大統領貿易促進権限の延長のため自由貿易派に配慮

トランプ大統領がTPP復帰の検討を指示した真意は何なのか?
まず国内事情だ。

大統領が貿易交渉を行うなうために不可欠とされるTPA=大統領貿易促進権限が7月1日で期限切れになる。
その3年延長のために議会が反対しないように対策を講じる必要がある。

特に上院の勢力図は与党共和党51×民主党49と拮抗しているので、共和党議員の数人が延長反対に回ったら、トランプは7月以降、あらゆる貿易交渉ができなくなってしまう可能性に直面している。

しかも今年2月には、その上院の共和党議員25人がTPP復帰を求める連名の書簡をトランプに出している。
トランプは上院にTPAの延長を拒否されたら「二国間交渉でアメリカに有利な取引をする」どころではない。

すべての国に相手にされなくなってしまう。
TPAを持たない大統領と合意しても、米議会が批准する可能性はほぼゼロだからだ。

実はTPP交渉もオバマ前大統領がTPAを持っていなかった間は遅々として進まなかった。ことろが、2014年の中間選挙で共和党が上院の多数も制したことが転機となり、2015年に期間3年のTPAが付与され、その1年後にTPPが合意に至ったという経緯がある。

トランプはオバマ時代のTPAを受け継いでいたのだが、ここで議会のチェックが入るタイミングがやってきた。

ただし、TPAの延長は、上下両院のいずれかが6月30日までに反対の決議をしない限り認められることになっている。
つまり、トランプにとっては、延長反対派が結束しないように対策しつつ、あと2か月半を乗り切ればOK。という事情があって「TPP復帰の検討」を、わざわざ上院議員たちの前で指示してみせたのだ。

議会向けのパフォーマンスと言っていい。

アメリカ抜きのTPP11の発効を遅らせたい

次に対外的な狙い。
当然、来週に迫ってきたシンゾー・ドナルド会談を見据えている。

答えから言ってしまえば、アメリカ抜きのTPP11の今年中の発効を邪魔したいのだ。

トランプ政権の基本方針は、二国間交渉でアメリカに有利な取引を実現すること。
もっと直截に言ってしまえば、アメリカの経済力と軍事力を梃子に“不平等条約”を押し付けようということだ。
それは米韓FTAの経緯と合意内容から透けて見える。

ところが、TPP11が発効してしまい、インドネシアやタイ、フィリピンなども新たに加わってくると、加盟国の結束と総合力が強まり、アメリカへの当初合意内容での復帰圧力が高まる。
同時にTPP11加盟各国はアメリカと二国間交渉に入ることへの抵抗を強める。
TPP11より不利になる取引はしたくないからだ。

それは日本にとっても同じだ。

今すぐではないが、いずれ日米FTA交渉を始めるためには、当面、TPP11が発効しないでくれる方が良い。TPP11の一番の推進役である日本の総理との会談を控え、「TPP復帰の『検討』をするからTPP11の推進はちょっと待ってくれ」と時間稼ぎをする。それがトランプの狙いだ。

今年になってから2回、トランプはTPP復帰の可能性を示唆した。

最初は1月のダボス会議の際。自由貿易派の牙城で反トランプの風当たりを弱めるためだ。
2回目は3月のTPP11の署名式の直前に揺さぶりをかけてきた。

だが、トランプの貿易政策や交渉への姿勢は何も変わっていないことを肝に銘じたい。

今シンゾーを追い詰めるのは得策ではない

だったら、最初から「日米FTA交渉を始めよう」と安倍総理に要求すればいいじゃないか!と思われるかもしれない。

確かに、交渉の最前線に立つUSTRはようやく幹部人事が出そろい戦闘体制は整ってきた。
米韓FTAは北朝鮮がらみで合意を留保中だが最終決着は手の届くところにある。

NAFTA再交渉はまだ視界不良だが5月中に合意か?との見方も強まってきた。

次の貿易交渉相手はEUを離脱するイギリスが待ったなしなのだが、日本政府はいつまでも日米FTA交渉をスルーし続けられるわけではない。

ただし、トランプは今、北朝鮮や中国との大勝負を抱えているし、ロシアや中東ともこじれている。そうした中で、シンゾーに「日米FTA交渉を始めよう」と要求して大っぴらに追い詰めるのは得策ではないと判断しているのではないか。

それよりも、拉致問題や中距離弾道ミサイルへの日本の懸念はちゃんと聞く。
だから「TPP11の推進はスローダウンしてくれ」という取引の方がありそうだ。
シンゾーが「アメリカのTPP復帰の検討を見守りたい」と応じるのかどうか注視したい。