合言葉 CVIDの “D” の意味が替わっている

4月27日の金正恩・文在寅会談、6月初めまでに行われるトランプ・金正恩会談を見据えたシンゾー・ドナルド会談が日本時間18日早朝から行われるが、気がかりなことがある。核問題のキーワードで両首脳が100%一致していないようなのだ。

北に核開発をやめさせるための日米共通のスローガンと言えば、CVID(Complete,Verifiable,and Irreversible Dismantlement)だ。

「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」などと訳され、6ヵ国協議を進めたジョージ・W・ブッシュ政権は念仏のようにCVID、CVIDと唱えていたことを思い出す。

河野外相もつい先日、文在寅大統領を表敬した際に「北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での核・ミサイルの廃棄を実現するために、最大限の圧力を維持していくことで一致」したとしている(外務省HPより)。

ところが、トランプ政権はCIVDの“D”を『廃棄(Dismantlement)』から『非核化(Denuclearizatin)』にしれ~っと替えているのだ。

それはトランプ大統領と安倍総理(3月9日)や文大統領(3月2日)との電話会談についてのホワイトハウスの発表文などで確認できる。

いつから『非核化』になったのか? 

ある朝鮮半島情勢の専門家は「トランプが去年11月に韓国国会で演説した時が最初だ」と教えてくれた。
確かに、その時の演説原稿をチェックしてみると「完全で検証可能な全面的非核化」(complete, verifiable,and total denuclearization)だ。

大した違いじゃないじゃないか!と思われるかもしれない。

しかし、外交や安全保障の世界では、ちゃんとした理由なくして長く確立していた言い方を替えたりしない。トランプの狙いは何なのだろうか。
(念のためだが、6ヵ国協議で『非核化』という言い方は朝鮮半島全体を対象に使われ、北朝鮮に対しては『(核)廃棄』という使い分けがされている。)

ディール男に好都合なのは曖昧な『非核化』

『非核化』と『(核)廃棄』、実は大違いだ。

『廃棄』には先行事例がある。
旧ソ連の崩壊に伴い、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3国が旧ソ連軍のICBMを継承して新たな核兵器国になったのだが、それぞれの政府・軍には核兵器を適切に管理し安全性を確保する能力が決定的に欠けていた。

核兵器の流出や悪用を危惧したアメリカはその『廃棄』に乗り出す。

1991年のナン・ルーガー法という法律を作り、ICBMの継承国およびロシアと協力して、まず核弾頭を解体し、核分裂性物質をロシアに運んで処理し、ミサイルは破壊、そして地下式サイロを爆破して埋める作業に取り組んだ。

その結果、1991年の時点で世界第3位、4位、8位の核兵器保有国だった3か国は、全ての核兵器を『廃棄』し、完全に非核兵器化されたのだ。

「俺の勝ち」にこだわるからハードルを下げておく

北朝鮮の核問題に関連して「リビア方式」を引き合いに出すのが流行だが、北朝鮮がほぼ核武装化している現状に立てば、核開発が初期段階だったリビアではなくて、ウクライナなどのケースの方がはるかに参考になる。

『廃棄』には技術と資金の裏付けが不可欠だし、個々の兵器の『廃棄』を積み重ねていくことが必要で、実現するには時間がかかる。
“dismantle”には「計画に従って、一定の期間内に」というニュアンスも含まれるようだ。
直ぐに成果が出る訳ではないし、物理的・客観的に『廃棄』の確認が可能なのでごまかしもできない。

一方で『非核化』は、何をもって『非核化』なのかが十分に曖昧だ。
しかも『非核化』は北朝鮮と中国が好んで使う表現なので、『廃棄』より『非核化』の方がはるかに合意に至りやすい。

トランプは「歴代の大統領が誰もやれなかった米朝会談を成し遂げた。しかも非核化合意は『俺の勝ちだ!』」と容易にアピールすることができる。それを見越して、あらかじめハードルを『廃棄(Dismantlement)』から『非核化(Denuclearizatin)』に下げておく‥というのがトランプの狙いだろう。

「非核化の実現が可能になった。偉大なディールだ」「俺のリーダーシップで非核化の道筋をつけた」と勝ち誇って見せるトランプの姿が目に浮かぶ。

日本はトランプに花を持たせつつ『廃棄』につなげるべき

シンゾー・ドナルド会談では、日米貿易問題とともに、対北朝鮮で拉致問題と中距離核戦力を置き去りにした中途半端な合意をしない点で一致することが重要とされる。

その通りだが、『廃棄』ではなく『非核化』に乗り換えたトランプの思惑を考えると、米朝首脳会談が行われても、その合意レベルは限りなく低く、具体性を伴わないことも予想される。

日本としては、“歴史的”会談についてはトランプに花を持たせつつ、それが『廃棄』を見据えた具体的な動きに直結していくよう働きかけ、『廃棄』のために汗をかく覚悟を持つことが肝要だ。

具体的な『廃棄』が積み重ねられていかないと、北朝鮮はいつまでも核で日本の安全保障環境を不安定化できる優位な立場に立ち続けるからだ。

トランプの発言やパフォーマンスはどうせ止められないのだから、利用できるものは利用すると割り切り、日本の国益ファーストを貫いてもらいたいものだ。