マイク(4歳男児・仮名)は父方の祖父とその妻(実の祖母ではない)、さらに警察官に連れられて、ある日、救急病棟にやって来た。

目の周りには明らかなあざがあり、足を少し引きずって歩く姿を見て即座に児童虐待が疑われた。

「数日間会わないうちに、あざだらけになっていて、何が起きたのか分からない」と不安そうに話す祖父の報告を聞いた時点で、私は病棟に呼ばれ、事態の全体像を把握するべく話を聞き出していく。

IMAGE
この記事の画像(3枚)

マイクとは約7ヶ月間会えなかった

祖父によると、マイクが生まれた時、彼の父親(祖父の息子)が服役中だったため、祖父とその妻は出来る限り母親をサポートし、マイクの人生に積極的に関わることを決心したのだという。とはいえ、マイクは22歳のお母さんと暮らしているため、会える頻度や長さは母親によって一方的に決められ、彼らは基本、母親のペースに合わせていた。

時には数時間、時には1ヶ月近く祖父に預けられていたこともあり、それは母親の都合によって毎回変わっていたという。

バラバラなスケジュールではあったものの、マイクとはある程度定期的に会っていた祖父とその妻だったが、昨年の4月あたりからぱったりと会えなくなってしまったという。

祖父によると、どうも母親に新しいボーイフレンドができ、その彼との関係が原因で祖父との関係を一時的に遮断したようなのだ。携帯メッセージで母親とのやりとりは続いたものの、結局、11月末の感謝祭の数日前までの約7ヶ月間、マイクとは会えなかった。

突然の母親からの提案で7ヶ月ぶりの再会を果たした祖父だったが、マイクはまたすぐに母親の元へと戻っていった。

その数日後、祖父は母親から妙なテキストを受け取った。

「しばらくマイクを預かる気はない?養育権を一時的に祖父に渡すことも考えているから」

何が起きているのか分からなかったものの、祖父は即答し、翌日マイクを引き取りに母親の家へ行った。この時、数日ぶりに会ったマイクの顔には大きなあざがあり、足が痛いと引きずって歩いていた。

IMAGE

母親は「転んだだけよ」と説明し、祖父の質問には取り合わなかった。母親はレポート用紙に「マイクのケアに関わる一切の権限を祖父とその妻に託します」とサインし、マイクの保険証(メディケイド:低所得者用国民皆保険)を手渡した。

自宅へ連れて帰り、祖父とその妻はさらにマイクの胸、腕、そして太ももにも広がる無数のあざを確認し、かなり動揺したと話す。母親に再度問い合わせても、「だから転んだだけよ」と繰り返すばかり。

祖父とその妻は、おそらく母親の新しい彼氏がマイクに手を上げ、それを見るに見かねた母親がSOSとして助けを求めてきたのではないかと考えている。しかし、母親への疑いが全くないわけでもないという。

州政府に任された虐待調査

いずれにせよ、マイクが危険に晒されていたことを確信した。どうしたらよいのかわからない祖父の妻は近所に住む地元の大きな児童福祉団体の知り合いに相談し、結局この知り合いがState Central Registry (SCR)というNY州の一括通報システムに通報するに至った。

子供と関わる職務に従事している場合には、Mandated Reporterと呼ばれ、虐待が疑われた場合にはSCRへ通報することを法律で義務付けられている。彼らが SCRに通報する場合には記名で、一般の人が通報する場合には匿名でもよいとされている。

この時、疑われる虐待の加害者が、保護者や責任者(内縁の妻/夫、親族、ベビーシッター、家庭教師、幼稚園の先生など)以外の全くの他人や普段めったに会うことのない親族などである場合、通報が受け付けられないことがある。

この場合にはLaw Enforcement Referralといい、警察への通報に切り替えられる。さらに、虐待の疑いが不十分である場合も通報が受け付けられないことがある。

通報が受け付けられた後、数時間後には、SCRからそれぞれの管轄の児童保護サービス(Child Protective Service=CPS)に通達され、実際の調査を行うケースワーカーにケースが割り当てられる。

ブロンクス市営病院の小児救急病棟でソーシャルワーカーとして関わるケースでは、必ずといっていいほどCPSが介入してくる。そのほとんどがマイクのような児童虐待(ニグレクトを含む)やDV、保護者の精神疾患など子供の安全に直接関わるからである。

アメリカのCPSは 、問題家庭への介入、警察などの他機関との連携などの点において、日本の児童相談所と似ているが、一番大きな違いとしては「圧倒的な権限を有している」ということかもしれない。

問題点も多いと指摘されているシステムではあるが、マイクの場合、具体的にどのような形で虐待の調査、対応が行われたのかを次回に紹介したい。

なお、アメリカでは州政府が大きな力を持っており、それぞれの州で行政運営は独立している。当然、基本的な虐待をめぐる理解などは国レベルで設定されているのだが、文化やニーズは州ごとによって大きく違うため、詳細は州任せ。

一つのシステムを全州に当てはめると言うよりも、それぞれの州がシステムを作り、運営した方が効率がよく、理にかなっているのだ。

つまり、NY州のCPSのシステムはあくまでNY州のもので、他の州とは異なる部分もある。


(中編へ続く)