「よなよなエール」、「水曜日のネコ」、「インドの青鬼」など、名前も味も実に個性的なクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイング。長野県佐久市に醸造所を置く同社は全国にファンを持ち、キャンプ場や野球場で大規模なファンイベントを行うなど、常に目が離せない存在だ。

左から「よなよなエール」、「水曜日のネコ」、「インドの青鬼」、「東京ブラック」。
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今回登場するのは、数々のユニークなアイデアの源泉である同社社長、井手直行さんと、その妻、ゆうこさん。2人は、ともに自然のなかでの生活を求め、それぞれ福岡と大阪から、長野に移り住んだ。

妻のゆうこさんは、ヤッホーブルーイングの親会社である星野リゾートの一事業、エコツアーやツキノワグマの保護管理を行う「ピッキオ」で森のガイドなどに従事し、現在は、軽井沢の「森のようちえん ぴっぴ」で保育士として勉強中だ。

こだわりに満ちた仕事スタイルを持つ、夫・直行さんが家族と過ごす「実生活」はいかに。そして、子育てのスタイルにも迫った。

ルールなしで成り立つ「ちょうどいいバランス」

直行さん:
我が家では、ルールはないけど、なんとなくいろんなものが決まっています。
例えば教育に関しては彼女の方がピッキオや森のようちえんでの経験があって専門分野だから、彼女の意思を尊重します。家事の役割分担も今はほとんど彼女の担当ではあるんですけど、数少ない僕の役割はゴミ出し、洗濯、洗濯物たたむ。一番下の子が夜おしっこをもらすと、僕が対応する。朝の保育園には僕が送る。

お互いの得意分野と苦手分野を補い合っていますね。例えば、妻は、掃除はすごくやるんですよ。でも後片付けをあんまりしない(笑)。一方、僕は多少汚くても平気なんですけど、散らかってるとソワソワする。だから彼女と子どもたちが寝た夜に、散らかった部屋の積み木を片付けたり、本を並べたりとか。

ゆうこさん:
(笑)。

直行さん:
気になる方がやる、という感じで、自然とちょうどいいバランスに。お互いが興味を持つ部分がちょっと違ったので、よかったなと思って。

ただ、最近は出張が多く忙しいので、結局ほとんど彼女が担当してくれていて。でも、彼女が仕事の予定が入っているのを前もって聞いていたら、その日は自分の仕事を入れずに仕事をブロックしたり、社内の仕事があったらキャンセルして再調整したりとか、スケジュールが調整できれば、やっているんですけど、今スケジュールが3ヶ月先まで埋まっているので、ますます負担をかけちゃってるんですけどね……。

「こだわりの強いほう」に合わせるスタイル

ゆうこさん:
価値観については、今のようにお互いの折り合いがつくまでは、相手のやってる些細なことが理解できなくって。

例えば、一度大げんかになったのは、子どもの離乳食を作り始めたときに私は手作りをしたくって、でも初めての育児で、すごい疲れていて。彼は「ベビーフードを買ってきたら」って。それは、疲れてるから少し休んだら、っていう意味で言ってくれたんですけど「子どものことを考えて言ってるの!?」ってすごく腹がたって(笑)。

直行さん:
楽してもいいんじゃないかというのもあったし、やっぱりその辺は2人の考え方が根本的に違っていて、彼女は手作りで、というこだわりがあった。

彼女は、特に健康への意識が高くて調味料などにも気を遣うけど、僕はまったく気にしない。市販の健康食品の離乳食でもあれば便利だし、僕が作って変なものができるよりはいいのかな、なんて思って。でも彼女の感覚でいくと、それは信じられない! みたいな。

それも、お互いのこだわってることがわかってくると、だんだん許容していくというか。理解して受け入れられるようになっていってるんだと思います。2人だけだったときは、そういうところは気付かなかったんですけど、子どもができて環境が変わってくると気づくこともいっぱいあって。

子どもに対する接し方とか、食事から、習い事から、ほとんど彼女の方がこだわりがあるんで。僕、こだわり全くなくって。小さい頃から勉強しろって言われたこともないし、勝手にこう、放任されてたので、自分の子どももそれでいいかなって最初は思ってたんです。

けど彼女がそこにこだわりがあるんだったら、こだわりのない僕は彼女に合わせた方がいいな、って。順次そういう風に、何か新しい出来事が起きたら、どっちのこだわりが強い方に合わせる感じでしょうね。

ーー逆に直行さんにこだわりが強くて合わせた、ということはありますか?

