神戸市は3日から、身寄りのない人の、葬儀や納骨の生前契約をサポートする事業を始めた。
背景には『引き取り手のない遺体』が急増していることがある。
高齢社会の『終活』はどうあるべきなのだろうか。
■「引き取り手のない遺体」10年で約2.7倍の急増
この記事の画像(12枚)自分が死んだ後について、生前に備える『終活』が広まっているが、1人暮らしの高齢者が増えたこともあり、新たな問題が生じている。それは、引き取り手のない遺体だ。
神戸市の墓園管理センターには、身寄りがなく、引き取り手のない人たちの遺骨が保管されている。
ここに安置された神戸市内の「無縁遺骨」は、約3000体。
■今後も「引き取り手のない遺体」が増える見込み
神戸市健康局墓園管理センター 宇治仙士係長:
月平均50から60体です。5年くらい前までは、年間で450前後だったんですけど、この3年間は600を超えるような勢いで、5年前と比べたら150ぐらい増えてますね
遺体を引き取る親族が見つからなかった場合は、墓地埋葬法に基づいて市が火葬し、保管することになっているが、その数はここ10年で約2.7倍に急増。
神戸市では65歳以上の人がいる世帯のうち、単身世帯が約37%と、全国の政令指定都市のうちで比率が2番目に高く、今後も「引き取り手のない遺体」が増える見込みだ。
■「生きている間」に葬儀予約や納骨の手続きを支援する事業
そんな中、神戸市が6月3日から開始したのが、「生きている間に葬儀や納骨の手続きを支援する事業」である。
身寄りがない人を対象にしたもので、葬儀や納骨について市が相談を受け付け、本人と葬儀会社が生前契約を結ぶものだ。
65歳以上で年収が230万円以下などの所得制限を満たす人が対象で、値段は相場よりも安く、上限36万円。
葬儀の宗派や納骨先などの希望にも応じるという。
制度開始初日の6月3日は午前中だけで、早速15件の電話相談があり、10件の予約が入ったということで、ニーズの高さがうかがえる。
■対策に乗り出した背景に行政の大きな負担
行政が対策に乗り出した背景には、負担の増加という現状がある。
神戸市福祉局くらし支援課 平野憲司課長:
可能な範囲で身寄りを確認した後、見つからない場合は埋火葬を行う。(その後)親・きょうだいも調べるが、全てを調べていくと、結構なボリュームになってくる
親族を探すために戸籍を取り寄せるなど、かなりの手間がかかるほか、火葬などの費用は年間1000万円以上に上る。
こうした現状に対応するため、神戸市が一つの参考にしたのが神奈川県横須賀市の事業だった。
■「生前に聞くことが勝負」
頼れる身寄りがいない人たちのための生前の葬儀予約や納骨予約などを支援する事業を、全国で最初に始めた横須賀市。
過去には火葬した後に、納骨などについて希望を書いた、本人の書き置きが見つかったことがあったという。
横須賀市特別福祉専門官 北見万幸さん:
こういう遺書を書いて亡くなった方が出てきた。『私、死亡の時、15万円しかありません。火葬、無縁仏にしてもらえませんか。私を引き取る人がいません』。遺書の相談を(役所に)恐らくしているけど、相談窓口がないからというので、持ち帰って家の中に置いてあった
この事業で「引き取り手のない遺体」のうち、約2割が希望通りの葬儀や埋葬の手続きを行えるようになった。
横須賀市特別福祉専門官 北見万幸さん:
(親族への調査は)手紙を出しているんです今は。話し合いができない。時間がたってしまう、手紙だと。(本人に)生前に聞くことが勝負
■生前からゆるいつながり持つ“墓友” 同じ墓に入る同士「ほっとする」
行政だけでなく、民間も「引き取り手のない遺体」の対策に取り組んでいる。
この日、兵庫県高齢者生協が設置している共同墓には、高齢者3人が訪れた。
3人は同じ墓に入る同士。名付けて『墓友』だ。
納骨料や永代供養料として、かかる費用は10万円から20万円ほど。「身寄りがない人」も、多く契約しているという。
兵庫県高齢者生協 藤山孝さん:
核家族になって、家族ばらばらになって、夫婦ならどちらかが亡くなると1人になる。そうなると自分の墓の心配もしないといけない。そういったことから、共同墓の需要が増えている
合同での墓参りや、年に数回の食事会などがありますが、参加は任意で、生前からゆるいつながりを持つことができる。
共同墓を契約した人:
安心やね。子供に迷惑かけなくてもいい。気にせんでも入るところ決まってるから。墓友という形で集まると、垣根がない。知らんかっても同じ空間で、おいしいもん食べて、しゃべれるのはなかなか楽しい
共同墓を契約した人:
景色のいいところに入れて、ここは誰かがつないでいる限り存在すると思うので、亡くなったら分わからへんと言うけど、ほっとします
共同墓を契約した人:
結構にぎやかやからね。うるさいって言われるかもやね。隣のお墓の人に
誰しもに必ず訪れる『死』。
人生の最後をどのように迎え、周りがどうサポートできるのか、社会全体で考える必要がある。
■「引き取り手のない遺体」の対応の明確なルールはない
身寄りのない高齢者が増えていて、1人で亡くなった後、自治体の負担が大きくなっているということですが、今後ますます増えていくことも考えられる。
関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
いま引き取り手がいないご遺体や、火葬をできない方が見つかった場合は、自治体が執り行うことになるのですが、やはり各自治体、苦慮していて、明確なルールがないそうです。やはり地域によって、慣習や考え方がさまざまなので、国が一元的に管理するのも、どうなんだろうということです。厚生労働省が今年度から調査を行うということにしているそうです。まずは事例を集めることから始めていきたいということです
自治体としての調査も、どこまで親族調査をするのか、遺骨の保管はいつまでにするのかなど、大変これ自治体としても難しい問題だ。
神戸市のサポート事業は3日からスタートしたが、すでに先行している自治体では、本人の希望などを事前に聞く取り組みも行われている。
神奈川県横須賀市で行われているのが、「わたしの終活登録事業」という行政サービスだ。
高齢者の人たちが元気なうちに、次のようなことを登録することを呼び掛けている。
「本籍・筆頭者」、「支援・身元保証事業者」、「リビングウィル(生前の意思)保管場所」、「葬儀・遺品の整理の契約」、「お墓の所在地」など。
こうした情報を登録しておくことによって、もし1人で亡くなった場合でも、自分の意思は自治体に伝わっているので、その後の対応がスムーズになるということだ。
横須賀市の担当者は「生前にいかに希望をキャッチできるかが重要。マイナンバーカードなどに情報が入るようになればいい」と話している。
「newsランナー」番組コメンテーターの共同通信社編集委員の太田昌克さんはこうした取り組みについて次のように話す。
共同通信社 太田昌克さん:
人間、誰しも憂いなく死にたいんですよ。岸田政権が少子化対策を3兆円ぐらいお金をかけてやっていますが、これはこれで大切なことなんですが、一方、誰もがむかえるこの老いのケア。終活に、もう少し尊厳ある憂いなき旅立ちの仕方について、国も財政的な措置を講じる覚悟で、日本全体が老いていくという現実に向き合っていく必要があるんじゃないかなと思います
誰もが迎える最期に向けた公的な支援。どのような形が適切なのか、議論していく必要がありそうだ。
(関西テレビ「newsランナー」2024年6月3日放送)