GMOが「新しいビジネス様式」を発表

新型コロナウイルスの感染者が日本で初確認されてから6カ月以上が経ったが、いまだに収まる気配を見せない。

感染予防のマスク着用が日常となり、さらには「こまめな手洗い・手指消毒」や「混んでいる時間帯の公共交通機関の利用は避ける」などの“新しい生活様式”にも、慣れてきたのではないだろうか?

withコロナで変わったのはなにも生活だけではない。働き方においても、外出自粛や3密回避が求められる中でテレワークや時差出勤などが推奨され、現在は多くの企業で取り入れられている。

そのような中でIT企業のGMOインターネットグループは5月、新型コロナウイルスの感染防止と、持続的な経済活動・企業活動の両立を目指す、withコロナ時代における経営スタイル「新しいビジネス様式 by GMO」を発表。

(画像:GMOインターネット)
(画像:GMOインターネット)
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勤務体制においては、緊急事態宣言解除後の6月から、在宅と出社を組み合わせた勤務制度をスタート。さらには、「サービスにおける各種手続きから、印鑑を完全撤廃(ハンコレス)」「取引先とは電子契約のみ(ペーパーレス)」「取引先との会議もオンラインを推奨」と定め、感染予防対策と企業活動の両立を図っている。

GMOインターネットグループは、政府がテレワークなどを推奨するより早く、1月27日から在宅勤務体制に移行。さらには4月の段階でハンコレスとペーパーレスの方針を示し、捺印のためだけの出社を減らした。

withコロナ時代において、他社に先駆けて「新しい働き方」の体制を作ってきたGMOインターネットグループ。なぜ、このように次々と世の中の変化に対応した企業経営に取り組んでいるのだろうか? そして「新しいビジネス様式 」を発表してから2カ月が経ったが、現状は?

GMOインターネット株式会社取締役で、グループコミュニケーション部の福井敦子部長に話を聞いた。

withコロナを見据えてワークスタイルを定義

−−5月下旬に発表した「新しいビジネス様式 byGMO」。どのような思いから策定し、公表したのか?

弊社は国内の企業ではいち早く1月27日から在宅勤務体制に入りました。最初は感染症予防の観点から“籠城”に近い形で在宅での勤務をしていましたが、一方で新型コロナウイルスなどに関する情報収集をしていく中で感じたのが、withコロナの時代が2年は続くのはないかということです。

完全な在宅勤務においても業務は順調でしたが、そのベースにあったのは、それまでに培ってきたコミュニケーションにおける理念の共有や信頼関係でした。代表の熊谷正寿の言葉を借りると、“コミュニケーション貯金”があってこそで、これにICTの技術を組み合わせたことが良かったのだと思います。

そして、世の中の「コロナからどう身を守るか?」という考え方や対応が日々アップデートしている中で、“籠城”から脱却し、新たに出社と在宅を組み合わせた出社スタイルが今は必要だと考えました。

そこで、このワークススタイルにあった「新しいビジネス様式」を弊社なりに定義いたしました。

グループコミュニケーション部の福井敦子部長(画像:GMOインターネット)
グループコミュニケーション部の福井敦子部長(画像:GMOインターネット)

不要な出社を減らせるよう、電子署名などを積極的に活用

−−具体的には、どのように出社と在宅を組み合わせているのか?

グループ企業によって異なりますが、週1〜3日(推奨は週2日)が目安の在宅勤務となっております。

1月末からの完全テレワークの際に感じたのは、リアルに接する場がなくなったことで、軽微なコミュニケーションが取りにくくなったことです。

社内ではチャットツールを活用して、チームなどでいろいろな議論はされていましたが、例えば今までは隣の席から「これで大丈夫ですか?」とパソコン画面や紙で見せていたものが、テレワークですと、PDFにして、添付してなどと堅苦しくなり、個人の判断で確認せずに進めてしまうこともありました。

文章を書くことなどの集中する業務は在宅が向いているでしょう。一方でチーム間のコミュニケーションは、ツールを使ってできるものの、やはりちょっとした共有ミスなどで業務の遅れにつながることがありました。

出社してやる業務と、在宅で集中してやる業務をうまく分けていければ、今後はより生産性が上がるのではないかと考えています。


−−ペーパーレスやハンコレスを進めたのは、在宅勤務が関係している?

