「相手に対し悪意はなかった」「合意のうえだと思っていた」など、加害者とされる側に自覚がないまま深刻な事態を迎えてしまうのが「セクハラ」の恐ろしいところ。

ビジネスパーソン、特に働き盛りの男性としては、万が一に備えセクハラで訴えられた場合の効果や賠償額の基準も知っておきたいところだろう。

セクハラ問題に詳しい弁護士の山田秀雄氏に、セクハラの法的な定義や処罰の実際について聞いた。

実は法的に明確な定義がないというセクハラ
被害者の受け止め方が重要なポイントに

まず、知りたいのが「セクハラ」の定義である。法的には、どのような言動がセクハラとなるのだろうか?

セクハラ問題に詳しい山田秀雄弁護士によれば、

「1999年男女雇用機会均等法が改正され、企業に対してセクハラ防止の義務を課したのがセクハラ規定の出発点になります。しかし今のところ、セクシャルハラスメントとはこのような内容である、という法的な定義というものは存在しません。敢えてわかりやすく定義するなら『相手方の意に反する性的な言動(発言や行動)』。これがセクハラです」

という。明確な定義がないというのは、なんとも不安な気がするが、要するに相手の意に反する性的な言動によって不快感を与えたり、就業環境を悪化させたりしたかどうかが、セクハラを判断するポイントとなるようだ。

「ただしイケメンに限る」は認められる?
認定のポイントは「反復性」と「継続性」

法的には、明確な定義がないというセクハラ。それだけにその場その場の状況で判断しなければいけないようだ。

山田弁護士によれば、セクハラは大きく2つのタイプに分類できるという。


「セクハラは、理念上2つのタイプにわけることができます。
ひとつは社員の性的な噂を流すといった具体的な行為だけでなく、社内で声高に猥談をするなど相手の職場環境を悪化せしめる行為も含まれる『環境型』のセクハラ。

もうひとつが、『仕事をあげるから飲みに行こう』と地位・立場を利用して性的関係を迫る『対価型』のセクハラです。
このうち、悪質度がより高いといえるのが、たとえ女性側に好意がない場合でも嫌がる態度を示したり断ったりすることが難しい対価型のセクハラでしょう」
 

ここで気になるのが、自分の立場を悪用していると受け取られる「対価型」のセクハラ。あからさまな行為に及ぶならともかく、たとえば差し飲みやレジャーに誘うだけでも、セクハラ認定される可能性があるのだろうか?

 「そのあたりが極めて難しいボーダーラインといえるでしょう。食事に誘われても、必ずしも全員がイヤなわけではないですよね?
『ただしイケメンに限る』というジョークがあるように、言われた相手や状況によって受け止め方が変わるのはある意味当然のこと。それだけに、AさんならOKだけどBさんだったら一度誘われただけで、即セクハラ!
というのは明らかな過剰反応として、セクハラとは認められないケースが基本です。
そこで必要になるのが、セクハラ行為として認定するための基準。現在は、言動に『反復性・継続性』があるかが、大きな判断基準となっています。
断っているのに執拗に誘われたら、相手は不快な気持ちになるし仕事にも行きたくなくなる。それが『意に反する性的言動』として認定されるわけです」

過去には212億円の訴訟も!
“身内”に甘い日本企業が抱える「罠」

それでは、もし自分の言動がセクハラと認定されてしまった場合、どのような制裁や効果が待っているのだろうか?

「社内でセクハラが問題になった場合、減給、最悪は懲戒解雇といった処分が考えられます。ただし処分の裁量はそれぞれの会社の考え方や規定によって異なるのが現状。外資系企業はセクハラの事例も多く、処分も厳しいケースが多いですが、日本企業はセクハラに対してまだ甘い傾向があり、かなり酷いケースでも口頭注意で済まされてしまうことがしばしばです」

企業側の処分の甘さが、余計に被害女性の怒りを買い、大事になってしまうケースもある。

それを代表するのが2006年に発覚した北米トヨタの事件だ。秘書に対して好意をもった社長に無理矢理キスを迫られたとして、秘書の女性がなんと212億円の訴訟を提起したのだ。

「北米トヨタの事例は、女性がまず会社側にセクハラを訴えた際、隠ぺいを図るため幹部たちから被害者に退職を促すような言動があったことが、泥沼化した原因とも言われています。初期段階での会社側の対応が、その後の明暗をわける重要なポイントになるのです」

