4月3日、東京・台場のフジテレビ本社で、トークイベント『seek∞』が開催された。
500人以上が来場したイベントは今年3月8日から17日にかけて、アメリカ・テキサス州オースティンで開催された「SXSW(サウスバイサウスウエスト)2019」の報告会。
第一部では、AOI Pro.北村久美子氏、博報堂DYメディアパートナーズ加藤薫氏、電通榊良祐氏、シチズン時計大石正樹氏・山崎翔太氏、経済産業省宇留賀敬一氏、メディアアーティスト落合陽一氏、クオン水野和寛氏が登壇した。

SXSWは、テクノロジー、音楽、映画の3ジャンルを横断する世界最大規模の祭典で、TwitterやAirbnbが世界的に広がったきっかけとして知られている。
今年も世界中から最先端のテクノロジー企業やイノベーター、投資家などが集結し、活気に包まれた。
『seek∞』では、まず“SXSW2019”で、日本館『The New Japan Islands』を手掛けた一人、株式会社AOI Pro.の北村久美子情報開発プロジェクトリーダーらが今年のトレンドを紹介した。

日本のコンテンツは世界に通用するか
続いて登壇したのは、株式会社電通のデザインストラテジスト、榊良祐氏。
榊氏は、SXSW2018で話題となった「寿司テレポーテーション」に続き、SXSW2019ではさらにバージョンアップした「寿司シンギュラリティ」を発表した。

いったい、どういうことかというと…
『食を転送できたら面白いのでは…』
4年間にわたり、「食を転送する」をテーマに開発を進める榊氏は、「OPENMEALS」プロジェクトを母体に、あらゆる料理をデータ化して転送、それを出力する研究を進めている。目指すは「データ食」革命!
「食を転送する」ということは、寿司をデータ化して特殊3Dプリンターで出力すれば、宇宙でも寿司を食べることが可能になるという発想だ。

まず、既存の料理を「形状」「触感」「味」を別々にデータ化。
それを「食のデータ」としてオンライン上にアップし、世界中のどこからでもダウンロードして、食べられる素材を用いてフードプリンターから出力できるようにする構想。

一貫30分、一人前は5時間!
榊氏
「今、だいたいお寿司一貫に30分かかる。一人前は5時間ぐらい!全然まだ商売には使えないが、展示は大盛況だった。SXSWをきっかけに世界中で取り上げていただき、知名度が上がり、いろいろな人に協力してもらいやすくなった」
今では、大学の先生やプリンターのエンジニア、リサーチャー、料理人、テクノロジスト、3Dプリンター素材の研究をしている人など協力者が増えているという。

オープンイノベーションで『知』を集結
今回のSXSW2019で発表した「超未来型レストラン」。
インターネットを繋げることで大きく2つの革命が起きると予測している。
1つ目は、“食”が世界中の人とつながる。
榊氏
「今まで『食』はお母さんが作って家族にふるまう、シェフが作ってレストランの客にふるまうものだったが、データ化することで食がオンライン上で制作されて、編集されて、共有されることで自分が作った料理が世界中の人とシェアできる」
2つ目は、“食”が体内とつながる。
榊氏
「ヘルステックのベンチャーと連携して、DNAや腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)など自分の体内のデータと食のデータをつなぎ合わせて最適なパーソナライズされた食を提供できるようになる」
パーソナライズされた“食”を提供

このレストランの大きな特徴は、オンラインで予約するとまずヘルステストキットが送られてくる。DNAや唾液などを送ると、ヘルスデータが解析されてヘルスIDとして個人に発行される。そのIDをもとにレストランに行くとカスタマイズされた最適な料理が提供される。
レストランは2020年のオープンを目指しているという!
SXSWを使い倒せ!
最後に、SXSWをフル活用して得た、3つの大きな投資対効果を明かした。
①チーム力の劇的な成長…4日間に渡り、一日100回以上のプレゼンで団結力。
②プロダクトバリューの再発見…世界中の様々な社会的背景の人たちからフィードバックを受けることができ、日本のマーケットだけでは想像できなかった“新しいバリュー”が見付かる。
③イノベーティブな人脈を一括で獲得…尖った感性の人や起業家が集まっている場所なので、なかなか日本では出会えない人たちとつながれる。
企業内でイノベーションを起こすには…

