梅雨本番のいま、指の第一関節が腫れたり変形する「ヘバーデン結節」という疾患に悩まされる人が増えている。症状がひどい時は箸やペンが持てないほどの激痛が指に走り、40代以降の女性に多く発症している。

ヘバーデン結節は何が原因で起こるのか。治療薬を開発したオクノクリニックの奥野裕次総院長に発症しやすい人の特徴や予防法を聞いた。

女性ホルモンの急激な減少

ーー梅雨の時期は関節痛が増える?

梅雨の時期は関節の痛みが全般的に増えたり、もともとある痛みが悪化したりします。肩や膝の痛みもありますが、ヘバーデン結節という指先の痛みも増える傾向にあります。これは指の第一関節が腫れたり変形して痛みが強くなってしまう病気で、日常生活にも影響します。

オクノクリニック・奥野裕次総院長
オクノクリニック・奥野裕次総院長
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ーー何が原因で発症する?

主に2つあって、年齢を重ねることと、手の使い過ぎです。

特に女性の場合、更年期に入る40代後半から50代に女性ホルモンが急激に少なくなります。女性ホルモンには関節の炎症を抑えたり、血管を正常にする働きがあるので、それが減少することで病気が発症しやすくなります。

指の第一関節が腫れる「ヘバーデン結節」(提供:オクノクリニック銀座)
指の第一関節が腫れる「ヘバーデン結節」(提供:オクノクリニック銀座)

ヘバーデン結節の根本的な原因は、異常な血管が関節の周りにたくさんできることです。異常な血管が炎症を悪化させたり、神経を増やすなどして痛みを増加させます。

女性ホルモンの一種「エストロゲン」の数値が高い時期は、血管が正常に保たれますが、更年期で急激に減ると血管の状態を正常に保てなくなり、指先に異常な血管がたくさん増えてしまいます。

また、更年期の女性以外にも、パソコンを長時間使う人、ピアノやギターなど楽器を演奏する人、ゴルフをする人、農業の方、家事全般をやる主婦は指に負担がかかるので発症しやすいです。

一方、20代の患者はほぼいません。30代後半で少し見る程度です。20代の人で痛みがある場合は、指の使い過ぎによる腱鞘炎や過去の突き指による痛み、あとは鉄分不足によって指が過敏になっていることが考えられます。

また最近では、スマホの使い過ぎもあります。スマホでゲームに夢中になり長い時間指を使い続けたことによって痛みが出る人もいます。

腫れと骨の変形で10年以上続く痛み

ヘバーデン結節は指の第一関節の軟骨がすり減り、関節が腫れたり変形するが、オクノクリニックを受診した50代の女性患者は症状について、「ピリピリするような感じで、痛い時は何もしていなくてもヒリヒリするような痛み」と話す。

(提供:オクノクリニック銀座)
(提供:オクノクリニック銀座)

ーーどういった症状?

最初は腫れから始まります。ちょっと赤みを帯びて腫れるようになってきて、それが1~2年続くと骨の方も変形してきます。正常な関節には軟骨がありますが、それがすり減ってしまい骨と骨がくっついたような状態になったり、コブのような形で出っ張ってくることがあります。病気の進行はトータルで10年ほどかけて痛みが続く人が多いです。

(提供:オクノクリニック銀座)
(提供:オクノクリニック銀座)

ーー患者の男女比は?

一般的には10対1と言われていますが、当院のデータでは6対1ぐらいで女性の方が圧倒的に多いです。

女性の場合は、女性ホルモンが急激に減る更年期に4~5割ぐらいの人が発症しています。男性にも女性ホルモンは多少分泌されていますが、急激に下がることがないため患者数は少ないです。

(提供:オクノクリニック銀座)
(提供:オクノクリニック銀座)

ーー日本国内の患者数は?

国内の患者数は300万人と言われていますが、それ以上いる可能性も十分あります。当院では年間3000~4000人ほどの患者が来ます。ヘバーデン結節という病名はまだあまり知られていないので、「指が変形して痛い」と思いながらも原因がわからず困っている方は多くいると思います。

最新の治療法の知識もまだそこまで広まっていないので、整形外科に行っても「治療法はないです」と言われてしまい、治療にたどり着くまで結構時間がかかってしまう人も多いです。

薬で異常な血管を撃退

ヘバーデン結節の治療法として奥野総院長は、女性ホルモンに似た働きを補うサプリメントの摂取や、異常な血管を減らす薬を動脈に注入する「動注治療」という日帰り治療が有効だと話す。

「動注治療」前の異常な血管が見られる指(提供:オクノクリニック銀座)
「動注治療」前の異常な血管が見られる指(提供:オクノクリニック銀座)

ーー治療法は?

これまでは治療法がなく10年近く痛みを我慢するしかありませんでしたが、今は女性ホルモンに似た働きを補う「エクオール」というサプリメントの治療法があります。

また、「動注治療」といって、異常な血管を減らす薬を点滴のような形で手首や肘から注入して1分ぐらいで終わるような簡単な日帰り治療もあります。この治療法は2014年に私が開発しましたが、これにより早めに痛みを抑えたり、炎症を少なくして将来の変形を予防することが可能になっています。

新しい治療法も完治とまではいきませんが、進行を遅らせたり、炎症を減らす作用はあるので前進したと思います。

「動注治療」後の正常な血管に戻った指(提供:オクノクリニック銀座)
「動注治療」後の正常な血管に戻った指(提供:オクノクリニック銀座)

ーーなぜ梅雨の時期に増える?

梅雨の時期は気圧が低い日が多いです。気圧は体の外からかかる空気の圧力ですが、気圧が低くなると外からの圧力が下がって関節が腫れやすくなってしまいます。そのためヘバーデン結節に限らず、いろいろな関節の痛みが強くなります。

また、寒い時期も増えるので、冬に差し掛かる11月後半頃も増加します。

指のストレッチとテーピングで血流を抑制

発症を防ぐための予防法はあるのか。奥野総院長は、健康的な食事と両手のストレッチを左右10秒ほどずつ1日数回やることが有効だと話す。
 

ーー予防法は?

食事の面では、タンパク質を多く、糖質を少なめにして、カフェインによって症状が悪化する人もいるので摂取を少なくすることをお勧めします。

指を1本1本後ろに反らせるストレッチ
指を1本1本後ろに反らせるストレッチ

また、予防ストレッチもあります。ヘバーデン結節が起こる第一関節は、指の背中側に痛みが出ますがここには指を伸ばす筋肉が付いています。手のひら側が固いと、ここに負担がかかってしまうので手のひらを柔らかくするために、指を1本1本背中側に反らせるストレッチが予防としては有効です。

1本1本でも、まとめてでも良いので、痛くない範囲で10秒ほど手のひらを伸ばして、これを1日に1~2回やることをお勧めします。

痛くない範囲で10秒ほど手のひらを伸ばす
痛くない範囲で10秒ほど手のひらを伸ばす

すでに症状が出始めている場合は、夜の間だけでもいいので、第一関節のところをテーピングで巻いて少しだけ圧迫感を与えると、異常な血管に向かっていく血液の流れを押さえられるので、症状が若干改善されたり、変形の進行が少し緩まると言われています。