6歳以下への性虐待の半分が家族

ブロンクスの小児救急病棟でソーシャルワーカーとして関わる多くのケースが虐待に関わるものであることは、これまでの記事でも紹介してきた通りだ。

虐待と一言で言ってもその内容はニグレクトや身体虐待、性虐待、精神虐待と多岐に亘る。

一般的に虐待と聞くと一番に想像するのはあざや傷だらけの小さい子供だろうが、 私が務める救急病棟にはsexual abuse(性虐待)の疑いで運ばれてくる子供も少なくない。

性虐待とは、子供に対する性的行為のことで、加害者に性的快楽、もしくは金銭的な利益を与えるものと定義される。具体的には、体を触る、強姦、ポルノグラフィー、露出、近親相関、さらに他の性的搾取に関わる行為を指す。

2015年の統計 (National Children’s Alliance)によれば、アメリカで年間70万人近い虐待を受けた子供のうち、ニグレクトが約75%と一番多く、続いて身体虐待が約17%、そして次に性虐待が約8%となっている。

この中にはpolyvictimized(いくつかのカテゴリーにまたがる虐待)される子供も数多く存在する。 

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性虐待の被害を 受けた子供のうち、そのほとんどが加害者を知っており、半数以上は子供の家族が信頼していた人であるという。さらに、加害者が家族であるというケースも多く、その割合は子供の年齢が小さいほど高まる。

6歳以下の子供に対して性虐待を行なった加害者の半分が家族という統計もある。

11歳のアンは、ある日学校で親友の女の子に虐待されている事実を打ち明けたことから、救急病棟へとやってきた。友達からの報告を受けた学校の先生が、アンから事実を確認した時点で、911へ通報。救急車と警察、両者の対応を要請した。

さらに、アンの法的保護者である母方の祖父母へも連絡をとり、学校へと出向いてもらった。

関係者全員が学校に集まったタイミングでアンは病院へ連れてこられた。

加害者が巧みに子供の心理を利用

私はまず同行した警察官から、アンがこれまでに打ち明けたことを聞き出す。

彼らによれば、アンは1年前から、おじ(母方のおばの夫)によって性虐待(強姦)を受けてきたという。

最後の虐待はおよそ1ヶ月前。

おじはブロンクスから車で1時間半ほど北に行った街で、おばと2人の子供(11歳と18歳)と暮らしている。アンが11歳のいとこと仲が良いことから、学校が休みになるたびに遊びに出かけていたそうだ。その楽しかった訪問が、1年前からアンにとっては悪夢へと変わっていった。

アンは、シングルマザーである母が軍に所属しているため、小さい頃から祖父母が母親代わりに面倒を見てきた。

駐屯地を転々とすることで、不安定な生活を送らせたくないという母親の願いからだ。電話やソーシャルメディア、その他、時折訪問する形で母親とは頻繁に連絡を取っていたというが、物理的な距離は確実に存在した。

私はアンにインタビューを始めた。ジャケットを頭からかぶり、ここから消えてしまいたい!と体全体で表現しているかのように座っていたアンは、声をかけられると静かにジャケットをめくり、床を見つめたまま私の質問に耳を傾ける。

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私は、アンのボディーランゲージを言葉で表現することによって、アンの今の気持ちをvalidate(正当だと認める)し、想像もつかないようなひどい体験をしたことが、いかに不当で、間違ったことかをアンに伝える。

性虐待では、加害者が力や暴力を使わずに、子供の信頼を得て、コントロールすることによって長期間に渡って被害を与えていくというのが多くのパターンである。度重なる虐待は、加害者が巧みに子供の心理を利用することによって徐々にエスカレートしていく。

性虐待の場合、このような特殊なパターンから、子供が最初の虐待後すぐに打ち明けるということは稀で、また身体虐待のように明らかな証拠(あざや傷)を残さないことが多いため、発覚が遅くなるケースが多い。

子供の多くは、加害者による巧みな心理操作により、自分が虐待を容認したのだと思い込むようになり、虐待されたことに対して自分にも責任があると感じるようになる。それは、次第に自己否定や自己嫌悪に繋がっていく。