一方で、“企業内イノベーション”を起こして、SXSW2019に初出展した企業がある。
シチズン時計株式会社の大石正樹氏と山崎翔太氏は、IoTプラットフォーム「Riiiver」をSXSW2019で発表。
「Riiiver」は、ユーザーが自らの意思で欲しい機能を搭載できるカスタマイズ機能のある新しいスマートウォッチの基盤となるIoTプラットホーム。
腕時計のボタンを押すと配車サービスが利用できたり、IoT家電につなげたり、自分のライフスタイルに合わせて機能をカスタマイズできる。
「人を外からとるのではなく、中でやる気のある人を公募」
大石氏
「時計というモノではなく、Riiiverというコトを発表する場として、SXSW2019を選んだ。ダメだった場合はどこがダメだったのかを広く漁りたかった」
会社として決めたのは、「人を外からとるのではなく、中でやる気のあるやつを公募する」こと。
チームが出来上がり、走り出したプロジェクトだったが…
山崎氏
「出展の半年前になってもブツができていない。
“こうゆうのはきっと出来ます”、“こうゆうことも多分大丈夫です”といったレベル。
一つ安心できたことは、出すところがSXSWだということ。できなかった場合は最後は夢を語ろうとなった」
展示は無事成功し、商品は今年秋に一般発売予定だという。
「イノベーションに必要なのは『勢いと決断』。社内外を巻き込んで推進することが大事」と語った。
世界一愛されるキャラクター作りに挑戦!

キレのある踊りで会場を和ませる魚くん。
SNSスタンプ100種類以上の自主キャラクターを開発し、世界で流通させる株式会社クオンの人気キャラの一つで、名前は「ビジネスフィッシュ」。
日本名は、「魚係長代理」。
2018年12月時点で、26億という世界ナンバーワンのダウンロード数を誇り、送受信回数の累計は480億回。
会社の知名度は低いが、キャラクターは世界に広く知られている。
クオン・水野和寛代表取締役
「絵文字、スタンプは圧倒的に日本が進んでいる。アメリカではようやく2013年ごろから流行りだした。
日本の中にすでにあるカルチャー、コンテンツで世界に通じるものがあると思いひたすらやってきた」

人気キャラは国によって全く違う。イスラム圏では土下座が人気!?
水野氏
「それぞれの国で、どういうシチュエーションでどういったキャラクターが使われているかを膨大なデータ解析によって開発にあたっている。
日本は、頭を下げるスタンプをすごく使うが、大抵の国では謝ったら負けなので使われない。
土下座のスタンプは基本的に日本でしか使われないと思っていたが、ある時データを見て気付いたのは、イスラム圏では日本と同じくらい使われていた。謝るのではなく、お祈りの意味で使っていた」
日本にいながら世界中の国に対してインターネットの力を使ってコンテンツを作り、発信している。

イベントではネットワーキングなど、参加者が主体的にかかわる試みも行われた。
14年連続モバイルノートPCシェアが1位のレッツノート。
『seek∞』では、事前に募集・選考したリポーターに会場で最新のレッツノートを無償で貸し出し、プレス席で取材、リポーターが運営するブログなどに記事を掲載した。
リポーターの一人は、
「会場でレッツノートを借りてメモができたのでとても便利で助かった。打ったときの指にあたる感触がサラサラしていて気持ちよかった」などと話した。

また、最新のレッツノートに触れられるブースも設置され、多くの来場者に体験の場を提供した。

第二部では、ライトニングトーク&ネットワーキングとして岩田裕平氏(NTTコミュニケーションズ)、寺記夫(フジテレビ)、藤本太一氏(ハイ)、布施優樹(GROOVE X)、岡本侑子(kiCk inc.)、森本隼翔(360Channel)がセッションを行い、それぞれが見たSXSW2019を解説した。