最新鋭ステルス機墜落事故の3つの疑問 

航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機、F-35Aが青森県沖の太平洋上で墜落してから、4月16日で1週間を迎える。

事故は、9日午後7時半ごろ、航空自衛隊三沢基地所属のF-35A戦闘機1機が三沢基地の東、約135キロの太平洋上を飛行していた際、機影がレーダーから消え、無線連絡も途絶えたものだ。現場周辺の海域で、左右の尾翼の一部が見つかったことから、防衛省は10日、この戦闘機が墜落したと断定した。

墜落したF-35A戦闘機(航空自衛隊提供)
墜落したF-35A戦闘機(航空自衛隊提供)
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現場周辺の海域では、行方不明となっているパイロットの細見彰里3等空佐(41)と機体の捜索が24時間態勢で続けられているが、機体の大部分が見つかっていないことから、事故原因の調査は長期化する可能性がある。この事故をめぐる3つの疑問を検証する。

青森県沖での捜索活動
青森県沖での捜索活動

ステルス機なのにレーダーに映る!? 

1つめの疑問。F-35Aはレーダーに探知されにくい最新鋭のステルス戦闘機だ。それなのになぜレーダーに映っていたのか。

航空自衛隊によると、「安全管理のためにレーダーに映るようにしていた」 (航空幕僚監部)ということで、「レーダーリフレクター」というレーダー波の反射装置を使っていたことが考えられる。訓練によっては、ステルス性能のない外部燃料タンクなどを取り付け、あえてレーダーに映るようにすることもあるという。また、訓練中は自機の識別信号などを発信する「ATCトランスポンダ」を使い、地上の管制用レーダーで機体の高度や位置情報が把握できる仕組みになっている。

事故機は、9日午後6時59分、夜間の対戦闘機戦闘訓練のため、ほかの3機と共に三沢基地を離陸。訓練空域には10分ほどで到達した。パイロットの細見彰里3等空佐(41)は、総飛行時間が約3200時間のベテランで、F-35Aの飛行時間は約60時間。訓練では「編隊長」として、ほかの3機を指揮する立場だった。
4機は2機ずつに分かれて攻撃と防御の訓練をはじめたところ、午後7時26分、攻撃側だった細見3佐が「ノック・イット・オフ(Knock it off = 訓練中止)」と無線で伝え、1分後の午後7時27分に機影がレーダーから消えた。
戦闘機のパイロットは、緊急時に座席ごと射出される「緊急脱出」を行うが、今回の事故では、そうした形跡がなく、脱出後にパイロットの位置を示す「ビーコン」と呼ばれる発信機からの救難信号も確認されていない。

(航空自衛隊提供)
(航空自衛隊提供)

中国、ロシアが機体を狙っている!? 

2つめの疑問。F-35Aは機密性が高く、中国やロシアが機体回収に乗り出すとの懸念が出ているが、なぜ狙われるのだろうか。

F-35は、高度な情報収集能力を持つ「空飛ぶセンサー」ともいわれ、その情報をリアルタイムで共有できる「データリンク」を備えている。元防衛相の中谷元衆院議員は9日、BSフジの番組で「世界の安全保障に大きな影響を与える事故だ」と指摘した上で、「世界最高の機密が詰まった戦闘機で、ひとつの断片でも各国が狙っている」と危機感をあらわにした。

中谷元 元防衛相(BSフジ「プライムニュース」4月10日放送)
中谷元 元防衛相(BSフジ「プライムニュース」4月10日放送)

中谷氏は「ステルス性能や中国、ロシアが開発している極超音速滑空体(ミサイル)を発射直後に叩くための性能を開発中で(西側)各国に影響を与える」ため、「アメリカも血眼になって探している」と強調。また、自衛隊制服組トップの山崎幸二統合幕僚長は、11日の記者会見で「周辺国の艦艇等の動きは、常に監視している」とけん制した。これまでに現場海域では、特異な動きは確認されていないという。 

山崎幸二統合幕僚長
山崎幸二統合幕僚長

現場周辺の海域では、細見3佐と機体の捜索が24時間態勢で続けられている。
自衛隊は、空自のU-125A救難捜索機やSH-60J哨戒ヘリコプターなど航空機5機、海底を面で探索できるマルチビーム測深器を搭載した海自の潜水艦救難艦「ちよだ」など艦艇6隻。
海上保安庁は、巡視船「しもきた」と「まべち」。
米軍はイージス駆逐艦「ステザム」やP-8哨戒機のほか、グアム島配備のB-52H爆撃機や韓国展開のU-2S高高度偵察機も飛行させた。」 
政府関係者は「米艦船は捜索とは異なる動きをしていて、中国やロシアをけん制している」との見方を示した。

国際共同開発機で日本製!? 

そして第3の疑問。空自に配備されているF-35Aは最終組み立てを日本で行ったものとアメリカで行ったものがある。なぜ組み立て国が違うのだろうか。

F-35は、アメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、オーストラリアの9カ国による国際共同開発機だ。アメリカ空軍仕様のF-35Aは、ロッキード・マーティンが製造した4機に加え、三菱重工が機体の最終組み立てと検査(FACO = Final Assembly and Check-Out)を行った9機の、合わせて13機が航空自衛隊に納入された。

このうち、事故機(機体番号:79-8705)は、三菱重工小牧南工場内のFACOで組み立てられた初号機だ。日本では、国内の防衛産業の育成という観点から、FACOを三菱重工が行ってきたが、初号機の調達価格は約140億円で、完成機を輸入した場合の約116億円よりも割高になるため、現在は完成機の輸入に切り替えられている。

(提供:航空自衛隊)
(提供:航空自衛隊)

防衛装備庁などによると、事故機は2017年6月20日、試験飛行中に機体の冷却系統の警報が作動し、愛知県営名古屋空港に緊急着陸。また、三沢基地配備後の2018年8月8日には、航行機材の不具合で航空自衛隊の千歳基地に緊急着陸した。いずれも問題があった部品を交換して飛行を再開している。

空自幹部は「冷却系統は車で言えばエアコン、航行機材はカーナビのようなもので、飛行に影響するような不具合ではない」というが、岩屋毅防衛相は12日の記者会見で、今回の墜落と過去の不具合の関連を調査する考えを示した。フジテレビの能勢伸之解説委員は「事故原因の徹底究明とともに、日本周辺の脅威に対応したF-35Aの運用体制も忘れてはならない」と指摘している。

岩屋防衛相の会見(4月12日)
岩屋防衛相の会見(4月12日)

(フジテレビ政治部 防衛省担当 伊藤聖)

伊藤聖
伊藤聖

フジテレビ 報道局 政治部