マイク(4歳男児・仮名)に対する児童虐待の疑いがある―。

NY州の一括通報システムSCR(State Central Registry )は、そんな通報を受けた。

(詳細は前編:「養育権を放棄した母親。救急病棟に来たマイクはあざだらけだった」https://www.houdoukyoku.jp/posts/25832

そうした通報があった場合、数時間後には、SCRからそれぞれの管轄の児童保護サービスCPS(Child Protective Service)に通達され、実際の調査を行うケースワーカーにケースが割り当てられる。

NY州の中でもCPSは62あるcounty(群)に所属しているため、その名称もそれぞれ異なっている。

私が働くブロンクスはBronx Countyなのだが、NY市は5つのCounty (Manhattan、Queens、Brooklyn、Staten Island)が一つの行政(NY市行政)としてまとめられているため、NY市のCPSは、NY市のAdministration for Children’s  Services、通称ACSの管轄になる。

CPSと警察が二人三脚で調査

通報の中で、疑われる虐待の内容が明らかな怪我を伴うなど深刻な場合、ACSに情報が入った時点で警察が同時に介入することがある。

ACS内のInstance Response Team Coordinator(IRTC:緊急対応チームコーディネーター)と呼ばれる役職により、ケースがenhance(強化)され、CPSと一緒に警察を緊急で対応させる。

CPSと共に捜査を行うのは管轄警察署の警察官ではなく、NYPDの中のSpecial Victims Division(SVD:性犯罪特捜課)と呼ばれる性犯罪、および児童虐待の捜査をする課の警官、刑事である。

マイクへの虐待を危惧して通報した後、知人はさらに911(日本の110番と119 番が一緒になった番号)にも通報。マイクを救急車で総合病院に連れて行くように指示した。

虐待の調査において重要となる怪我の有無をしっかりと調べるために小児救急病棟で身体検査を受けることが通例だからだ。

この時、救急隊員とともに管轄警察署の警察官が一緒に対応することも多く、SVDの警官、刑事が対応するまで子供に付き添う。

マイクの場合、体全体へのあざの酷さからIRTCによって対応が強化され、即座にCPSのケースワーカーとSVDの女性刑事が救急病棟へとやってきた。この時点で管轄警察署の警察官はお役ごめんとなる。

マイクから虐待の内容を聞き出す

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私は両者とこれまでに祖父達から得た情報を共有し、また医師が撮影したマイクの怪我の写真を提供する。

この時点でマイク本人から虐待の内容をまだ聞き出していなかったため、ケースワーカーと刑事が一緒にminimal fact interviewとよばれる簡単なインタビューを行う。

これは、虐待の有無を最小限に確認し、後に子供の発達過程に沿った専門的なインタビューの必要性があるか否かを判断するためである。

子供というのは、質問の仕方、大人の声のトーンや表情などに容易に影響を受けやすく、専門的なトレーニングを積んだインタビュアーでなければ正確で信頼できる情報を引き出すことができないことが研究で証明されている。

そのためにChild Advocacy Center (CAC)と呼ばれる子供に負荷のないクリニックで、Forensic Interviewと呼ばれる専門のインタビュアーにより、虐待の正確な内容を確認する必要がある。

Minimal Fact Interviewから基本情報を聞き出したケースワーカーと刑事は、お母さんのボーイフレンドからの虐待を確認し、次なるステップへと進む。ケースワーカーは即座にマイクの危険性を把握し、母親の元へマイクを戻さないように祖父とその妻に指示をする。

マイクの場合は、祖父とすでに一緒にいたことから、母親からemergency removal(緊急養育権剥奪)される必要はなかったが、もし、面倒を見てくれる親族や友達などが誰もいなかったら、おそらくケースワーカーの権限によって母親から強制的に引き離され、里親制度に入れられていただろう。

その場合、すぐには里親が見つからないため、Children’s Centerと呼ばれる一時保護施設に一時的に入れられ、のちに里親エージェンシーを通して里親の元へ送られることになる。

最新の2016年のACSの統計によれば、NY市全体で57,526件調査したケースのうち、37.6%において虐待が立証されており、3,506件が里親制度へと送り込まれた。

当面のマイクの安全を確保した時点でケースワーカーと刑事は母親の自宅へと足を向ける。CPSは、調査の対象となる家庭の他の子供達の安全も通報から24時間以内に確認しなければならないためだ。

母親にはボーイフレンドとの間に生後3ヶ月の乳児がいたため、すぐにその乳児の安否も確認するべく、自宅へと向かう。このケースではボーイフレンドからの暴力を目撃しながらも何もしなかったことから、母親への責任も問われ、乳児もすぐさま強制的に両親から引き離され、養育権を剥奪された。

ケースワーカーはマイクの幼稚園の先生、近所の人などを含めた家族と関わりのある関係者へのインタビューも行い、情報収集していく。

小児救急病棟にきた翌日、マイクはブロンクスにあるCACにてForensic Interviewerからインタビューを受けた。

マイクのインタビューは重要な証拠に

CACが一般的になる前、虐待を受けたと疑われる子供は、まず虐待を打ち明ける人(学校の先生や保護者)、その後警察官、医師、CPSケースワーカー、検察官、判事、セラピストなどと実に多くの人に何度も同じ話を繰り返しする必要があった。

これは子供をre-traumatizeする(再びトラウマを与える)だけではなく、虐待内容の一貫性を保つことを難しくし、捜査に影響を及ぼすことが多々あった。さらに、何度も同じ話をするのが嫌で、虐待はなかったと子供が発言を撤回するケースもあり、そうなれば本末転倒となる。

そこで、関係者を一同に集め、専門家による1回のインタビューをオブザーブすることで、より正確で信頼できる情報を共有し、協力しあいながら調査を進めることができる方が合理的だということになった。

基本、CACには児童虐待を専門とする医師、Forensic Interviewer、ソーシャルワーカー、サイコロジストが常駐し、インタビューだけでなく、身体検査、セラピー、裁判の準備、ケースマネージメントなどのサービスも提供されている。

マイクのCACでのインタビューは、ケースワーカーはもちろん、刑事、ブロンクス検察局の検事補によってオブザーブされ、のちにボーイフレンドおよび母親の逮捕につながる重要な証拠となった。

このインタビューを通して、マイクはボーイフレンドによってひどい暴力(殴る、蹴る、押し倒す)を受けたこと、母親が近くにいながらも暴行を止めなかったことを明らかにした。この証言とマイクの体に残された証拠から、検事補はボーイフレンドと母親への逮捕状を請求し、その直後の逮捕に至った。

マイクの場合は、明らかな虐待の証拠が残っていたため、スムーズに逮捕に至ったが、虐待には必ずしも証拠が残るわけではない。そういった場合にはこのforensic interviewがより重要な証拠となり、虐待した保護者、責任者への責任追及につながる。マイクはその後、このCACにてトラウマによって傷ついた小さな心のヒーリングのためにセラピーも受け始めた。


(後編に続く)