母親のボーイフレンドから虐待を受けていたマイク(4歳男児・仮名)。

CAC(Child Advocacy Center)でのインタビューが重要な証拠となって逮捕につながった。

(詳細は中編:「マイクから聞き出した虐待の証拠。母親たちの逮捕へとつながった」https://www.houdoukyoku.jp/posts/25833

里親制度でマイクは祖父のもとへ

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マイクの虐待が明らかになった時点で、ケースワーカーはブロンクスの家庭裁判所へと出向き、再度正式にマイクと乳児の養育権剥奪を申請し、判事により里親制度へ入る許可を得る。

アメリカでは、里親制度に子供が送り込まれた場合、できる限り親族の元で子供を養育する方がよいとしているため、ケースワーカーはまず、近い親族から里親候補を探していく。

見つかった場合はkinship foster careと呼ばれる親族間里親制度となる。マイクの場合は当然、祖父とその妻が里親と認定され、養育権を与えられた。一方の乳児も母親側の親族が里親になった。

子供が里親制度に入れられた場合、最終的な目標は必ずreunification、つまり保護者の元へ帰ることである。そのため、保護者は子供が戻ってくるためにクリアしなければならない条件を家裁の判事から与えられる。それはParenting Skills Training (育児能力講習)、drug treatment(薬物治療プログラム)、もしくはCounseling(カウンセリング)への強制参加などである。

子供が里親制度に入った時点で、子供と家族はFoster Care Agencyのケースプランナーによって監督され、他のvisitation(訪問)などの条件を決められる。6ヶ月ごとのService Plan Review Conferenceというレビューで保護者の進捗状況を確認し、子供がいつ親元に戻れるのかを検討していく。

NY市の場合、22ヶ月のうちの15ヶ月以上、子供が保護者の養育から離れていた場合には、ケースワーカー、およびケースプランナーに親権剥奪の申請をするように指示が出される。親権剥奪された場合には、子供はadoption(養親縁組)に出されることになる。

マイクの母親のボーイフレンドは逮捕後に起訴され、刑務所へ送られたが、母親は刑期なく保護観察で釈放された。母親はParenting Skills Training (育児能力講習)とCounseling(カウンセリング)への参加を判事より命じられ、家裁、ケースワーカー、そしてケースプランナーによって厳密に監視されている。

今後、命じられたサービスへのコンプライアンス、また生活態度や度重なるインタビューにより、母親はマイクや乳児との面会を認められ、少しずつ子供達との信頼関係の修復を試みていくのだろう。

長期的に虐待の記録が残される

養育権剥奪に至る程ではないものの、虐待の事実が立証された場合には、上記に述べたようなサービスへの参加が、判事によって、もしくは任意で提供される。

虐待の事実が立証されたとしても、リスクがほぼ無いに等しいか低い場合、もしくは虐待の事実が立証できなかった場合には、Preventive Service (予防サービス)といって、新たな通報/調査をPrevent(予防)するためのサービスが提供される。

これはACS(NY市の児童保護サービス。Administration for Children’s Services)から外注を受けた地元の児童福祉団体のソーシャルワーカーが、CPS(児童保護サービス・Child Protective Service)による調査が終了したのちに、定期的(大体の場合週に1回)に家庭を訪問し、問題があれば他のサービスに繋げる役割を担う。

一括通報システムSCRへ通報されたのち、虐待調査により虐待が立証されなかったとしても、調査があったという情報は、通報から10年間はACSのデーターベースに残され、再び通報があった場合にはケースワーカーによって閲覧が可能になる。

虐待が立証された場合には、家庭の中で一番小さい子供が18歳を迎えてから10年経つまではデーターが残るため、のちに保護者が就職したり、里親として申請したりした際にはバックグラウンドチェックで引っかかることもある。

また、子供が里親制度に入っている間に母親が新しい子供を生んだ場合には、ほぼ自動的に新しい虐待調査が開始され、乳児が病院から保護者の元に帰宅できるのか、里親の元へ送られるのかケースワーカーが判断しなければならない。

一度、児童虐待の加害者と認められると、その後の人生につきまとうことになる。

児童保護調査の一連の動きをまとめると、次のようなフローチャートとなる。

ACSの業務は児童虐待の調査だけに限らず、他にも多くのことを担っている。「児童福祉、少年司法、保育、教育サービスを通してNY市の子供とその家族の安全と幸福を守り、促進すること」がミッションであり、里親制度、養子縁組の取り扱い、少年犯罪をめぐる対応、主に低所得者への早期保育、教育サービスの提供も行なっているのだ。

児童保護サービスはそのうちの一つに当たるわけだが、1年間で55,000ケース以上もの児童虐待調査を行なっており、ACSの中でも最も重点の置かれた部門であると言える。

ACSによる虐待調査には問題も多々ある。有色人種、とくに黒人やヒスパニックのケースが圧倒的に多かったり、ケースロードが多すぎる、もしくはケースワーカーのトレーニングが不十分ゆえに、最悪の結果(子供の死亡)に至ってしまったり、ACSによって養育権剥奪が過剰に行使されたりと数々の問題が何年にも亘り指摘されてきた。

より良いシステムにするべく、これまで幾度となく改善が行われてきたが、完璧なシステムを、特に多民族社会であるNY市において構築することは不可能に近い。

育児を巡る価値観や慣習が違う人種が集まり、経済的、社会的地位がバラバラのこの街で、すべての人に機能するシステムはないだろう。しかしACSの取り組みが傷ついている子供たちを守っているのは事実だ。そして当然のことながらこのようなシステムを補完し、動かしていくのは現場にいる我々であり、人材育成が重要であることは言うまでもない。