1万を超す日本への難民申請

「日本にも、他の先進国が経験してきた状況が生じている」

来日した国連難民高等弁務官のグランディ氏は、20日都内で会見を行い、日本で急増している難民申請の状況をこう述べた。

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昨年度日本に難民申請をした外国人は、1万901人と初めて1万人を超えた。

この10年間で10倍、特に2014年以降は毎年約50%増となっていて、今年は上半期だけですでに8千人に達している。

これまで経験したことのないペースで、日本に「難民」が殺到しているのだ。

一方、昨年度日本で難民認定・保護された申請者は28人と、わずか0.3%に満たない。

これについてグランディ氏は、「迅速で効果的な審査制度が整っていない。申請者を拘留や収容するだけでなく、地域社会やNGOを活用して受け入れを検討するべきだ」と苦言を呈した。

「滞在可、就労不可」 認定を待つ生活

では、いま日本で認定をひたすら待ちながら暮らしている、「難民」たちの生活はどうなっているのか?

「140円の切符を買って山手線を何周も乗っていたり、新宿駅にいたり、モスクに仮住まいしていたり。住む場所が決まらず、職もないのでやることがないのですね」

こう話すのは、難民問題に取り組む「WELgee(ウエルジー)」(NPO登記中)代表の渡部清花(わたなべさやか)さん。

渡部さんは大学生のときに約2年バングラデシュでNGOや国連のインターンを行い、「国家が守らない国民=難民」の存在に衝撃を受けた。

帰国後、東京大学の大学院生として「人間の安全保障プログラム」にて学びながら、日本国内の難民が置かれている状況を調べるため、難民100人にインタビューを敢行した。

「来日して難民申請してから6か月間は就労許可が与えられません。『滞在可、就労不可』、つまり職業支援も定住支援もなく、日本語の支援もないけれど、『いていいからあとは頑張れ』なんです」(渡部さん)

日本での難民申請は各地の入国管理局で行われ、難民申請者は6か月間の仮滞在の許可を得るが、その間就労は認められない。

滞在許可を得たからといって、いつまでいるかわからない外国人に住居を貸す所有者もいないので、彼らはNGOや宗教団体などが用意したシェルターに身を寄せるか、ホームレスになる。

さらに仕事も金もない彼らには、人材派遣ブローカーが目をつけて、建設現場などで不法労働させる。

「彼らにとって難民申請者は好都合で安く使えます。保険が欲しいとか、契約書が欲しいとも言わないし、日払いでいいので」(渡部さん)

こうした難民申請者の状況を受けて、「WELgee」では緊急的な「シェルター」を今月オープンした。

また、難民申請者が、日本人の家庭にホームステイする取り組みも行っている。

難民申請者の中には、日本社会や人とのつながりがないため、鬱になることもあるという。

「難民ホームステイ」はこれまで18件、9都道県で行われたが、申請者たちの中には「初めて日本語を話す機会を得た、はじめてお箸を持ったという人もいる」(渡部さん)。

難民が日本を選ぶ理由

今年1月にアフリカ北部から来日して難民申請中のモモさん(仮名)も、「WELgee」の「難民ホームステイ」に参加した一人だ。

モモさんは自国で人権団体のリーダーだったが、別件逮捕で9か月間投獄された。

出所後モモさんは身の危険を感じ、同じ人権活動家だった妻とともに日本へ渡り難民申請した。

なぜ行先は日本だったのか?

マーシャルアーツの熟練者でもあるモモさんは、2010年に大阪でインストラクターをした経験があり、日本の文化や哲学に親しみを感じていたと言う。

「ここでは祖国のような脅威を感じません。電車の中で私の隣の席が空いていることが多いですが、気になりませんね(笑)。いまは難民の支援団体がボランティアでやっている避難所に住んでいます」

では、そもそもなぜ難民申請者が増え続けるのか?

海外で日本は「平和・人権国家で経済的に発展しているので、難民を受け入れてくれる」いう根強い期待がある。

さらに、日本はここ数年観光立国を掲げており、どの先進国よりも観光ビザが出やすいため、これを利用して来日する難民申請者が多い。

審査までに1年半…待たされる難民たち

一方で、申請者を国別にみるとインドネシア、ネパール、フィリピンが多く、これらの中には、「難民申請して6か月我慢すれば働ける」と就労機会を求めて来日するケースもある。

つまり、保護されるべき難民ではないにもかかわらず、いまの日本の認定制度を誤用・悪用しているのだ。また、これを助長するブローカーの存在もある。

このため急増する申請数に、政府の処理スピードが追い付かず、結果として保護されるべき難民が待ち続け、初回の審査が1年半後というケースも少なくないという。

「我々は、ソリューションであって、プロブレムではありません」

「WELgee」では、難民申請者に「働くスキル」を身に付けさせる取り組みを始めた。

「難民の方と会うと、いろいろな才能持っていることがわかりました。自国でプログラマーだったとか、漁師だったとか、通訳をしていたとか。そこでその才能や経験を発掘して、日本の社会とマッチングさせることが出来たら、彼らが難民としてではなく、才能を活かして生きていくことができるのではないかと」(渡部さん)

この取り組みでは、難民問題に理解のある企業で、難民申請者にプログラミングなどの研修を受ける機会を提供し、技術を活かして安定的に働き暮らせる在留資格に切り替えるというものだ。

ただこのためには、自国で大学を卒業していることを証明しなければいけないなど多くの要件や必要書類があり、ハードルはまだまだ高そうだ。

先述のモモさんは、日本政府の制度改革に期待感を示す。

「日本政府に言いたいのは、『チャンスをください』ということだけです。我々は、ソリューションであって、プロブレムではありません」

モモさんは今後、起業して自らデザインしたボディスーツを販売するのが夢だと言う。

先進国並みとなった日本の難民問題、その解決に向けて

シリアで紛争が起こった際、多くの難民がヨーロッパに殺到したが、その受け入れをめぐっては各国で対応が分かれ、世界的に論争が巻き起こった。

さらに、アフガニスタンやソマリアの紛争は未解決のままで、南スーダンも再燃と、世界では10を超える紛争が進行中だ。

ミャンマーとバングラデシュでは、「1990年代以降で一番深刻な難民危機」(グランディ氏)であるロヒンギャ難民問題が起こっている。

グランディ氏は日本政府に対して、支援金の拠出と開発支援活動について謝意を示しつつも、「かつて米国に次いで2位だった拠出金は、現在4位になった」と失望感を込めた。

一方でグランディ氏は、「難民の受け入れには様々な方法があり、国際的に実践されている事例は日本政府と共有して、今後も建設的な協議を続けたい」と日本の難民問題への取り組みに強い期待感を示した。

「WELgee」は、「WELCOME REFUGEE~難民の人々を歓迎できる社会に」の想いをこめて名づけられた。

渡部さんは言う。

「これからのビジネスモデルはありますけど、いままでは持ち出しです。でも私たちが伴走するしかないんです。ただ、私たちだけでは出来ません。専門家などさまざまな協力が必要です」

先進国並みとなった日本の難民問題の解決には、行政と民間が一体となった取り組みが必要だ。