トランプ大統領が2016年の大統領選挙で自らの選挙を有利に進めるためにロシア政府当局と共謀したことを示す「証拠」はなかった。これが22か月かけてアメリカ司法当局が出した「捜査結果」である。

世論調査の結果は?
先月末、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが共同で全米1000人を対象に世論調査を行った。その結果はこうだ。
Q1ムラー特別検察官の捜査結果はトランプ大統領の潔白を証明するか?
潔白を証明しない 40%
潔白を証明する 29%
どちらともいえない 31%
Q2トランプ大統領を弾劾するべきか?
弾劾されるべきではなく大統領の任期を全うするべき 47%
捜査を継続し、証拠がそろったら弾劾するべき 33%
証拠は十分で議会は今すぐ弾劾すべき 16%
Q3トランプ大統領を支持するか?
支持する 43%(前月比3%減)
支持しない 53%(前月比1%増)
どちらともいえない 3%
世論調査は、「捜査結果」がアメリカ国民にとって釈然としないものだったことを示している。
アメリカ国民が感じるもやもやしたものは、一体何なのだろうか。
ジョン・ガードナー氏インタビュー
2001年に発足したジョージ・W・ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたジョン・ガードナー氏にワシントンで話を聞いた。

記者:捜査結果はトランプ大統領の潔白を証明しないと考える人が多いのはなぜ?
ジョン・ガードナー氏:
ムラー特別検察官の報告書は300ページ以上あると言われているが公開されたのはその中のわずか101単語。
トランプ大統領の友人や側近と呼ばれた人間が次々と起訴され裁判がまだ続いている状況に人々は内心“何かしらの不正は有ったはず!”という気持ちがぬぐえないのだろう。
記者:ムラー報告書はアメリカ社会に何をもたらしたか?
ガードナー氏:
ムラー報告書が、国民の二極化に終止符を打つきっかけになると考えていたが残念ながら、二極化に油を注ぐ結果となった。
アメリカの分断はさらに進んだと思う。共和党の議員は弱虫ばかりでトランプ大統領に反対の意見を益々言えなくなった。地元の支持者には、トランプ大統領のツイッターをフォローする熱烈な支持者がいて、こうした支持層への配慮もあるのだろう。トランプ大統領の岩盤支持層は、やはり“魔女狩りだった”と結束を強めている。
一方で、米メディアの多くはトランプ大統領の批判的な報道を連日放送している。こうした環境はアメリカの分断を深刻なものにしている。
アメリカを二分する議論はこれまで多くあった。しかし、かつては意見が違っていても基本的な価値観は共有していた。しかし、今は議論の土台となる共通の価値観が完全になくなってしまった。
これは本当に悲しいことだ。
「2020年の再選は難しい」

記者:トランプ大統領は2020年の大統領選勝利に自信があると思うか
ガードナー氏:
間違いなく、再選を確信しているだろう。今回ロシア疑惑を巡り“潔白”が証明された事をアピールして、大々的に資金集めを開始している。怒りと分断を煽ることで自らの支持層を固めるのがトランプ流だ。2020年に向けあと1年7か月、トランプ大統領は不当な糾弾を受けた実例としてこのロシア疑惑をとことん利用するだろう。自らの立場を正当化し、反対するものを批判する最強の武器を手に入れた。
記者:ということは、トランプ大統領が再選の可能性は高い?
ガードナー氏:
いや、実は2020年の再選は難しいと考えている。
接戦州である1つか2つの州が民主党に転じ、選挙人の多数を民主党に奪われれば彼は確実に負ける。ウィスコンシン州やペンシルベニア州はその意味で注目の接戦州だ。特にウィスコンシン州は去年11月に行われた知事選で民主党が逆転勝利した(知事選は州ごとに選出は1人のため州全体の傾向が表れやすい)2020年の大統領選では共和党がウィスコンシン州で再度勝利するのは難しいと思う。
ただ、番狂わせの要素は2つある。
1つは経済状況。そして、民主党の大統領候補のスタンス、急進左派か。
中道の候補を選出できれば民主党が勝てる可能性は大きい。
しかし、バーニー・サンダース上院議員の様に急進左派の大統領候補者を
民主党が選出すればトランプに有利になるだろう、アメリカの大統領選挙は中道の浮動票をどれだけ集められるかがいつも決め手になるからだ。
“分断と怒り”を推進力に変えるトランプ流
記者の目:
大統領選まであと約1年半。トランプ大統領は5日カルフォルニア州を訪れて新しく完成した高さ9メートルに及ぶメキシコ国境の壁を視察した。
「この壁を、(不法移民が)乗り越えようとすれば何が起こるか思い知るだろう」
トランプ大統領は不法移民の管理厳格化をメキシコに迫るため、メキシコ国境を閉鎖すると言い出した。ムラー報告書の内容が発表されて一か月もたっていないが、トランプ大統領は分断と怒りを煽り、支持層を結束させる新たな争点を求めて、すでに動き出しているようだ。
