夏山シーズンの今、西日本最高峰の石鎚山では頂上の山荘に食料などを歩いて届ける「歩荷(ぼっか)」と呼ばれる運び手が、活躍している。
西日本最高峰・石鎚山と歩荷の重要性
四国山地の西部に位置する石鎚山は標高1982メートルを誇る西日本の最高峰で、年間約9万人の登山者でにぎわう名山だ。
この記事の画像(22枚)この石鎚山で、登山シーズンに活躍しているのが歩荷だ。彼らは食料や物資などの荷物を背負って険しい山道を登り、頂上の山荘まで運ぶ。
石鎚山で歩荷をする渡邊佑さん(43)は、神奈川が拠点だが、2012年の「お山開き大祭」をきっかけに石鎚山での歩荷を始め、2019年からは夏と秋の登山シーズンも頂上の山荘で働きながら歩荷をしている。
山荘では、ドリンク類やお菓子、お土産類が主に扱われており、食堂販売も行っているため様々なメニューがある。これらの物資を運ぶのが歩荷の重要な仕事だ。
渡邊さんは「最初は小屋開けの時に1回だけヘリコプターを飛ばすんですけど、半年分全部を荷上げするわけにはいかないんで、しまっておける場所も限られるので、売り切れたあとは全部人力であげるしかない」と説明する。
50kgの荷物と闘う歩荷の技術
渡邊さんは2024年の6月末から7月21日までの22日間、お山開き大祭や山荘の歩荷としてほぼ毎日、山頂へ荷上げをしている。その荷物の重さは、なんと50kgにも及ぶ。
背負子(しょいこ)と呼ばれる運搬具に荷物を積む際、渡邊さんは「背負う時に体のど真ん中に一番重い荷物がくるように」と説明する。
背負子を背負った際に荷物全体の重心が肩や首の周辺にくるように荷物を配置することで、荷物の重さが体にまっすぐかかり、歩きやすくなるのだ。
渡邊さんが登るのは久万高原町の登山口となる土小屋ルート。山頂まで4.6kmの道のりで、標高差は約500メートルある。渡邊さんは「歩荷中は勢いをつけず静かに歩くことがポイント」だという。
歩数が増えても良いので、できるだけ小さな段差を選ぶという。しかし、夏の暑さは歩荷にとって大きな障害となる。渡邊さんは「この暑さは歩荷には厳しいですね。体力奪われるんで」と語る。
「昨日、一昨日は休みを入れましたけど、それまで17日間連続で歩荷したもので、体がだいぶガタがきてましたね」と、その過酷さを物語る。
最後の難関は、二ノ鎖の下にある休憩所から山頂までの桟道と階段だ。約100mの標高をひたすら上げていく。渡邊さんは「ここからが地味にきつい所でしてね。ずっと階段が続くんですよね。ここまでの疲労が蓄積した状態で登ると、がっつりと足にくるんですよね」と説明する。
写真家の眼で捉える石鎚山の魅力
渡邊さんが歩荷を続けるのは、自身のトレーニング以外にもうひとつ理由がある。
「地元の山で重い荷物作って登るトレーニングしてもかまわないが、どうせだったら人が必要としている荷物があるなら運んで役に立てるならそっちのほうが良い。やりがいにもなるし喜んでもらえるし。そういう意味でやっていて楽しい」と語る。
渡邊さんらが運んだ荷物は山荘の運営を支え、登山者に山頂での楽しみを提供している。カレーを食べる登山者は「すっごくおいしいです。全国転勤で愛媛を離れるので最後の思い出に登山しました」と語った。
実は渡邊さんは風景写真家で、1年の大半を全国の山々などをめぐり撮影活動をしている。その中でも石鎚山に「強い魅力」を感じているという。
渡邊さんは「石鎚神社が山頂にあって、山岳信仰の対象として歴史があるのと、信者さんが登ってきたり通常の登山客もいるしで色んな人が登ってくるからそれ自体がおもしろい」と石鎚山の魅力を語る。
さらに「あとは天狗岳ですよね。ここから見る天狗岳が格好良い」と付け加える。
渡邊さんは撮影の際、1~2週間の間、山に泊まり込むため、機材やテントなどの荷物は30~40kgもの重さになる。「荷物を楽に背負えないと山が楽しめない。体力をつけるために歩荷の仕事をやっている部分が大きい」と語る。
紅葉で真っ赤に染まる天狗岳や、木々の枝先に凍り付いた霧氷など、季節ごとに様々な表情を見せる石鎚の大自然。渡邊さんはこれらの美しい風景を写真に収めている。
渡邊さんは「初めて北アルプスに行ったとき、たまたまですけどすごく良い写真が撮れたんですよ。そのあたりから写真おもしろいなって思い始めて」と写真を始めたきっかけを語った。
「人間の力が及ばない姿に魅力を感じている。人間がどれだけ頑張ってもこの風景を作りだせない。自分が撮りたい写真は自分の目で見たもの。それが本当にあったんだよっていうのを写真に残したい」と、写真に対する思いを熱く語った。
山の魅力を写真で伝え続ける渡邊さん。
石鎚山の歩荷で鍛え上げられた体力と情熱が、その活動を支えている。
(テレビ愛媛)