“週末だけの父親”になりたくない…

「このままもう1期連邦議員を務めると、私は“週末だけの父親”としてしか子供達に記憶されなくなってしまう。」
“If I am here for one more term, my kids will only have ever known me as a weekend dad".
 

今年11月の中間選挙に出馬せず連邦議会から身を引くと、11日、ワシントンで発表したライアン下院議長の言葉である。

子供達と過ごす時間がもっと欲しいという理由で職を変えるのは、欧米では珍しいことではない。なので、この引退理由自体を批判する人は居ないはずである。

だが、まだ48歳で、いずれは大統領候補になる可能性も取り沙汰されていたライアン下院議長が“引退を決めた理由は本当にこれだけ”と信じる人も居ないはずである。
 

本当の理由は誰もが知っている

 
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アメリカの下院議長(the Speaker of the House of Representatives)の権限・影響力は極めて大きい。日本の政界と比べてみると、衆議院議長と与党幹事長を合わせた位の力を持っていると言っても大袈裟ではない。
現職大統領に万が一のことがあった場合の継承順位も副大統領に次ぐ第2位と格も非常に高い。

そうした中、48歳と若く聡明なライアン下院議長は、右派と主流派の対立が続く議会共和党の重石として、同時に、気紛れで伝統や慣習を平気で無視するトランプ大統領と議会との橋渡し役として、極めて重要な役割を果たしてきた。

また、共和党本流で良識派の代表格でもある議長は、党の政治資金集めの広告塔としても非常に大きな成果を上げて来た。

そのライアン議長が、苦戦を伝えられる中間選挙の7ヶ月前に戦線離脱を宣言したのである。ワシントンの政界に激震が走ったのも当然である。そして、その本当の理由は、党内の対立と気紛れ大統領にうんざりしたからだと誰もが感じている。
 

議員引退を決めた共和党議員は40人以上

The New York Timesより

「ポール・ライアンが中間選挙に向けての共和党の望みと計画をひっくり返す。」
“Paul Ryan Upends Republican Hopes and Plans for Midterm Elections”

ニューヨーク・タイムズ紙の解説記事はこのような見出しで、その衝撃の大きさを伝えている。

次回中間選挙に出馬せず議員引退を決めた共和党議員はライアン議長だけではなく、実はかなり多い。ニューヨーク・タイムズ紙によれば既に40人を超える規模という。
実際、ライアン議長の不出馬宣言のわずか1時間後にはフロリダ州選出の別の議員も不出馬を宣言している。

引退を決めた共和党の主流派や穏健派議員がやる気を無くした理由は、このままだと、トランプ大統領に近い党内右派から予備選で攻撃を受ける上、トランプ憎しで燃える野党・民主党からの攻撃も本選で受ける為、勝てそうにないからだと言われている。

こうした情勢に加え、資金的にも精神的にも頼みの綱だったライアン議長“引退”を受け、立候補をあきらめる共和党主流派・穏健派の現職議員が今後も続く可能性をアメリカメディアは指摘している。

ホワイトハウス幹部や閣僚レベルの更迭・辞任が相次ぐトランプ政権だが、与党からも離脱の動きが加速している。トランプ大統領自身はますます意気軒昂のようだが、トランプ丸からの脱出が止まらないのである。 
 

中間選挙で下院は過半数維持できず?

 

11月の中間選挙では、下院は435全議席、上院は100議席中34議席が改選となる。
特に問題となるのは下院で、現有で過半数を23議席上回る共和党が過半数を維持できるかどうか既に微妙な情勢である。

世論調査は30議席程の激戦区の勝敗が全体の結果を左右すると接戦を伝えているが、今回のライアン氏“引退”発表を受け、共和党長老のギングリッジ元下院議長は「昨日の時点で既に過半数維持が難しくなっていた下院で共和党が勝つ可能性はさらに低くなった。」と悲観的な見通しを明らかにしている。

投票日は7ヶ月近くも先なので、まだ何が起きるか判らない。が、もしも、下院で民主党が過半数を奪還すれば、トランプ大統領の政策はさらに進まなくなる上、いわゆるロシア疑惑の今後の展開次第では弾劾手続きの開始も視野に入ってくる。 

トランプ大統領が対中貿易問題等で保護主義に走るのも、シリアやイラン、そして、もしかしたら北朝鮮でも、強硬な態度に出るのも、この中間選挙を意識している為だと言われている。

重石のライアン議長の“引退”はトランプ丸の針路にも大きなインパクトを与えることになるかもしれない。