「攻撃」や「グアム島への着弾」は自衛権の発動が認められる

「米国を攻撃なら戦争」「グアム着弾なら戦争」。15日付夕刊各紙に、こんな見出しが躍った。アメリカのマティス国防長官が国防総省で記者団に述べたのだという。

それ自体は特段驚くべきことではない。国連憲章2条4項で「武力行使」が一般的に違法とされる中で、自衛権の発動はその例外と認められている。

明確な「攻撃」や「グアム島への着弾」予測は、発動要件としては文句なしだ。マティス国防長官は、北朝鮮からミサイルが発射されたら瞬時に(within moments)グアムに向かってくる(towards Guam)のかどうか判るし、私たちアメリカ=グアム島を狙って打ったのなら迎撃するし、それは戦争だ(That's called war, if they shoot at us)と語っている。

グアム沖30〜40kmならアメリカに打つ手は無い

では、着弾がグアム沖30~40kmのエリアであればどうなのか? その場合は「大統領の判断になる」という答えだ。手の内は明かしたくないとも語った。
これを裏読みすれば、グアム沖30~40kmに着弾と軌道計算で判明すれば、迎撃しないし、戦争にはならないと言っているに等しい。

なぜなら、「攻撃」ではなく事前に公に予告されている通りの「警告」でしかないミサイルの着弾は、自衛権の発動根拠としては弱すぎで、国際社会の支持は得られず、下手をすると中国やロシアの妨害に遭う可能性すら排除できないからだ。

はっきり言って、軌道計算で30~40km離れて着弾することが判っている弾道ミサイルに比べたら、自分の目と鼻の先にいる空母や原潜からどういう意図を持っているのか測りかねる艦載機やクルーズミサイルが放たれる方が、格段に敵対的な行為に違いないのだ。どの国だってそう考える。
さらに、万一アメリカがミサイルの迎撃に失敗したら、アメリカ軍や軍事技術への信頼感、そして畏怖の念は一気に失われてしまう
つまり、アメリカには打つ手がない。

だからミサイルをやり過ごすしかない。

そうなると、強大な軍事力を持つアメリカなのに何もできないことが世界に知れてしまう。
それが、安倍総理とトランプ大統領の電話会談で、「北朝鮮にミサイル発射を強行させないことが大切だ」と一致した理由だ。

ミサイルを打たれないためにはアメリカが譲歩

それでは、北朝鮮にミサイルを打たせないために何ができるのか? 基本的には3つしかない。

①アメリカが北朝鮮への軍事的圧力を圧倒的に強める。
②中国への圧力を格段に強め、北朝鮮への影響力を行使させる。
③アメリカが譲歩する。

の3つだ。

①では北朝鮮は後ろに引かないことは明らかだし、②については中国が反発を強めている上、即効性に疑問もあり、逆に時間稼ぎに利用される懸念すらある。
とすると③しか残らない。アメリカは北のミサイル発射を阻止したいのなら自ら譲歩するという選択肢しかないのだ。

金正恩委員長は、そうした事情をすべて見抜いているからこそ「アメリカの様子を見守る」ことにしたのだ。

金委員長が要求しているのは、軍事的挑発を止めることだ。具体的には明らかではないが、一番分かりやすいのは、21日から始まる米韓合同軍事演習に合わせて派遣されると伝えられている空母2隻の派遣を止める。
あるいは、追加で派遣を検討と伝えられた原潜も止めるといったことが考えられる。

これだと、空母や原潜の派遣は報道ベースでしかないので、アメリカ側は「演習は予定通り行われる」と言ってメンツを保ちながら一歩引き下がることができる。

あるいは演習内容を挑発度の低いものに変更するか? 問題は金委員長がそれで良しとするかどうか不明なことだ。
下手をするとアメリカ側は、想定外の譲歩を次から次へと迫られることになりかねない。
それが、アメリカが簡単には譲歩に踏み出せない理由だ。

となると結局、金委員長は「愚かなアメリカが正しい選択をせず、行動しなかった」として、グアム沖へのミサイル発射に踏み切ることになる。専門家が指摘している通り、北朝鮮には「ロフテッド軌道」ではない打ち方をして3千数百km飛ばしたいという欲求があるだろう。
北が予告した通りの計画で着弾させれば世界にその実力を示すことになるし、次の脅しはさらに効くことになる。
つまり、北朝鮮にとっては良いこと尽くめだ。

アメリカ軍の強大な軍事力や、トランプ大統領の強気な発言に接していると、このゲームの主導権はアメリカが握っているように思いがちだ。しかし、本当にそうなのか? 予断せずに状況を注視してみると、違う様相が見えてくる。