池井戸潤原作のドラマ「陸王」の放送が始まった。
その中で気になるのは、登場人物が何度も語る「ベアフット(裸足)」という言葉だ。
5年ほど前、ランナーの間で「ベアフットブーム」が巻き起こり、「薄底シューズ」や「5本指シューズ」が大人気だったが、その後すっかり下火となった。
流通にはベアフットに関する問い合わせが早くも増えているというが、果たしてランナーにとってベアフットブーム再来は吉となるのか?
シューズアドバイザーで藤原商会代表の藤原岳久さんに、ランナーでもある鈴木款解説委員がベアフットの考え方を聞いた。

ーー池井戸さんの「陸王」は連載当時夢中で読みました。当時はベアフットブームがすごかったのですが、今回あらためてドラマで観ると、正直「ベアフット」の扱い方に違和感があったのですが。
ベアフットブームのきっかけは、2010年にダニエル・リーバーマン博士が、「フォアフット(前足部)で着地するベアフットランニングは、スポーツシューズを履いて踵から着地する走法よりいい」という学術論文を発表したことだったんですね。さらに、裸足で長距離を走るメキシコ秘境の民族を取り上げた「BORN TO RUN 走るために生まれた」が大ベストセラーになって、世界中でベアフットブームが起こりました。
当時はビブラム社の「ファイブフィンガーズ」が大人気となりましたが、いまは量販店においておらず、定着して使っているランナーもいるという程度ですね。
ーーブームの頃にも、ベアフットはビギナーランナーには難しいという声がありましたね?
いまドラマを観て「やってみようかな」と思う人も多いと思いますが、初心者の方がいきなりベアフットシューズで外を走るのはかなりリスキーだと思います。
日本人は「鍛える」ことが好きで、薄底でも「これで30キロ走れますか」というような質問がすごく多いんです。しかし、そういうシューズじゃないんですよね。そのへんがうまく伝わらなくてかつてのブームは収束したんです。
ーーでは初心者がベアフットを始める時には、どうすればいいですか?
まず、安心できるクッションのいいシューズとセットで買うのがいいと思います。
かつてのベアフットブームでわかったことは、クッションのいいシューズは大事だと。なぜなら当時、クッションが薄いシューズを履いて、ひざを痛めるなど、ひどい目にあったランナーが多かったんです。
ですから初心者の方は、必ず安心できるクッションのいいシューズとセットで使ってください。

ーー確かに当時ベアフットで足を痛めたランナーも多かったと聞きます。走る場合は、外とトレッドミルのどちらがお勧めですか?
トレッドミルのほうが、ケガのリスクが少ないです。
また、トレッドミルで走る際も、低負荷、つまり短い距離、短時間で使うのがいいと思います。忙しいビジネスパーソンにお勧めのトレーニングですね。
ベアフットシューズで走ると最初は足に痛みがあります。そうすると痛くないところで接地するようになるので、ランニングフォームを意識するためにはすごくいい道具なんですよね。
走る量と負荷を計算しながら、短時間で集中的にフォームを考えたり、接地する位置を気にしながら走る。
また、ベアフットで走った後、厚底で走ると接地感が新しくなります。
ーー外で走る場合は?
外で履くなら、歩くのもいいです。
我々はふだん革靴を履いていると、結構乱暴に接地しています。
ベアフットブームから我々は、シューズに頼りすぎていたことを学びました。ランナーはシューズが何でもやってくれると思っていたのですが、そのアンチテーゼがベアフットだったのですね。
ーーなるほど。。ベアフットシューズで走る際に、どんなことに気を付ければいいですか?
足音を聞いてみてください。ドスンドスンとか、引きずるようなジャーとザズーとかでなく、素手で拍手するようなパンパンパンとリズミカルに走る。それができるようになると、ランニングハイにもなりますよ(笑)。

ーーベアフットに安易に飛びつくのでなく、うまく活用すれば短時間で効果的なトレーニングになるのですね。ありがとうございました。