「強烈な不満」「嘘つき」…連日のアメリカ“口撃”

アメリカと中国の対立は、お互いの総領事館を閉鎖させるまで激化し、新冷戦といわれるまでに発展した。アメリカのトランプ政権による強硬な中国叩きに対し、中国も「戦狼(せんろう)外交」とも呼ばれる強い外交姿勢を取り続けており、対立は激化するばかりだ。その背景や思惑について、主に中国側の視点に着目したい。

中国外務省の定例会見 連日アメリカ批判が続く
中国外務省の定例会見 連日アメリカ批判が続く
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中国外務省は平日には毎日定例会見を行っているが、最近ではほとんどが米中問題に費やされている。

中国の外交姿勢は、時に高圧的、攻撃的とも言える。最近はそんな強硬な外交スタイルを、中国軍特殊部隊の元隊員が活躍する人気アクション映画「戦狼」のタイトルにちなんで、「戦狼外交」とする呼び方が定着しつつある。アメリカのトランプ政権が次々と繰り出す対中制裁などに対して、毎回「強烈な不満」や「断固とした反対」などを表明し、特にポンペオ国務長官を名指しで「嘘つき」呼ばわりするなど、連日のように反撃している。

「衝突せず、対抗せず、相互尊重」の意味とは

一方で、米中関係をめぐっては「協力こそが最良の選択肢だ」とか、「衝突せず、対抗せず、相互尊重」などとも繰り返し述べている。これはある意味中国の本音と言える。

つまり中国としては、関税引き上げや、領事館の閉鎖命令など、やられた分については「やむを得ない必要な対応」として同等の対抗措置は取るものの、表立ってアメリカに対し自分から仕掛けることはしていない。

成都のアメリカ総領事館閉鎖のため降ろされた星条旗
成都のアメリカ総領事館閉鎖のため降ろされた星条旗

中国にとってアメリカと本気で事を構えるのは安全保障上大きなリスクだ。また、経済面ではアメリカと正常な通商関係を維持する方が自国の利益につながると考えている。一方で、人権や領土などの問題では絶対に妥協できないため、干渉には猛反発して見せる。要するに、アメリカとの関係においては「協力できるところは協力して、対立点においてはお互い干渉しないで、尊重しあいましょう」というのが中国にとっては最も好ましいわけだ。

トランプ大統領破格歓待が一転…

トランプ大統領訪中の際は故宮を貸切ってもてなした
トランプ大統領訪中の際は故宮を貸切ってもてなした

これまで中国はトランプ大統領に対し、特別な配慮を示してきた。2017年トランプ大統領が訪中した時は、「国事訪問より格上」と位置づけ、故宮を貸し切りにするなど破格の対応でもてなしたのは、その証左の一つだ。また、関税引き上げなど度重なる圧力を受けながらも、通商協議を重ね、アメリカからの農産物輸入拡大などで合意した際も、配慮が目立った。何とかトランプ大統領が矛を収めて中国叩きをやめてくれるのを期待していたように見える。

しかし、トランプ大統領は態度を軟化させるどころか、新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼ぶなど、更に中国への圧力を強めた。こうした態度を見て中国はある時からアメリカの顔色を伺うのを止めたように見える。トランプ大統領としては中国に圧力を加え続けることで譲歩を促し、自らの再選に役立てようという狙いがあったと見られる。しかし、中国は逆に強硬姿勢に転じてしまったため、ある外交筋は「トランプ政権はかえって中国へのコントロールを失ってしまった」と指摘している。

アメリカの“傍若無人”に対抗するには「力」

アメリカは、トランプ大統領が重視する通商問題だけでなく、伝統的に南シナ海など中国軍による海洋進出、民主、人権、サイバー攻撃などの問題を重視している。アメリカがこうした対立点について、中国のいう"相互尊重“の立場を取ることは不可能だ。一方、アメリカの批判は中国側の目には内政干渉という風に映る。中国政府やメディアは、かつてアメリカが大量破壊兵器の証拠もないのに一方的にイラクに戦争を仕掛けたことなどを例に挙げて、傍若無人なのはアメリカであり、アメリカこそが覇権主義である、などと主張している。

