能登半島地震発生時の富山県民の避難行動から見えた新たな課題について検証します。
災害対応の専門家は「正常性バイアス」と呼ばれる心理で、津波の危険性を軽視してしまうおそれと避難方法見直しの必要性を指摘しています。
先月30日に開催された能登半島地震での災害対応を検証する県の会合。
今年度末までの地域防災計画見直しの根拠となる調査結果が発表されました。
一つが能登半島地震への対応を県民に聞いたアンケート結果、もう一つがスマートフォンのGPS情報を元に地震発生時の人の動きを捉えた「人流データ」です。
この二つの調査結果から何が見えたのか、県の災害対応検証会議の委員で、行政の災害対応を専門とする富山大学都市デザイン学部の井ノ口宗成准教授に聞きました。
井ノ口さんは、まず、アンケート結果の中から当時、避難したかどうかを問う設問に着目。
結果は、地震発生時にいた場所が津波ハザードマップの浸水想定区域もしくは、避難が必要な地域だったにも関わらず、「避難しなかった、できなかった」と答えた人が18.1%に上っています。
*富山大学 都市デザイン学部 井ノ口宗成准教授
「逃げなくてはいけなかったのに逃げなかった人が2割いるが、この人たちはどうリスクを認識していたか。危機的状況であるということをどう考えていたか。確実にリスクを理解し、逃げる行動に移せなかったことは課題」
その一方で、井ノ口さんは、避難した、およそ7割の人にも課題が残ると指摘しました。
日常とは異なる状況でも「正常の範囲内」と捉えて心の平静を保とうとする人間の心理「正常性バイアス」です。
3メートルと発表された津波警報に対し、実際に到達した津波の高さが低かったことから、次に同様の事態となった場合に「正常性バイアス」が働き、その危険性を軽視してしまうのではないかとの懸念です。
*富山大学 都市デザイン学部 井ノ口宗成准教授
「今回の結果論だけを言うと、災害が起こった。でも大して被害はなかった。逃げたのに空振りしたということになると、どうせ津波来ないんだよねと、判断の中の正常性バイアスに自分なりの理屈をつけた根拠を持ってきて。次、同規模の災害が起きても同じようにこうだよねと思い込む。7割の方々は逃げなくていいと思い込んで、津波避難の行動をとったのは良いにもかかわらず、次にとらないのではないかという危険性は考えられる」
そして、こちらがもう一つの調査結果。
人流データを分析し、地震発生時、富山市内にいた人の密集具合を示したマップです。
発生後の1時間で道路に沿って濃い赤色の筋ができているのが見て取れます。
県は、この分析結果から津波の浸水想定区域に入っていない沿岸から5キロ以上離れたエリアからも大勢の人が車で避難したことが、各地で渋滞が発生した要因となったとしています。
避難する必要があるのか無いのか、避難する場合はどこに向かえばよいのか、井ノ口さんは原則、徒歩とされる地震の際の避難方法について車の利用を含め、それぞれの地域に合った個別の計画を立てる必要があるとしています。
*富山大学都市デザイン学部 井ノ口宗成准教授
「富山の場合はかなり低い土地が続いた後、南部でググッと上がってくるが、人間が安心できる、遠くで高い場所というと沿岸から距離が遠くなる。そうすると車での避難はやむを得ない。人口密度が濃い地域は、車ではなく徒歩で近くの高く堅牢な建物に逃げれば、(車の)ボリュームを減らせる。一方で、かなり沿岸に近い、わずかな時間で遠くに逃げなくてはいけない。近くに高い建物もない人は、車で逃げざるを得ないのではか。それぞれの地域性、逃げる場所の確率を考え、うまいバランスで逃げざるを得ない」
能登半島地震で津波警報が富山県内で発表された時に避難した人、しなかった人、そして、避難方法は…。
井ノ口さんは今回の避難行動を教訓に最大限必要な備えとできたことのギャップを認識したうえで、まずは、家庭など身近なところから対応を始めてほしいと話しています。
*富山大学 都市デザイン学部 井ノ口宗成准教授
「今回の災害で、それぞれ個人で備えて、個人が何かしらを判断して逃げた。個人並びに家族で家族の防災計画を作ってほしい。ある意味復習にもつながるし、自分たちのできること、できないことを整理するきっかけになる、家族の防災計画を一つ作ってほしい」
次なる地震で津波が起きた場合に備えどうするか、専門家は、家族や地域などで個別の避難計画をつくるべきと指摘していました。
その具体的な方法に「地区防災計画」というものがあります。
自治体が定める「地域防災計画」に対し、住民が、地区ごとに、自分たちで決める災害対応で、県内では、まだ41地区にしかありません。
現在、氷見市の沿岸の地区で計画の見直しを進めていたり、砺波市の山間の地区で
孤立対策の計画をまとめたりといった動きがあるということで、各地区、各町内などの自主防災組織で一度、話しあってみてはいかがでしょうか。