「まだ夢のなかにいるような気分」

――おめでとうございます。

ありがとうございます。本当にすごくうれしいです。

ーー率直な気持ちを教えてください。

優勝して嬉しいんですけど、セレモニーもやったんですけど、まだ夢の中にいるような気分で現実感が湧かない感じです。

ーーゴールの瞬間、どんな気持ちでしたか?

ゴールした瞬間、「ボストンで優勝したんだ」とすごく思って、嬉しいというより、びっくりというのが一番でして、嬉しいなという風に思ったのは君が代が流れて国旗が上がった時。
「自分はやったんだな」っていう、その瞬間に嬉しさがこみあげてきました。

ーーメダルを首にかけた気持ちは?

すごく立派なメダルを頂いて、すごくきれいで 。
今までマラソンをやってきて、これほど誇りに思うことはなかったかなと思います。

31年ぶりの日本人優勝に「運命的なものを感じた」

ーー寒さはどうでしたか?

「多くの選手にとっては最悪のコンディションだ」という人が多かったんですけど、箱根駅伝の時も-3度と私は寒いコンディションが得意でしたので。

私が飛躍するきっかけになった2010年の東京マラソンも今日のような大雨と低い気温。
チューリッヒの大会で雨の中で勝ったり、最近では1月のマシューフィールドマラソンで(ボストンの下見で走ったレース)で-17度の中で良い記録で走れましたので今日のコンディションなら何かやれるんじゃないかと思っていました。

ーーレース前からそう思っていた?

そうですね、なかなか最近スタートライン立った時にワクワクして今回はやれるっていう感覚がちょっと薄れていたんですけど、今回のボストンの時には、「今日は自分は何かできる」というような確信のようなものはありました。

ーー今回、日本人として31年ぶりの優勝ということですが快挙についてどう思う?

実は私は31年前に生まれまして、最後に日本人の瀬古さんが優勝した年が私が生まれた年だったので、そこに運命的なものを感じましたし、ワールドマラソンメジャーズで初めて日本人として優勝できたということはすごく誇りですし嬉しく思っています。

実況で「クレイジー」レース展開と言われたが…

ーースタートダッシュが早かったが作戦?

スタートして100メートルくらいしたところですごくペースが遅すぎるようなイメージだったので、そうなってしまうと、本来であれば先頭集団に残らないはずの力がない選手も先頭集団に残ってしまって誰が勝つかわからないレースになってしまうので、それは嫌だなと思いまして。

今日のコンディションを活かすためにはやはり最初に飛ばして、ある程度人数を絞って有力選手だけにしてそこからが勝負だという風に思っていたので、それで初めから飛ばしていきました。

ーー実況で「クレイジーだ」と言っていたが?

普通に考えたらそう思うと思います。
周りの選手がロンドン世界陸上の金メダリストと銀メダリストに、リオ五輪のメダリストということで本当に普通に考えてあそこでああいう走りをするというのはクレイジーにしか思えないというところなんですけど、私の中ではそういう形でしっかり集団を絞っていってそこからが勝負だと思っていたので、いくつかあるプランの中の一つとして、全然クレイジーなことではなかったと思っています

ーー走っていた時の思いは?

なるべく後ろを見ないようにして前へ前へということで。
サングラスをつけていましたので向かい風もサングラスがあれば全然問題ない。
とにかく前だけ向いてとにかくポジティブな、積極的なレースをしていこうと思ってやっていました。

スタートラインで時計を外した

ーー記録についてはどう思っている?

もとからボストンマラソンはタイムより勝負だと思っていましたし、そういうレースだと思っていたので、そもそも時計自体を今回はつけなかったので時計は見ずにただ自分の感覚だけで「勝負だけ」にこだわっていきましたので。

タイム的には周りからすると「遅いタイム」と言われると思いますが、タイムより勝負だと今回思っていたので、そういう意味では時計を外した判断というのも正しかったかなと思っています。 

ーー時計をつけないのは初めて?

ロンドンの世界陸上でもつけないことがありまして、タイム関係なく勝負だけにこだわる勝負の時は時計を外すので、今回ボストンはそういうレースになるという風にコンディションを見て思ったので、ギリギリまで時計をつけていたんですが、「やっぱり外そう」とスタートラインで思って、慌てて外して日本人の方に渡しました。

家族には「人生で一番いい日だった」と報告

ーー今回の優勝をまず誰に報告したのか?

家族からはLINEが来ましたので、家族には「きょうは人生で一番いい日だった」と伝えました。

ーー家族からは何とLINEが来た?

「びっくりした」というか、「あり得ないことをやったね」くらいのことを・・・。
家族もさすがに優勝するとは思っていなかったのでそう考えるとすごく嬉しかったです。

 ーー優勝できるという思いはあったか?

私が得意なコンディションになるということが分かった時点で、「もしかしたら1%くらい優勝できる可能性があるのかな」と思い始めて、優勝は1%パーセントの可能性だと思っていたんですが、上位のトップ3とかトップ8とかそういうところにはかなり高い可能性で自分自身がしっかり走れれば行けるというような確信はありました。

去年夏の世界選手権で引退表明…今後の展望は?

ーー去年の世界選手権での”引退表明”の時に「若い選手のいい影響になる選手になりたい」と言っていたが、今もその思いはある?

最近は逆に若い選手から私自身が刺激を受けることが多くて、私にも「自分もまだまだ頑張らないといけないんじゃないか」というような火をつけてくれたので。
そうした日本人選手の活躍が今回のボストンにもつながったのかなと思う。 

ーー東京五輪に向けて考えていることは?

今回とは真逆のコンディションですのでなかなか今は考えられるようなことはないが、ただ、その時にもトップ選手として走っている予定ですので、海外レースを中心にしっかり日本のマラソンにとっていい刺激になるように強い力を保っていければと思っています。 

ーー引退表明されているが五輪に出たい思いはある?

今回のボストンもそうですが、自分の力を100%パーセント、120パーセント発揮できるレースであれば勝負したいという思いは強いですし、今回のボストンで感じたように君が代が流れる中で異国の地で日の丸があがるという光景は本当に素晴らしいものであって、勝った選手しか味わえない経験なのでそうしたことをやりたいというような思いはもちろんあるんですけど。

ただ、逆に自分自身が苦手とするような環境でそういうことができないのであれば、そういうことができる他の選手が出るべきだと思っているので、今の段階では進んで出たいとは言えない状況です。

マラソンというスポーツはいろんな可能性がある

ーー日本のファンのみなさんに一言

今回私が勝つと思っていた人はたぶん1人も、場合によってはいなかったと思うんですが、こうやって勝つことができたということはマラソンというスポーツは色んな可能性があって誰が勝つかわからない。
だからマラソンなんだということが歴史と伝統のあるボストンマラソンで証明できたと思うので、これを見ている若い世代に限らず、どの世代でもマラソンで何かできるということを感じてもらえたら嬉しいなと思います。