空前のブーム?『万葉集』が品薄に…

初春の令月にして
気淑く風和ぎ
梅は鏡前の粉を披き
蘭は珮後の香を薫らす

4月1日に発表された新元号「令和」。
その典拠となったのが、『万葉集』梅花の歌32首のこの序文だ。

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『万葉集』は8世紀に完成し、さまざまな身分の人が詠んだ4500首以上を収録している日本最古の和歌集。
例えば、誰もが聞いたことのあるだろう有名な歌には

あをによし 奈良の都は 咲く花の 
にほふがごとく 今盛りなり (小野老)

春過ぎて 夏来るらし 白栲の
衣干したり 天の香具山 (持統天皇)

などがある。

新元号発表後から、この『万葉集』には熱視線が。
書店で特設コーナーが作られる中、株式会社KADOKAWAでは『新版 万葉集』(一~四、伊藤博訳注・角川ソフィア文庫)や、厳選した140首について解説した『万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(角川書店編・角川ソフィア文庫)に問い合わせが殺到。
4月3日現在最も売れているという『万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』を含めた関連書籍7点に、合計5万部の重版が決定したのだ。

『万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』 編:角川書店 角川ソフィア文庫
『新版 万葉集 一 現代語訳付き』注訳:伊藤 博 角川ソフィア文庫 (注:この新オビ付作品が店頭に並ぶのは4月12日(金)以降)

この“1200年越しのベストセラー”に、ネット上では「日本の古典に親しもうという動きがすぐに出てくるのは良いこと」といった喜びの声や、「万葉集が完売って、今何世紀なんだ…」など、とまどいもあった。

しかし、おそらく学生時代に古典の授業で触れて以来、全く読んでいない…という人が大半だろう『万葉集』。
この機会に読んでみよう、という人たちのために、その魅力などを株式会社KADOKAWAの角川ソフィア文庫・大林哲也編集長に伺った。

「人間の喜怒哀楽が詰まった歌集」

――『万葉集』の面白さはどこにある?

人間が感じたもの、等身大の喜怒哀楽が詰まっているという点ではないでしょうか。
詠まれているものが決して「古いものではない」ということを再発見できると思います。

お話を聞いた中で挙がったのは、『万葉集』に収められている歌がどれも「古くない」ということ。
恋に焦がれる歌や離別の悲しみをうたった歌、子どもを思う歌や酒を楽しむ歌など、題材は色々だが、その感情が理解できない歌はないという。

例えば、

朝寝髪 我れは梳らじ うるはしき
君が手枕 触れてしものを (作者未詳)

恋人が触れていた自分の髪をいとおしく思い、寝起きで乱れたままだが「とかさないでおこう」と思う歌だ。
ロマンチックな歌だが、愛情を持って触れられたことで自分自身を大切に思う、という気持ちは今も理解されるに違いない。

銀も 金も玉も 何せむに
まされる宝 子にしかめやも (山上憶良)

「どんな宝物も、子供に比べたら一体何になるだろう」という歌。
親から子供への愛情は今も昔も変わらない、共感を呼ぶ普遍的な内容だ。

1200年の時を経ても廃れず、現代の人が読んでも共感できる歌がある、というところが『万葉集』の魅力のひとつのようだ。

――この“万葉集ブーム”をどう感じている?

古典文学がこれほど日本全国から注目されるのはかつてなく、嬉しい“大きな誤算”と感じています。


――『万葉集』を読むにあたって、身につけておきたい知識などはある?

私見ですが、特に下準備というものは必要ないと思います。
むしろ、先入観を持たずに読んでいただいた方が楽しめるのではないかと思います。

大林編集長によると、ここまでの万葉集ブームは「今まで見たことがなく、これからも起きにくいのでは」とのこと。
学生時代に触れて以来読んでいない、という人が多いからこそ、あえて事前学習なしに読んでみるのもひとつの楽しみ方のようだ。

新元号の典拠となった初の国書ということで注目されている『万葉集』。
今一度手に取ってみると、学生時代とはまた違う歴史の感じ方ができるかもしれない。