SXSW2018。私は今年で5年目の参加だ。毎年トレンドを追いにSXSWに参加し、カンファレンスを聞き新たな知見を得ることを楽しみにしている。

SXSWではエンターテインメント、テクノロジー、ジャーナリズムから政治、デザインまで多岐に渡るテーマで2,000を超えるセッションが 開催されるので自分の守備範囲外の情報もたくさん入手できる。

まるでリベラルアーツの大学授業に忍び込んでいるようで知的好奇心がくすぐられるのが魅力だ。

「SXSW=テクノロジーイベント、スタートアップのイベント」と思われがちだが、正しく伝えるならば「テクノロジーも活用し、スタートアップも応援し、より良い社会にするためのクリエイティビティを刺激する」取り組みがカンファレンスでは多く紹介されている。

昨年からはジャーナリズムのセッションもスタートした。背景には大統領選挙の際の“フェイクニュース”に対してメディアがどうあるべきなのかを、多面的に考えるためである。

政治(ガバメント)セッションも力が入っている。オバマ大統領はSXSW 2016に登壇したが、今年は先の大統領選挙戦でリベラル派に多く支持された政治家バーニー・サンダースが登壇し、2,500人収容する会場を満員&スタンディングオベーションさせるほど沸かせた。

カリフォルニア州知事を務めたアーノルド・シュワルツネガーも登壇した。

バーニー・サンダース

さらに、音楽やフィルム、最近ではコメディも人気で、SXSWを改めて定義すると「あらゆる角度からのディスカッションを通じて、より良い社会を目指すためのクリエイティブの種が数多く撒かれている」場所といえるだろう。

SXSW 2018セッションで多く取り上げられているキーワードはデザイン、データ、ニュース、ガバメント。多様な角度からセッションが語られているのがわかる。

注目は「ソーシャルインパクト」のセッション

そのような多様な種が撒かれているSXSW2018で私が注目したのが「ソーシャルインパクト」を考えるセッションだ。

ソーシャルインパクトでは銃乱射事件から、デモ行進の代わりとなりうるランニングイベント(Run for Something)、LGBTQ、途上国の労働環境を考えるテーマまで130近くのセッションが準備されている。

初日のSXSWオープニング基調講演もソーシャルインパクトがテーマだった。

テクノロジーの力を使い難民をハッピーにする『Techfugees』のジョセフィン・グーブ(Joséphine Goube)がスピーカーを務めた。

フォーブスほか、海外メディアで「未来を作る社会起業家」として注目されている彼女が基調講演に選んだタイトルは『Let’s Tech the Borders Down 』。テクノロジーで境界を溶かせ!とでも訳したいタイトルだ。

ソーシャルインパクトセッションで『Techfugees』事例を紹介するジョセフィン・グーブ(Joséphine Goube)。若手社会起業家として注目されている。

彼女がCEOを務める『Techfugees』は難民危機への解決策を見つけるための教育プログラムやコミュニティ活動を展開し、テクノロジー企業との架け橋をつくるノンプロフィットの団体だ。

具体的な施策としてはプログラミングのトレーニングやハッカソンやワークショップなどを展開。難民キャンプに必要なテクノロジーを有している企業や個人を巻き込み、大きなインパクトを起こしている。

そして、 世界で18,000人のテクノロジー関係者がコミュニティに参加し、リモートでもできる教育を提供している。

難民に教育を提供するだけではなく、その逆もある。難民キャンプにいる人にSkype経由でアラビア語を教えてもらい、その対価を支払う動きなど、難民キャンプにいても世界と繋がりモチベーションを高められる仕組みもできているという。

ハッカソンから出てきているアイデアもユニークだ。

難民が住むエリアは多くが2G, 3G回線エリアなのだが、Skypeなどで顔を見ながら遠くにいる家族、友達と会話をしたいという人々に向けて、“可動式Wi-Fi(要は持ち運べるもの)”を考え、実装した事例があるという。

ネット環境が充実している日本では思いつかないアイデアだが、このハッカソンに参加していたら色々とアドバイスが出来そうだとも同時に思う。

私が驚いたのは、オリンピックに向けてのアイデア出し、ハッカソンにTechfugeeに参加している難民達が参加していることである。

大きな国際行事に関わるプログラムに参加できるのは非常にモチベーションも高まるだろう。

多くの日本人にとっては「難民」はあまり身近な問題ではないかもしれない。私にとってもそうである。ただ、ジョセフィンの主張を聞き自分にもなにかできるかもしれない、と考えが改まった。

彼女の主張は「難民の問題は政治的問題ではなく、ホスピタリティーの問題」なのだ。

テクノロジー、インターネットが普及し世界のどこからでもアクセスできる現在、難民キャンプにいる人達にも友だちに接するように接して欲しい、と。募金も大事だが、何よりも関心を持ちアクションを起こして欲しいという。

ホスピタリティーが何よりも大事なのである。

「テクノロジーを活用してソーシャルインパクトを起こす」と考えると非常に大掛かりな印象があるが、彼女の話はシンプルだ。

Skype、FacebookやInstagram、Slackなど身近なツールを使って行動を起こしている。テクノロジーの進化も大事だが、普及したテクノロジー(“枯れた技術”とも言えるだろう)を使って何を起こすのか?という視点でインパクトを起こして行くことも可能なのだ。

繰り返しになるが日本人である私にとって「難民」は身近な問題ではなかった。ただ実際に行動を起こしている ジョセフィンの熱量こもったセッションを聞き関心が高まったのは、アクションのトリガーになるのだろう。

SXSWのコンベンションセンターからホテルへ戻る際のUBER運転手がアフガニスタンから米国に学びに来ている学生だったので、 アフガニスタンの状況や難民についても意見聞き、新しい気づきがもらえた。

今までだったら踏み込んで話を聞かなかったであろう問題に対して少しアクションを起こすことができた。

私が SXSWに毎年足を運ぶのは、新しい知見が得られると同時に行動する勇気をくれることにもある。この記事も少しでも新たな気づきのキッカケになれば幸いである。



●ゲストライター  西村真里子
HEART CATCH Inc. 代表取締役 / テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集・ライター業を行う。Mistletoe株式会社フェロー。