陛下は、その時感じた「懸念」のお気持ちを、30年間、お忘れにならなかったのだろう。

剣璽等承継の儀 昭和64年1月7日

昭和64年1月7日の剣璽等承継の儀の出席者は、皆、黒いネクタイ姿だった。宮内庁には半旗が掲げられ、悲しみの中で、代替わりの儀式が続いたのだ。

その中で、私が新しい時代の幕開けを感じた瞬間がある。当時の小渕官房長官が、「平成」の額を掲げ、新しい元号を発表した時でした。

新元号を発表する小渕恵三官房長官(当時)

一つの時代をくくる「元号」

「次の元号は、どんな漢字がいい?」
「元号が選ばれるまでの過程は?」
各メディアやネット上などは、こういった情報や話題で持ちきりだ。 

実生活では、昭和の時代に比べて、西暦を使うことが多くなった。しかし、こういった話題を見ると、私が、前回、「平成」の文字を見て新しい時代を感じたように、今でも元号は、一つの時代をくくる大きな存在であることがわかる。

悲しみの中で迎えた前回とは違い、次の時代への希望、そして、一抹の寂しさの中で迎えるお代替わり。

新元号が発表されるまで、あと少しだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 田村浩子】
【関連記事:「平成プロファイル~忘れられない取材~」すべての記事を読む】