人間ではなく怪物の犯罪

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「アサド政権の化学兵器使用は、人間ではなく怪物の犯罪だ」

トランプ大統領はテレビ演説で、14日朝にシリアへ軍事攻撃を行なったことへの正当性をこう訴えた。

米英仏3カ国は、シリアのアサド政権が反体制派との戦闘で化学兵器を使ったと断定し、首都ダマスカス近郊などの同兵器関連施設3カ所への軍事攻撃に踏み切った。

また、「アサド政権の後ろ盾であるロシアにも責任がある」とトランプ大統領がロシアを非難するなど、米欧とロシアの対立は深まっている。

今回の攻撃をアラブ諸国側がどう見ていて、日本ではあまり伝えられていない「本当のシリア情勢」はどうなっているのか。

『イスラム教の論理』という著書を持つイスラム思想の研究者・飯山陽さんに文化放送のラジオ番組(The News Masters TOKYO)で話を聞いた。

シリア攻撃に賛成も反対も表明せず

まず、飯山さんが強調したのは「アラブ」と言っても、立場は国によってかなり違うということだ。

「シリア情勢で関係している国では、トルコは攻撃を支持していて、イランは反対している。また、アラブの中でもサウジアラビアやカタールは賛成していますし、イラクやレバノンは反対しています」

その難しさを表すように、15日にはアラブ首脳会議が開かれたが、そこでもアラブ全体としての態度は表明していないという。

「『シリア問題は政治的に解決されるべきだ』とか『化学兵器は禁じられているので使っちゃいけない』といった態度は表明していますが、アメリカ主導によるシリア攻撃に対しては賛成とも反対とも表明していないんです」

トランプ大統領は「アサド政権の化学兵器関連施設に対する軍事攻撃をアメリカ軍に命じた」と述べて、正当性を強調しているが、そもそも化学兵器の存在に関してもアサド政権側は一貫して否定している。

「シリアの本国としては、化学兵器を作っていないし、研究もしていないし、使っていないという立場です。それを証明するために査察も受け入れていて、その結果が出る前にアメリカがミサイルを撃ち込んできたことはおかしいと。国連のお墨付きを得ないで攻撃しているので、ロシアなどはアメリカの方が法を犯していると反論しているわけです」

80%は政府が奪還

今回のシリア攻撃の報道に接していると、シリア情勢が大きく動いたように思えるが、その印象は大きな間違いで、今回の攻撃によってシリア情勢が緊迫化や悪化したということはないという。

「アメリカが空爆したなどということがない限り、日本ではシリア情勢についての報道が少ない。なので、アメリカ主導でシリア情勢が動いているように見えるかもしれませんが、それは大きな間違いです。むしろ、シリア情勢は収束に向かっているという方が正しくて、シリアの人が住んでいるエリアの80%は政府が奪還しています」

しかし、今回の攻撃を受けて、反体制派や過激派組織「イスラム国」が勢いづくことはないのだろうか?

「アメリカ軍の攻撃の直後にイスラム国がダマスカス近郊を攻撃しています。ちょっと状態が不安定になったところで、反体制派が攻勢をかけるというのは一時的にはありますが、それが全体的な流れを変えるまでには至らないと見たほうがいいと思います」

飯山さん個人としては、アサド政権と反体制派のどちらが正義という問題ではなく、なるべく早く内戦が終結するのがいいという立場だと言い、それは揺るがない状況になっているという。

ただ、イスラム教の論理を理解していないと、「終結」についても見誤る可能性がありそうだ。

飯山さんは著書の中で、「イラクのモスルとシリアのラッカという二大拠点を失った『イスラム国』の勢力は、もはや下火であるように見えます。しかしたとえイラクとシリアで下火になろうと、彼らが世界中に蒔いた火種が完全に消えることは、少なくとも近い将来にはありえません」としている。

「イスラム国」が掲げる理想は、世界18億人とされるイスラム教徒全員にとっての理想で、イスラム教徒にとっては国境も国民国家も民主主義もグローバル化も、所詮は「人間の産物」に過ぎないからだという。

アメリカ側の視点や論理だけでシリア情勢を見ていると、現状や今後についてでさえ正確に把握できない。それを把握するためには、自分たちの価値観とは違う「イスラム教の論理」が働くことを理解しておかなければならない。

「シリア情勢が緊迫化」が間違いであるのと同様に、「収束に向かっている」という報道が出たとしても注意が必要だ。

イスラム教の論理 (新潮新書)
記事 64 清水俊宏

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2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年から「ニュースコンテンツプロジェクトリーダー」。『ホウドウキョク』などニュースメディア戦略の構築を手掛けている。