だからこそ、私は何よりも先に、罪は他の誰でもないあなたのおじにあるのだということ、アンには100%罪がないこと、自分を責める必要は全くないことをはっきりと伝える。そして、私は彼女の話を100%信じていると。

すでに警察官からある程度の情報を得ていたため、私はその情報を確認させて欲しい、さらにメディカルな視点から何をする必要があるのかを医師が判断するために、虐待の内容(性交があったのか、コンドームは使われたのかなど)だけを確認させて欲しいと伝えると、アンはまっすぐに私を見つめ、涙を流しながらうなずく。

「消えてしまいたいと…」

か細い声で質問に答えたアンは、最後に、self-harm(自傷)もしくはsuicidal ideation(自殺願望)があるかと尋ねられると、頷いて続ける。

「虐待が続いていた時は消えてしまいたいと思っていた。そうすればもう虐待されずに済むから」

ようやく胸の内を明かせた今、少し気持ちも楽になったと話すアンだったが、その表情や声色からは、今でもショックが大きい様子がうかがい知れた。アンはまた涙をポロポロ流し始める。

さらに彼女の話を聞くと、祖父母は自分を信じていないと思うと話す。

学校から病院までの道中、同行した祖父母は、「あのおじさんがそんなことをするとは到底信じられない、夢を見ていたのではないか」と繰り返しアンに聞いてきたのだという。即座に信じてもらえていないと感じたアンは、急に心細く、暗い気持ちにさせられたのだ。

私はこの時、もしかしたらアンが後になってrecant(発言の撤回)してしまうのではないか、と感じていた。性虐待を打ち明けた子供のうち、約4分の1は、後になって発言を撤回してしまうことがある。さらにその一番の原因が、加害者ではない親からのサポートの欠如であることも判明している。

また一方で、子供が性虐待を打ち明け、後に撤回したケースでは、そのほとんどにおいて子供が虐待の事実を打ち明けていた、ということも事実だ。

その分、子供が発言を撤回してしまうと、関係者は一同とてもやりきれない思いを抱く。子供のために正義が勝ち取れず、責任を逃れた加害者によってさらなる被害者が出てしまうかもしれないという可能性が残るからだ。

私は再度、アンが打ち明けた内容を100%信じていること、おじに全ての責任があること、打ち明けられたことを誇りに思っていることを告げた。そして、今感じている自己否定や自己嫌悪、また恥じる気持ちというのはすぐにはなくならないが、専門家とのセラピーによって、必ず克服していくことができると話した。

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勇気を持って捜査に協力

遠く離れたおじとは言え、定期的にアンと会い、その間は親代わりに面倒を見ていたという立場から、このケースはSCR(一括通報システム)へ通報され、CPS(児童保護サービス)の介入に至った。

虐待の事実を知らされたアンの母はこの日、駐屯地から即座にブロンクスへ戻り、アンのサポートに徹した。アンは後にCAC(前回の記事を参照)でのインタビューにより、虐待の詳細を語ったことで、おじの逮捕へと繋がった。おじに罪の代償を払わせるために、自ら勇気を持って捜査に協力した。

アンは現在、性虐待の被害者を専門にしたクリニックでセラピーを受け、少しずつ本来の自分を取り戻し初めている。

虐待をなくすことが可能であれば、それに越したことはない。しかし、実際には多くの社会問題があまりに複雑に絡み合っていることがこういった虐待の根底にあるため、全てを解決し虐待をなくすなどということは現実的には不可能だ。

それでは今、自分には何ができるのか。科学的に証明されている事実をしっかりと把握し、不運にも虐待された子供達をできる限りサポートし、ダメージを最小限に抑えることではないか。

虐待は決して許されることではない。自分たちのような専門家が常に情報に目をやり、一人でも多くの子供を助けていきたいと切に思う。暗闇は晴れないが、そこにかすかな光をあてることはきっとできるはずだ。

(画像はすべてイメージです)