3月18日の「睡眠の日」に合わせて、家族の睡眠について改めて考えてみたい。

子どもが寝ている時間に家を出て、子どもが寝てから帰宅するという生活を送っている父親も、少なくないだろう。

そうした生活リズムのなかでは、なかなか子どもの睡眠状況を把握するのは難しいことだが、文教大学教育学部教授で、小児科専門医の成田奈緒子さんは「子どもの成長において睡眠はとても重要」と話す。

子どもにとっての睡眠は昼行性の動物として脳を育てること

成田奈緒子さん
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重要と言われても、「そんなの当たり前だ」と感じる人も多いかもしれないが、「子どもの睡眠を奪う生活をしている親は非常に多い」と成田さんはいう。

成田さんはさらに、「日本人の睡眠に対する考え方はそもそも間違っている」と続ける。

下記の表に記載されている年齢別の必要な睡眠時間を見ると、ほとんど大人である18歳の子どもでも、8.25時間の睡眠は必要とされている。しかし、実際に現代の大人たちは4~5時間睡眠が当たり前になっていて、そもそも自分たちが正しい睡眠時間を確保できていない。

また、「毎日子どもとスキンシップを取らなければ」と、父親が帰ってくると子どもを起こしている家庭も少なくない。

こうしたことを“子育ての常識”と勘違いし、結果的に親が子どもの睡眠時間を奪っているというワケだ。

また、なかには塾や習い事の都合で子どもの就寝時間が遅くなるというケースもあるだろう。

しかし成田さんは、「夜遅くまで勉強しても、あまり効果は期待できない」とも話す。

「朝起きた瞬間は、刺激をたくさん入れれば入れるほど、その刺激がシナプスを作る可能性は高いのですが、夜寝る前の脳は、一日中受けた刺激のせいでシナプスがごちゃごちゃになっている状態。つまり、刺激に飽和している状態です。そうした刺激・情報は眠っている間に整理されます。

朝目覚めた瞬間の脳は、いわば机の上に何もないまっさらな状態。そのため、勉強はどうせやるなら朝の方がおすすめです。これは子どもだけでなく、大人にも言えることで、大人がまずきちんと寝て、脳がスッキリしている状態を作らなければ仕事の効率が落ち、残業しなければならず、夜寝る時間が減るといった悪循環になります」

朝に起きて、夜に眠る。現状、それが出来ていない家庭は多いようだが、この習慣を当たり前にすることが、子育ての第一段階と成田さんは続ける。

「人間は本来、昼に行動して夜になったら眠る昼行性の動物です。しかし、赤ちゃんは昼も夜も見境なく寝たり起きたりを繰り返していて、まだリズムを一定に保てません。その状態から人間本来のリズムに育て上げるのが、子育ての第一段階

言い換えれば、体内時計もぐちゃぐちゃで、睡眠リズムもない赤ちゃんを、きちんと体内時計に脳が従いながら動くように育てるということです。世界的に使われている小児科の教科書では、子どもの睡眠時間(人間が育つために必要な睡眠時間)は決まっているのですが、その通りに出来ていない親は多いのです」

昼寝のせいで夜眠れない!? 子どもと大人の常識は違う

子どもの睡眠に関する悩みとして、親たちからは「昼寝をしたせいで夜眠れなくなった」「夜眠れなくなるから昼寝はさせたくない」という話も漏れ聞こえる。

それに関して成田さんは、以下のように話す。

「先ほど話したように、『夜は寝て、昼は活動する』というリズムが出来上がらないといけません。そのため、昼寝をして夜寝られないというのは、本末転倒な話です。

多くの家庭では、夜にきちんと寝かせてあげられていないから、昼にたくさん寝てしまう。そしてさらに、夜に寝られなくなるという悪循環に陥ってしまいます」

一般的に、5歳くらいまでに昼行性のリズムが脳に刻まれ、昼寝をしなくなるとのことだが、この年齢になっても保育園などで昼寝をしている、しかも何時間も寝ている子どもは少なくないという。

「なかには、そんなに長く寝かせる『保育園が悪い』という親もいますが、これは親の責任。親が夜間の睡眠をきちんと必要な分だけ確保する生活を毎日繰り返していないと、昼寝から起きられない子になってしまうのです。

上の表を見てわかるように、5歳の子どもは本来11時間の睡眠が必要。単純に夜7時に寝かせて、朝6時に起きるということですが、日本でこれが出来ている家庭はほとんどありませんよね。

そもそも平均睡眠時間が短いのです。百歩譲ってマイナス1時間、つまり10時間の睡眠は死守しないと、体内時計が正常にはたらく昼行性のリズムが養われません。必要な分だけぐっすり眠れるように、家庭で作っていくことが大切です」

「日本人は寝ない人種」とも揶揄される。世界の国々と比べても睡眠時間が少ないことが日本の大人の現実だが、「それを子どもにまで当てはめてはいけません。子どもと大人の常識は全然違うので、子どもに押し付けないで」と成田さんは警鐘を鳴らす。

睡眠リズムの改善は「朝起きること」から

睡眠の重要性についてはだんだんわかってきたが、行動に起こすとなると話は別。長年染みついた睡眠のリズムはすぐに変えられる?

「5歳くらいまでなら、一週間もあれば変わります。ただ、大人だと半年くらいはかかりますね」

子どもと大人でかかる時間に差はあるが、「誰でも習慣を変えることができる」と成田さん。ここで例に挙げてくれたのは、「時差ぼけ」だ。

「時差ぼけというのは、睡眠に関して脳が日本の時間帯に合わせて体内リズムがしっかり出来上がっている証拠。脳は日本の時間に合わせて動いているのに、日本と時間帯が違うアメリカに行くことで、一時的にズレが生じますが、しばらく滞在すると向こうの時間帯に慣れていきますよね。

人間の脳は『可塑性』、つまり環境への適応能力が高いのです。そうしないと生き延びられないから。5歳くらいまでなら、まだ成長の途中ですので、いくらでも変わります」

とはいえ、規則正しい生活に戻すためには、どんな行動を起こせばよいのか。

まずは、『朝起きること』から始めて下さい。普段遅くに寝ているのを、早く寝ようと思うと意外と寝付けないものです。寝る時刻が変えられないなら、変えなくていい。

起きる時刻を少しずつ前倒しにしていくと良いと思います。15分ずつでもいいから早く起きる。無理に『早く寝よう』と思わなくても大丈夫ですよ。

ちょっとずつ起きる時間を早めて朝日を浴びるようにするだけで、気持ちが前向きになるし、効率が上がり、勉強や仕事が短縮される。そして何より、夜になるときちんと眠くなります」

最後に、「『眠くなったから寝る』ことが一番の『幸せ』です。仕事がたくさん残っているけれど、寝なきゃいけないから寝る…では、罪悪感が残り気持ちよく寝付けません。『眠いから寝よう』という感覚を取り戻してほしいです」と成田さん。

子どもにとって大切な睡眠の習慣は、親だけ、子どもだけではなく、家族みんなで作るもの。

子どものためを思うなら、まずは自分たち親が変わらなければいけない。

家族の朝が早く始まれば、一緒に朝ご飯を食べるなど、スキンシップの時間もきっと増えていくはずだ。

文=明日陽樹/考務店
取材協力=成田奈緒子
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