ティム・オライリーをご存知だろうか?

「書籍、Web、雑誌、調査、カンファレンスを通してイノベーターの知識を広げ、世界を変える」ことを使命としているオライリー・メディアを立ち上げた人物だ。

先進テクノロジーとIT業界に精通しており、彼が語る言葉から未来が見える。

そんな彼のセッションをSXSW 2018で聞いてきた。

結論から言うと“人間として”非常に勇気が持てる内容だった。

昨今AIやロボットが人間の仕事を奪い、我々人間はベーシックインカムに頼る生活になると言うニュースも多く見かけるが、それに対して「何言ってるんだ!(What The Fxxx?)人間に出来ることはまだまだ沢山ある!」と叱咤激励してくれる内容だったのだ。

セッション冒頭でティム・オライリーは「AIやロボットの台頭により仕事が自動化されると我々はベーシックインカム(※人間の仕事がAI・ロボットに代替される時代に支給される生活費)で生活をする時代になるのか?」という問いを投げかけた。

追加の問いで「我々人間に出来ることはもう無いのか?」とも。


それに対して非常にインパクトのあるスライド 「 WTF? (What the Fxxx?)」を表示した。

このWTFは英語のスラングで何言ってるんだ!と言うような意味なのだが、 我々人間が解決すべき問題はまだまだ山積みであることを続ける。

※ステージ上でティム・オライリーは"WTF は What the future"と説明していたが、 内容的には「何言っているんだ!」と言うスラング的な意味合いで話をしていたので、当記事では意訳で進めさせてもらう。

環境問題、老朽化したインフラの整備、いまだ解決しない食料難、病気、難民問題、お互いを気遣う心、次世代のための教育のあり方…AIやロボットでは解決できない問題がまだまだ存在しているのだ。

そもそも「現在の認識が正しいと思うな」とも続ける。

1625年の人間はカリフォルニアが島だと思っていたそうだ。

現在ではそれが間違いであることは誰しもが知っていることだ。

また、2005年には“コネクテッド・タクシー(次世代型インターネットに繋がるタクシー)”とはタクシーにモニターをつけることだと思っていた我々だが、13年経った現在ではそれが間違っていたことがわかる。

“コネクテッド・タクシー”とはUBERのようにクラウドを利用し、スマホを通じてドライバーと乗客をつなぐものを指すのを今では誰でも理解している。

このようにある時点での認識は、すぐにアップデートされるということを忘れてはいけない、とティム・オライリーは語る。

近い未来に我々の認識が変わる領域とは?

そんな彼が、近い未来に認識が変わると予想する5つの事象は以下だ。

このうち筆者が気になった内容をピックアップして以後紹介していく。


①2018年現在、我々はテクノロジーが人間の仕事を奪うと考えている。

②2018年現在、企業は利益追及が第一優先であり、社会的意義、環境配慮、人間への影響などは二の次で良いとされている。

③2018年現在、すでに知名度がある一流企業から生まれるテクノロジーが世界を変えると信じている。

④2018年現在、人間に敵対するAIが将来の脅威だと信じている。

⑤2018年現在、既存の経済システムを再構築し続けることが、全く新しい未来を発明するよりも重要視されている。

AI、ロボットが人間の雇用を拡大する

まず最初の説「2018年現在、我々はテクノロジーが人間の仕事を奪うと考えている」だが、この認識はすで変わりつつある。

Amazonは45,000台のロボットを導入したことにより、より多くの消費者ニーズに答えられるようになり、人間の仕事が増え、結果雇用も増加している。

ロボットの導入が人材雇用を増加させている。

また、経済学者マイケル・マンデルの調査例を出し、eコマースが雇用を増やし、給料も増加させている実例も紹介した。

2007年〜2016年迄の調査で、実店舗での失業件数が51,000件なのに対してeコマースの新規雇用件数は355,000件で、約7倍もの新規雇用が生まれているという。

デジタル化、オートメーション化はより多くの人に、職に付く機会を提供している。

また、新しいシステムやプロダクトが出来ると、それを学習するためのエデュケーションプログラムやメンテナンスをするための人材も必要になる。

AIやロボットが我々の職場にやってくると、我々はより多くの人間の仲間と仕事をする必要がでてきそうである。


これは個人的な見解だが、先日ニュースで郵便用自動運転車の実証実験の映像が流れていたが、郵便物が自動運転で運ばれてきたら各家庭には誰が配るのだろうか?

一戸建てやマンションによってポストの形状や配置されている場所は違うので、自動運転で運ばれてきた手紙を「ポストや各家庭まで配達する人もしくはロボット」もこれから必要とされるだろう。

もしくは根本的に郵便物を受け取る仕組みが変わるかもしれない(ドローン配達など)。

その際にはまた新たな仕組みと雇用が必要になる。

AIやロボットが仕事を奪うどころか、もっと人間の仕事を増やしそうである。

人間の仕事を拡張する-Augmented Human-

また、我々人間はすでに機械に囲まれて生きているので、AI・ロボットの融合も起きつつあるともティム・オライリーは語る。

生物学者リン・マーギュリスの言葉を借り「種は融合と合併によって新しい複合体を形成する」とも語り、人間の置き換えをするテクノロジーには価値がなく、“人間の仕事を拡張(Augmented Human)”するテクノロジーが大事であるとも語った。

起業家こそ新しい地図を描け

既存の経済活動、企業ルールに縛られていては新しい未来は築けない。

ティム・オライリーはGDPを指標にするよりもボストンコンサルティングのSEDA(Sustainable Economic Development Assessment=持続可能な経済発展評価)を指標にしながら活動することが未来を作ると語る。

また、生産性が増えても所得が増えない一部の高所得者層のみ利益を得る仕組みも変えていくべきで、いままでの生産性・効率性の時代から、いかに成果物・富を分配するか?の時代に突入しているとも述べる。

最後に、SXSWにはスタートアップも沢山来場していることを意識してか「起業家の仕事は新しい地図を描くことだ」と締めた。

セッションを聞きながら、彼の言葉一つひとつに頷きながらメモをとっている自分に気が付いた。

60分間という人生の中では非常に短い時間だが、ここ2,3年のテクノロジーと人間の仕事に対するアップデートが起きたセッションだった。

我々人間にはまだまだやることはある。

テクノロジーと融合しながら今まで解決できなかった課題に対して取り組むこと、それこそ人間が取り組むべき仕事であると考える。

そう、私利私欲の儲けだけを目指す人間ではダメなのだ。

●ゲストライター  西村真里子
HEART CATCH Inc. 代表取締役 / テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集・ライター業を行う。Mistletoe株式会社フェロー。