こうした背景もあり、多くの有識者のみならず一般の中国人でも、「アメリカが世界で傍若無人に振舞えるのは力があるからだ。中国が対抗するには力をつけるしかない」と考えている。例えば南シナ海問題をめぐっても、「中国の海でアメリカ軍に勝手なことをさせないためにも軍の強化は必要だ」と考える。習近平国家主席が掲げる「強国路線」が一定の支持を受けるのもそのためである。

中国軍2隻目の空母「山東」
中国軍2隻目の空母「山東」

「一強体制」で“内向き姿勢”→対外的には強硬に

中国では外交政策を含め重大な政策決定は中国共産党の最高指導部クラスで決められる。

習近平体制の発足以降、習主席に権限が集中するようになり、習氏一強の傾向が強まっていると言われている。また、当局者に対する締め付けも厳しくなっていることから、自由に発言できる余地は非常に限定的だ。いま中国では、当局者は非公式の場であっても、ほぼ公式発表のようなことしか話さない。

習氏“一強体制”が強まっている
習氏“一強体制”が強まっている

例えば香港やウイグル族の処遇など国際社会が厳しい目を注ぐ問題は、中国にとってあくまで国内問題である。このため、「安定」や「治安維持」という視点では語られるものの、西側諸国が懸念する「自由」や「人権」といった視点での議論はほぼないと言っていいだろう。香港国家安全維持法は、「外国勢力が扇動している」という認識に基づいて検討が進み、諸外国による懸念などはあまり顧みられなかった可能性がある。

香港の民主派によるデモ
香港の民主派によるデモ

現在、香港国家安全維持法や新型コロナウイルスをめぐる中国の初期対応をめぐっては国際的な批判が高まっており、在外公館にいる外交官などは現地で中国への風当たりの強さを感じているはずである。しかし、最高指導部が決めた方針に異を唱えることは許されない。また、中国外務省は国内では必ずしも強い権限を持っていないと見られている。外交官の発言も自ずと国内を意識したもの、あるいは党の意向に沿ったものとなり、対外的には強硬な発言をする傾向がある。

コロナ抑え込みが自信に

また、外から見ると強権的に民衆を抑圧しているだけのように見える中国共産党だが、国民から一定の支持があるのも事実である。もちろん、文化大革命や天安門事件のように多くの犠牲者を出した「負の歴史」があり、今もそのために苦しむ人々がいることは否定できない。その一方で、急速な経済の発展や生活の向上などを受け、少なくない中国人が自国に対するプライドや満足感を感じ、一党独裁に一定の正当性を与えている面がある。

特に新型コロナウイルス対策では、アメリカをはじめとした主要国が制御不能状態に陥っているのに対し、中国では現在、抑え込みにほぼ成功している。国営メディアなどによる宣伝の効果もあって「中国の社会体制は西洋の国に比べ優れた面もある」との受け止めが広がっている。最近では反米感情も手伝って、諸外国からの中国批判に対し、「西洋的価値観が必ずしも正しいわけではない」といった意識の高まりも「戦狼外交」に影響していると見られる。

北京で行われた大規模PCR検査
北京で行われた大規模PCR検査

「謙虚な態度を…」戦狼外交に慎重論も

しかし、こうした「戦狼外交」に対して慎重論も出始めている。中国人民大学の米中関係の専門家で、政府のアドバイザーを務める時殷弘(じ・いんこう)教授は、中国メディアの取材に対し、戦狼外交について「マイナスの相互過程を激化させてしまい、しかもアメリカの過激な反中タカ派に弾薬を与えてしまった」と指摘、かえって対中圧力を強めてしまったと懸念を示している。

更にアメリカ以外の国との摩擦が強まっていることについても「我々は視線を全世界に向けなければならない。時々は耐え忍ぶことも出来ないだろうか。もし我々が敵を多く作りすぎれば非常に不利になる。我々は忍耐力と必要な謙虚な態度を持たなければならない」「中国の能力には限界があることを認識しなければならない」などとも述べていて、中国が孤立しかねないことに警鐘を鳴らしている。

こうした声はまだ主流とは言えないものの、今後中国の外交姿勢に一定の変化が見られるのかどうか、注目に値する。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。