ゆうこさん:
うーん……特にないかもしれない(笑)。

直行さん:
多分、こだわりがあるとしたら、仕事だけかもしれないですね。そこへのこだわりがとても大きいから、それ以外のところは、彼女のほうにこだわりがあるからいいんじゃないの?って。

一歩外に出れば、森のなか

ゆうこさん:
うちは、小4、小1、保育園の年中、の3人兄弟なんですけど、自然のなかでのびのび、たくましく育ってほしいという感じなので、「勉強しなさい」って厳しく言ったりとかそんな感じでもなく。とにかく自然のなかで自分で何かを見つけて学んで欲しいなって。

直行さん:
ちなみに、家が森のなかにあるんですよ(笑)。まわりに誰も住んでないので、もうホイと外に放り出せば、まわりは自然しかない。

ゆうこさん:
庭で焚き火をしたり、キャンプをしたり。たまに私と子どもは庭でテントをはって寝たり…ちょっと通常の家庭とは違いますかね(笑)。

あと、我が家では子どもたちの誕生日にプレゼント、っていう「モノ」はあげたことがなくて。その代わりに、「なんでも券」っていう券をあげるんです。それは「家族で○○がしたい」とか、どうリクエストしてもいいんですね。ただ、「ものを買うっていうのはなしだよ」って言って。

長男に券をあげたときは、「博物館に行きたい」って。東京の国立科学博物館まで、二人だけでデートをしました。その時は、恐竜の化石とか、海の動物の企画展があったので、それを観に行ったりして。

直行さん:
「なんでも券」は彼女が考えた案で。

ゆうこさん:
彼は「パパと釣りに行ける券」っていうのをあげてました。あと一番の下の子には「剣を作ってあげる券」をあげたりとか…我が家では、それぞれ家族でできることでお祝いをしようって。

自然のなかで「遊び方」を教える

直行さん:
僕は森のなかで子どもたちが遊ぶことが多いです。基本的には放任主義なんですけど、木登りして遊んだり、僕が森で薪割りとか作業してると近づいてきて、チェーンソーで木を切るやり方を見せてあげたり、あとはまだ長男だけですけど釣りに連れていって釣竿の投げ方を教えてあげたり。

家は会社から車で10分くらいの御代田町(みよたまち)という場所にあるんですけど、お互いに自然が好きなのでぴったりの場所で。ただ、彼女のほうは、もっと秘境に住みたいみたいですけど。

ゆうこさん:
ど田舎に住みたい…!

直行さん:
僕は今のところがちょうどいいくらいで(笑)。完全にアウトドアというよりは、自然のなかで暮らしている、という。

先日は、彼女が週末家にいなかったので僕が子どもたちの面倒をみていて、雨でやることがなかったので「じゃあ将棋するか」って言って。まずは長男と2回将棋をして、1回目は僕が勝ったんですけど、2回目に急激に強くなって、4年生に負けそうになって! ちょっとやばい、待て待て、みたいになって(笑)。

ゆうこさん:
児童館で将棋の本を借りたり、対戦相手を探したりして研究してるからね。うちでの遊びはほかにもオセロだったり、トランプだったりいろいろなんですけど。

直行さん:
トランプの神経衰弱はもう、まったく子どもに勝てないです。今、かろうじて、保育園児の三男には勝つんですけど、長男と次男には勝てない!  だからもう、すぐ神経衰弱しようとかいうんですけど……僕、負けるからおもしろくないんですよ(笑)。

>>後編へ続く

取材・文=高木沙織(sand)
写真=内田洋司

(プロフィール)
井手直行
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長。1967年生まれ。福岡県出身。国立久留米高専電気工学科卒業。大手電気機器メーカーにエンジニアとして入社。広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2004年楽天市場担当としてネット業務を推進。看板ビール『よなよなエール』を武器に業績をⅤ字回復させた。全国200社以上あるクラフトビールメーカーの中でシェアトップ。12年連続増収増益。08年より現職。著書に、『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)

井手ゆうこ
大阪府出身。星野リゾートの一事業、エコツアーやツキノワグマの保護管理を行う「ピッキオ」のスタッフを経て、現在は「森のようちえん ぴっぴ」にて幼児教育の勉強中。2020年より軽井沢で新たに開校する「軽井沢風越学園」の教員になることが決まっている。