地震防災が迎えた転換期

どれくらいの方が知っているのだろうか。


「地震は予知できる」ということを前提に、およそ40年にわたり行われてきた東海地震に関する防災対応は改められ、住民を避難させ新幹線や高速道路を止める、内閣総理大臣からの「警戒宣言」はもう出されないことを…。

代わって昨年の11月からは、南海トラフ沿いで巨大地震の前触れの可能性がある地震や異常現象を観測した場合に、気象庁から「南海トラフ地震に関連する臨時情報」が発表されるということを…。そして、その場合の具体的な防災対応はまだ決まっていないことを…。

これまで予知を前提としてきた地震防災は大きな転換期を迎えた。

「いつ、どこで」の予知はできない

 そもそも地震は突然起こるものだと心に刻んでおくべきだ。最大震度7を観測した1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2004年の新潟県中越地震、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、そして2016年の熊本地震。大地震はいつも前触れなく突然起こった。
残念ながら、たくさんの方が犠牲になっている。みんな分かっていたことだが、今の科学では、「いつ、どこで、どのくらいの」地震が起こるかの予知はできないのだ。

 昨年の夏の終わりに科学者たちは、「予知を前提にした地震防災を改めるべき」と政府に提言した。
一方で、「いつ、どこで、どのくらいの」地震が起こるかを確度高く予測する科学的に確立した手法はないとしながらも、これまでの科学的知見と観測技術から、プレート間の固着状態の変化を示す異常現象を検知して「地震発生の可能性が高まっている」ことは言えるとしている。

この科学的知見に基づいて、大地震発生の可能性が高まっていると判断した場合には、国民に向け「南海トラフ地震に関連する臨時情報」を発表し注意を呼びかける暫定の対応を始めている。

南海トラフ地震「臨時情報」…対応は自分次第

情報発表までの流れはこうだ。

気象庁は南海トラフ沿いの巨大地震の前触れの可能性がある地震や異常現象を観測した場合、およそ30分で専門家による検討会を開き、調査開始を国民に知らせる「臨時情報第1号」を出す。
さらに1時間半程度で、普段より地震発生の可能性が高まっていると判断すれば「臨時情報第2号」で注意喚起をし、国民に日頃の備えの確認を呼びかけるとしている。

 この南海トラフの「臨時情報」は東海地震の「警戒宣言」とは違い、現状では住民や企業に拘束力のある指示指令は出ない。家具の固定、避難場所・避難経路の確認、家族との安否確認手段の取決め、備蓄の確認など日頃の備えを改めて確認するよう呼びかけるだけだ。

政府は自治体に対しても防災の基本方針は示しておらず、対策は各地域に任せている。つまり、いま「臨時情報」が出たら、どう行動するかは、個人も企業もあくまで自分次第なのだ。そのあたりが暫定の対応としている部分である。

 そんな不確かな情報では避難もできないし、経済活動を止めたりは出来ないと考えるのが普通だ。自治体だって、どの時点で避難させればいいのか担当者の悲鳴が聞こえてきそうだ。いざという時の広域支援などを考えても国の方針、防災対策の基本的なガイドラインがなければ混乱することもあるだろう。

政府は新たな防災対策策定へ

 昨年11月1日からの気象庁による「臨時情報」の運用が始まってから、すでに政府の中央防災会議は新たな防災対策策定に向けた作業を開始している。

まずは、南海トラフ沿いの、静岡県、高知県、名古屋など中部経済圏の3つの場所をモデル地区に選び、自治体や企業に対し「臨時情報」が出たらどうするかの聞き取り調査や地域住民を巻き込んだ津波避難に関するワークショップなどを行ってきた。

 その報告をもとに年度の変わった4月12日からは防災対応について専門家による検討会が始まった。第1回の会合では地震・防災の専門家のほか静岡県と高知県の知事など、あわせて17人の委員によってそれぞれの立場で意見が交わされた。

南海トラフ沿いの異常な現象を捉えた際に沿岸の自治体や住民、企業はどんな防災対応を取ればよいのか、今後も多角的な議論が交わされると思われる。また避難した住民がいつまで受忍できるかや経済活動が停止する損失を考えると、情報が出た後の解除のタイミングも課題となりそうだ。

この作業部会の主査である名古屋大学の福和伸夫教授は、第1回の会合を終えて、「国として大まかな基本的な考えは作りつつも、詳細なところは地域で当事者意識をもってその地域ではどう動いていくかを決めることが大切」と話した。

また国が策定を目指す防災ガイドラインについて、「それぞれの地域での多様な考え方も受け止めつつ、どうすれば社会全体の被害を最も減らせるか、みんなの知恵の集めどころだと思う」と意見集約の難しさをにじませながらも、新たな態勢への社会的合意の形成を目指して年内には基本方針をまとめるとしている。

 南海トラフ地震が今後30年以内に起こる確率は、今年2月にこれまでの70%程度から70~80%に引き上げられた。突然起こる巨大地震に備え被害軽減のために何をすべきか。巨大地震の可能性が高まった「臨時情報」が出た時にどう行動するか。

政府のガイドラインが決まるにはまだ時間がかかりそうだ。

まずは家具の固定から始めようと思う。