日本一の水揚げを誇る宮城県気仙沼市のカツオに、今ある変化が起きている。
6月から10月ごろまで水揚げされる気仙沼のカツオ。夏にかけては南から北上してくる「初ガツオ」が旬を迎える。身が締まり、赤身が多いため、さっぱりとした味わいが特長だが、今年は脂たっぷりの、まるで「戻りガツオ」のようなカツオが水揚げされているという。うれしい異変の背景には、カツオの意外な習性があった。
飲食店も漁師も絶賛 奇跡のカツオ
生鮮カツオの水揚げ量で27年連続日本一を記録する気仙沼港。今年も6月から水揚げが始まり、港は活気に満ちている。そんな中で、漁師も「去年の戻りガツオよりおいしい」と評するカツオが次々と三陸沖でとれているという。
この記事の画像(6枚)春から夏にかけて黒潮に乗って北上するカツオ。千島列島に沿って南下する親潮と黒潮がぶつかる三陸沖でたっぷりとえさを食べた後、秋ごろに再び南へ戻る。
「初ガツオ」は脂乗りが少なく、「戻りガツオ」は脂乗りが多いのが特長だ。
気仙沼の魚と地酒が自慢の飲食店「和醸酒一杯屋 梟」で水揚げされたばかりの初ガツオを見せてもらうと「この時期5ミリあればいい方」という脂が2センチもあった。
すでに戻りガツオに近い脂の量になっていて、店主は「7月にこのカツオが食べられるのは奇跡」と興奮気味に話す。
異変の理由は運動不足?
夏なのに「戻りガツオ」並みの脂乗り。カツオの生態に詳しい専門家は「カツオの運動不足」を指摘する。
現在(2024年7月時点)の主な漁場となる青森県八戸沖では、「暖水塊」と呼ばれる巨大な渦を巻く海流が発生していて、餌となる小魚が集まりやすい環境になっている。南から北上してきたカツオがそこにとどまることで、あまり動かずに餌が食べられるという、ある種「運動不足」の環境で脂を蓄えていると考えられるという。
取材に応じてくれた漁業情報サービスセンターの水野紫津葉さんは以下のように解説する。
「一般的には温かい海だと代謝が上がって脂が落ちる傾向にあります。今の漁場はカツオにとっては代謝が落ちるような水温ではないのでエサの量や運動量も脂乗りに関係していると考えられます」
うれしい異変も今後の影響に不安
おいしいカツオが味わえるのは「うれしい異変」と言えるかもしれないが、背景にあるのは大規模な海流の変化や高い海水温の影響だ。
三陸沖では特産とされていたサンマやサケの不漁が続く一方、マダイが豊漁となるなど、水揚げされる魚が南方系の魚種へと少しずつ変わってきている。
今回取材した漁船の漁労長も、カツオの“異変”について「今までの常識では測れない」と複雑な表情で話してくれた。
専門家によると、8月以降はさらに海水温が上がる見込みで、カツオの代謝が上がり、脂乗りは一旦落ち着く可能性もある。ただ、秋には例年通りの「戻りガツオ」に戻るという。
カツオの脂から見える、海の変化。これからも注視が必要だ。