オフィスラブかと思えば大間違い!
急増する「疑似恋愛型」セクハラに注意

一見、典型的な「対価型」のようにもみえる、北米トヨタの事例。しかし山田弁護士によると、この事例は単純な「対価型」ではなく、近年急増している「疑似恋愛型セクハラ」に相当する事例だったとも推測できるという。

「疑似恋愛型セクハラとは、仕事を通して部下の女性と接しているうちに、男性が恋愛感情を抱いてしまうケースです。
男性側に地位を利用したというつもりがないのが困ったところ。仕事の上下関係を誤解し、自分に対して相手も好意があると勘違いしてしまうんです。
合意の上でプライベートな付き合いがあるなら問題はありませんが、その多くは、女性側は義理、仕事として食事やメールにつきあっているだけ。
男性がその義理を誤解した結果が、セクハラとなってしまうわけですね」

もしかしたら、この「疑似恋愛型」には心当たりがある人もいるのでは?
また、最初は合意のうえで恋愛や不倫関係にあったとしても、破局してから相手女性にセクハラで訴えられる場合もあるという。

「男性側は同意の上だった!と反論するケースが多いのですが、『意に反する性的言動』の意に反するという部分は、心の中の反応であり、証明が極めて難しい。
社内恋愛が悪いとはいいませんが基本的に上下関係がしっかりあるなかでは、本当の同意は無い、と思ったほうがよいでしょう」

数十万から1000万オーバーまで!
セクハラの“代償”はどれくらい?

男性側からすれば、スイートなオフィスラブを愉しんでいるつもりが、実際には立派なセクハラ行為だったという可能性もあるのが恐ろしい「疑似恋愛型」のセクハラ。

想定外のトラブルに巻き込まれないため、注意すべき点を聞いた。

 「何より部下には、性的な誘いかけはしないのが賢明でしょう。性的誘いかけをするならば、トラブルを覚悟すること。
海外の賠償金は桁が違いますが、日本でもセクハラで訴えられた場合、数十万から数百万の損害賠償金を求められることがよくあります。
また表沙汰になることを避け示談で解決する場合、金額が高くなる傾向があり、中には1500万という示談金を支払ったケースもあります」

セクハラの内容や期間、状況などを総合的に判断して賠償金額は決まる。
また裁判には証拠があったほうが望ましいが、被害者の供述のみでセクハラが認められる場合もあるという。

もしも身に覚えの無いセクハラで訴えられても、男性側が無罪を主張し続けるのはかなり困難な道のりとなりそうだ。

働く男性がおぼえておきたい
「セクハラトラブル」を避けるための7カ条

最後に、山田弁護士が提唱する、セクハラトラブルを避けるために男性がおぼえておきたい7つの注意事項を紹介しておこう。

・部下を○○ちゃんと呼ぶ
・ボディーサイズについて聞いたり、ボディーラインをチェックしたりする
・お気に入りの異性の部下をプロジェクトにいれる
・繰り返し「結婚はまだか・子供はまだか」と聞く
・一人暮らしの部下をタクシーで自宅前まで送る
・ヌード写真やエッチなものを見せて感想を求める
・宴席で裸芸を披露
(『弁護士が教えるセクハラ対策ルールブック』より)


無自覚なセクハラですべてを失わないためにも「できれば避けるのが好ましく、繰り返せばセクハラとして訴えられる可能性のある行為」として覚えておきたい上記の7カ条。

「いまだに触るのはだめでも言葉だけなら問題ないと思っている人が多くいますが、言葉のセクハラも充分セクハラとして認められます。自分は大丈夫、と思っている人や、性的なジョークが好きな人ほど、注意が必要です」

常に、「相手はもしかしたらこの言動や行為を不快に思っているかもしれない」という気遣いを持つことが、相手だけでなく自分の身を守るためにも必要な「セクハラ」対策なのである。


■山田秀雄 弁護士
弁護士 山田・尾崎法律事務所(代表)
慶応義塾大学法学部卒・筑波大学大学院経営政策学部企業法学専攻科修終了。第二東京弁護士会会長及び日本弁護士連合会副会長を歴任。専門はリスクマネージメントの観点から、企業法務全般、セクハラ、パワハラ対策、企業対象暴力等々。著書に「セクハラ防止ガイドブック」(日経連出版部編 共著)、「女は男のそれをなぜセクハラと呼ぶか」(KADOKAWA)、「弁護士が教えるセクハラ対策ルールブック」(日本経済新聞出版社 共著)外、多数。

文=片岡暁乃 (清談社)
イラスト=マツモトカズトク