「デジタル薬」とは?

みなさんは「デジタル薬」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
情報技術を導入した医薬品を指す言葉で、近年では、錠剤のセンサーと体に付けた機器で薬の飲み忘れ防止を実現したケースもある。

近い将来、この「デジタル薬」に新たな事例が加わるかもしれない。
医薬品を取り扱う「塩野義製薬株式会社」(以下:塩野義製薬)が、発達障害の治療を目的とした「治療用ゲームアプリ」の販売に参入すると発表したのだ。

この「治療用ゲームアプリ」は、スマートフォンやタブレット端末でプレイすることで、発達障害の症状を改善できるというもの。
塩野義製薬は今回、米国のベンチャー企業が開発したアプリの販売権を獲得。将来的な販売を目指し、臨床試験などを進める方針を示している。

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厚生労働省が行った2016年の調査によると、国勢調査の調査区に居住する在宅の障害児・者などのうち、約48万人が発達障害と推計された。
また、文部科学省が2012年に全国の公立小中学校で行った調査では、児童生徒の6.5%に「発達障害の可能性がある」という結果も出ている。

ゲームを楽しみながら発達障害の症状を改善できれば、本人や家族の悩みを軽減することにもつながるはずだ。
「治療用ゲームアプリ」の販売に参入した理由などを、塩野義製薬の担当者に聞いてみた。

「薬剤はあくまで治療法の一つ」

――なぜ「治療用ゲームアプリ」の販売に参入した?

当社は経営計画の一環として「個人が生き生きとした社会創り」を掲げ、発達障害者の支援に取り組んでいます。
発達障害の治療には、薬剤を服用することもありますが、それだけで治療が完結する訳ではありません。
疾患に苦しむ患者の選択肢の一つになればと、「治療用ゲームアプリ」の販売に参入しました。


――薬剤だけで治療が完結しないとは?

発達障害の治療において、薬剤はあくまで治療法の一つでしかありません。
例えば、国内ではADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬がありますが、服用しても効果が低かったり、副作用が表れることもあります。
発達障害の治療には、薬物の服用だけではなく、疾患に対する周囲の理解やサポートなど、さまざまな選択肢が必要なのです。


――今回販売権を得たアプリは、発達障害のどの症状に対応する?

それぞれ別のアプリになる予定ですが、小児におけるADHDとASD(自閉スペクトラム症)の改善に対応する予定です。

ADHDの改善を目的としたアプリは、認知機能に重要な役割を果たすとされる「脳の前頭前野」を活性化するように設計してあります。
米国では、ADHDと診断された小児患者に対する試験も行い、「デジタル治療用アプリ」として、アメリカ食品医薬品局にも申請されています。

ASDの改善を目的としたアプリは、ASDによる不注意の症状を改善する予定ですが、まだ開発途中となります。
こちらについては、臨床試験を行い、症状に対する効果や安全性などを確認していく方針です。

どちらのアプリに関しても、「医療機器」として国内で販売するには認可を受ける必要があります。
リリースするにしても、数年単位の時間がかかると思われます。

アプリのイメージ
アプリのイメージ

利用には医師の指導が必要となる見込み

――ゲームの内容は?症状の改善にはどう役立つ?

アプリでは「障害物を回避する操作」と「特定の対象物に反応する操作」という、二つの異なる課題に同時に取り組んでもらいます。
いかだに乗り、障害物を避けながら進んでもらうイメージです。画面上に登場するアイコンをタップしてもらうこともあります。

ADHDの患者は大脳皮質機能が低い傾向にありますが、このような動作で持続的な刺激を与え続けることで、注意機能の改善が期待できます。


――アプリがリリースされた場合、誰でも利用できる?

このアプリは「医療機器」に該当するため、利用するには医師の指導に基づいた決定が必要となります。
アップルストアやグーグルプレイといったストアには登場しますが、誰でも利用できる状況にはならないと思われます。
発達障害と判断された方に病院側などからコードを発行し、そのコードを入力して利用してもらうことになるでしょう。


――今後の展開は?

アプリの発売時期や料金などを含め、まだ未定な部分が多いです。
今後は臨床試験など、必要な手続きを進めていく方針です。

周囲の見守りも大切(画像はイメージ)
周囲の見守りも大切(画像はイメージ)

まだ未定な部分が多かった「治療用ゲームアプリ」だが、リリースされれば発達障害に悩む人や家族の貴重な選択肢となるはず。
「デジタル薬」という分野の普及も含めて、今後の展望に期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。