世間の度肝を抜いた3月6日の変装保釈劇から約1ヵ月。
4月4日午前6時すぎ、東京地検特捜部の車がゴーン容疑者の制限住居に入り、係官によって車の前にシルバーのカバーがかけられた。
そして、午前6時45分ごろ、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者がまたしても逮捕された。保釈後の逮捕は異例だ。
今回の身柄の移送に使われたのは、奇しくも日産のワゴン車だった。

4回目となる逮捕の容疑は、特別背任。
「中東日産」からオマーンの友人の代理店に資金支出をしたとされる、いわゆる“オマーンルート”を通じて行われた、日産の資金約5億6000万円の私的流用だ。
「人質司法だ。ゴーン氏の動画は公開する」弘中弁護士が会見で怒り
ゴーン容疑者は、「検察は私を黙らせようとしているが、真実は必ず明らかになる。私は無罪だ」と4日朝、改めて潔白を主張する声明を発表した。
さらに、弁護側のも東京地検特捜部による異例の捜査を批判。4日午後3時すぎに弘中惇一郎弁護士が怒りの会見を開いた。

弘中惇一郎弁護士:
身柄拘束したわけですから、身柄拘束という状態を利用して被告に圧力をかける、そういう意味で人質司法であると思います。逮捕に伴う捜索・押収として、ゴーンさんは、持っていた電話、書類、ノート、日記を全部持っていかれました。法律の定めたところに反するものだと考えておりますし、文明国としてはあってはならない暴挙だと思っています。
また、4回目の逮捕を受けてフランスでは、ゴーン容疑者の家族の弁護士であるフランソワ・ジムレ氏が、「ゴーンの家族も非常にショックを受け、打ちひしがれている。我々は、人権侵害について改めて国連に通報する」と発言した。
ゴーン容疑者は、突如開設した自身のツイッターで3日、11日木曜日に会見を開くことを明らかにしたばかりだった。

何が起きているのか真実をお話しする準備をしています。
4月11日木曜日に記者会見をします。
(ゴーン容疑者のツイッターより。4月3日午後1時5分投稿)
弘中弁護士は会見で、「(予定していた会見と)全く同じかはわからないが、ゴーンさんとして最低限言うべきステートメント(声明)は、動画として記録して、それは公開する予定です」と述べた。
弁護側からの人質司法だという批判に対し、検察幹部は次のように話している。
保釈中の異例の逮捕はなぜこのタイミングだったのか?
検察側の思惑と捜査の今後をフジテレビ社会部の平松秀敏デスクがひも解く。
不測の事態を防ぐため「早朝の任意同行」となったか
木村拓也キャスター:
昨年の11月19日に逮捕、12月10日に再逮捕とされていますが、この時の容疑は自らの役員報酬を過少に記載した金融商品取引法違反の容疑でした。
12月21日の3度目の逮捕は特別背任。これは、サウジアラビアの知人に日産の資金を不正に送金したという容疑でした。(サウジアラビアルート)
それから沈黙を貫いていたのですが、4月3日になって「4月11日木曜日に記者会見をします」と日本語でツイートしました。
加藤綾子キャスター:
なぜ追起訴ではなくて逮捕だったのかが気になります。
平松秀敏デスク:
特捜部としては、しっかりと身柄を押さえて自分の管理下に置いて、ゴーン容疑者の話を聞きたいとそう思ったのでしょう。ゴーン容疑者側は徹底抗戦ですから、そうすると逮捕という道を選ばざるを得なかったというのが、特捜部側の思惑だと思います。
加藤綾子キャスター:
朝の5時50分ごろという時間には何か意味があるんですか?

平松秀敏デスク:
特捜部の家宅捜索なり任意同行なり連行なりが、朝の5時50分に行われることなんて、過去にほとんどないと思います。これは予想ですが、早めに身柄を押さえないと何か不測の事態が起きかねない、例えば、逃亡ということはないでしょうが、自殺したりだとか証拠隠滅に走るだとか、そういう可能性があると踏んで、異例の早朝の任意同行になったんだろうと思います。
加藤綾子キャスター:
保釈中に逮捕されることはとても珍しいことだと思いますが?
平松秀敏デスク:
私もこういう取材は長いんですけども、これまでに1回あるかないかというぐらい珍しいです。
ただ、3月6日の保釈というのが、もともと異例だったんです。要は、特捜部事件で否認をしている被告について、保釈がすぐ認められることはほとんどなかったにも関わらず、東京地裁はここで保釈を認めた。
ということは、保釈を認められたらここは逮捕せざるを得ないだろうという、異例の逮捕に踏み切らざるを得なかった、というのが現状だと思います。

風間晋キャスター(フジテレビ報道局解説委員):
でも、平松さん。事情に通じている人たちの間では、異例の保釈があった直後に、特捜はすぐにも4回目の逮捕に踏み切るだろうという見方もかなりあったわけじゃないですか。それがなぜ1カ月後なのか?というのが、ちょっと疑問です。
平松秀敏デスク:
それは、「足場が悪い」とよく言われるんですが、今回の事件の舞台は全部海外なんですよ。しかも中東だったり、別の案件だとブラジルだったり。そのため、なかなか日本にいる時のように東京地検特捜部が出て行って捜査ができる環境ではない。
「オマーンルートは“本丸”」会見予告が逮捕の引き金に?
木村拓也キャスター:
今回、特別背任の容疑がかかっている“オマーンルート”を整理します。
ゴーン容疑者は、日産の子会社である中東日産から、オマーンの友人がオーナーを務めている販売代理店に約35億円を支出しました。
約5億6000万円がこの代理店から、ゴーン容疑者が実質的に支配している会社に流用されて、結果、日産に損害を与えた疑いがある。これが「オマーンルート」と呼ばれるものです。

加藤綾子キャスター:
東京地検にとって、オマーンルートでの立件というはどのような意味を持つのでしょうか?
平松秀敏デスク:
東京地検特捜部にとってみれば、恐らくこれが本丸だと思います。なぜかというと、見ていただいたら分かる通り、日産から出たお金が結局、中東の子会社をとオマーンの代理店を経て、ゴーン容疑者自身の支配下にある会社に流れたということは、イコール私物化なんですよ。
つまり、私的流用というのが明確に出ている部分なんですね。だから、これを本丸とする今回の捜査は、一連の事件で非常に意義のあるものだと思います。
加藤綾子キャスター:
でも、海外の事件で証拠を集めるのは大変ではないですか?
風間晋キャスター:
大変ですよね。ポイントは、知人からゴーン容疑者が支配する会社への5億6000万円の金の動きだと思いますが、ゴーン容疑者はそれが分かってしまうようなやり方をするのか、と。
それでは、あまりにも間が抜けてるだろうと思うんですが、それがちょうどこの1ヵ月の間に分かるってことがあるんですかね。

平松秀敏デスク:
その可能性を否定はしませんけれども。ただ、今後の捜査は日産が全面的に協力しないと成り立たないので。そう考えると、海外は足場は悪いけれども、変な話ですが、日産の全面バックアップがあるので、成り立っていくのだと思います。
加藤綾子キャスター:
平松秀敏デスク:
検察関係者は、ツイッターも記者会見も織り込み済みだと。「関係ないよ」と言っているんですが、ツイッターは一方的に発信できますから。
捜査関係者なり事情を聞かれるような人に、自分の意思を伝えることが一方的にできるので、これは特捜部としても検察庁の上層部としても、「おかしいんじゃないの。まずいんじゃないの」という判断に至って、4日の異例の着手になったのかもしれないという気はします。
(「Live News it!」4月4日放送分より)