はい、私たちもパートナー(従業員)の安全のために在宅勤務を指示したものの、「捺印申請はどうしましょうか?」という声が上がっていました。グループ企業が電子署名(電子契約)のサービスを提供していたことや、そしてコロナ禍における社会的背景の後押しもあり、社内外から電子署名への関心が一気に高まってきた要因となっています。

もちろん、契約はお相手があってのことですので、デジタルで捺印をお願いしつつも、今はこれまでの印鑑と併用するハイブリッドな状況となっています。ただ、現在は社会的にも説明しやすい状況にありますので、不要な出社を減らせるように、業務のデジタル化はサービスも含めて積極的に展開しています。

GMOで使われている電子署名(画像:GMOインターネット)
GMOで使われている電子署名(画像:GMOインターネット)

オフィスは“武器” 撤廃は考えていない

−−新しい出社スタイルが始まったことで、オフィスに余裕ができたと思う。オフィス撤廃や削減の予定は?

オフィスは“武器”となります。組織として集まる場所を持つというのが強みにもなっていますので、撤廃は考えていません。現在の環境下では、「オフィスをなくします」と宣言された企業もあるようですが、私たちはオフィスに集まってコミュニケーションをとる素晴らしさを実感しているからです。

また、GMOインターネットグループでは国内外約6000人のパートナーが働き、1年間で毎年350人ほど純増しています。一方で、週5日のうち2日を在宅にすると、パートナーが20%増えても増床をする必要がない計算です。そのため、オフィスの増床というのは当分不要だと考えています。

合わせて、例えばGMOインターネットでは、今まで固定だった席が7月からフリーアドレスに移行しました。これはコロナ以前から在宅を進めていこうと考えていた中で設計されたことですが、好きな場所で仕事をするという仕組みが、ちょうど始まっています。


−−withコロナの中で新たな働き方をいろいろ進めてきた中で、1番大きな気付きは?

会社としてどうあるべきかという考え方を明確にし、それを速やかに全パートナーに共有することがすごく大事だと改めて思いました。今回は、政府の発表を待たずに私たちなりに独自で判断してきたことがたくさんあります。

その中で、主軸となっている考え方は、東日本大震災まで遡ります。このときに、私たちが何を大切にするかという点で3つ決めていました。その考えは今も変わらず、1番は「パートナーの命を守る」。そして2番目は「事業を継続する」、最後は「社会貢献活動」です。

優先順位が決まっていたことで、今回はいち早く独自に在宅勤務へ移行し、パートナーの命を守りつつ事業を継続してきた実績があります。特に変わったことではないのですが、よりそのスタイルが確立されたということが、このコロナ禍で学んだこととなります。

現在はオフィスに出社している従業員は少ない(画像:GMOインターネット)
現在はオフィスに出社している従業員は少ない(画像:GMOインターネット)

“オンライン保育”などテレワークに合わせた福利厚生を展開

−−ではafterコロナを見据え、検討している制度などはある?

弊社はグループ企業を多く抱えていることから、共通で使えるコワーキングスペースのような場所の提供などを予定しています。グループの壁を越え、オフィスを効率的に使っていくという観点での活用の一つです。

加えて、これまで毎週金曜日の夜限定で福利厚生施設の社内カフェで行っていたBARタイムは、グループ間でいろいろなコミュニケーションを促進し、新しいサービスを生みだすきっかけの場となっていました。これを今はオンライン化し、さらに7月末にはオンライン上での“大飲み会”を企画しています。


−−働き方に付随し、マッサージ施設や保育所などの福利厚生が充実しているイメージがある。これらもコロナ禍では変わっていく?

はい、そうなります。在宅勤務における様々な声が上がってきた中で、「子どもの面倒をどうするか?」という課題がありました。既に弊社の保育士さんが、在宅の子ども向けにオンライン上で折り紙教室などを行っています。現在は、何をオンライン化するとみんなが喜ぶのか?という視点の中で、コンテンツの準備を進めています。

さらには、保育士を子どものお世話で困っているパートナーにシッターとして派遣できるような仕組みを作りたく、調整を始めています。

またマッサージにおいても、これまでも施術していただく際に、「首はもっとこういう風にした方がいい」「ここにパソコンのモニターを置くといい」などとアドバイスをもらっていました。さすがに在宅勤務の状況でマッサージはできませんが、このようなちょっとした健康相談ができる場をオンライン上に設けています。

その他の福利厚生を含め、今の時代にあった“働き方改革”を引き続きおこなっていきます。

 

政府の決定より早く、いろいろな働き方改革を進めてきたGMOインターネットグループ。その根底には、「パートナーの命は守る」という思いがあった。刻々と変化していく世の中において、今度もその時代に適した“働き方改革”をいち早く進めていくことだろう。
 

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。