親子で楽しむ「味わう」あそび

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あそびの中で子どもの「味覚」を育てるのは、なかなか難しそう…。しかし、子どもにとっては「食」そのものがあそびの延長だという。「まずは食に興味をもち、楽しむことが重要」と東京大学の発達保育実践政策学センターで准教授を務める、野澤祥子(のざわさちこ)さんは話す。

「食事を一緒に食べることは、親子の距離を縮めるという意味でもとても重要です。大人も大切な人と仲を深めたいとき、相手を食事に誘ったりしますよね。ともに同じ味を感じ、それに対して会話をするということは、両者の間に大きな共感をもたらします。また、子どもと食事を楽しむことは「食育」という観点でも重要です。毎日の食卓は、箸の使い方や『肘をつかない、姿勢良く食べる』といったマナーなどを学ぶ、文化的かつ社会的な空間と言えるのです」(野澤さん)

GWに父と子で料理を楽しむ

「味わう」をキーワードにしたあそびについて、どんなものがあるのだろうか。保育士のてぃ先生はこう断言する。

「『味わう』あそびといえば、なんといっても料理です! 子どもと一緒に料理を作るのは、とても良いと思います。ここ最近、『魚の切り身が海を泳いでいる』と思っている子が実際にいるという話がありますが、それは本当なんです。なぜなら、日頃調理の過程を見ていない子どもは、できあがったものが全てだと思っているから。連休という良い機会に、食材そのものの形や味を知り、それがひとつの料理になる過程をぜひお父さんと経験してほしいですね」(てぃ先生)

「料理は日頃ママから教わっているのでは?」と思う一方、世の忙しいお母さんたちは、空いた時間で料理をパパッと手際よく作ってしまうため、子どもと一緒に作る機会は意外と少ないという現実がある。だとすれば、父親と料理を楽しむことは、子どもにとって貴重な経験になるのかもしれない。

また、「実際に料理をしなくても、『おままごと』で味覚を想像するのも有効です」と語るのはボーネルンド「キドキド」のプレイリーダーである鈴木洋滋(すずきようじ)さんだ。

「『キドキド』には、マーケットというエリアがあり、食材を選ぶ、買う、調理する、食べるといった疑似体験ができます。子どもがおままごとで作った料理を食べるとき、ただ『美味しい』という言葉ではなく、『酸っぱい!』『甘い!』などと返してあげると、その味をリアルに想像して、とても良い反応を見せてくれます。また、おままごとによって、お客さんの役、店員さんの役、ママの役など、さまざまな役を演じながら、他人との関わり方を覚えていきます。協調性を養い、『誰かに何かをしてあげたい』という思いやりの心を育むことにも繋がるのです」(鈴木さん)

パパは料理が苦手なほどいい?

ここまでの提案を聞いて、日頃料理をしないお父さんたちは尻込みしているかもしれない。しかし第3回「触れる」で、てぃ先生が語った言葉を思い出してほしい。

「子どもに新しいあそびを提案するとき、大人が最初からとても上手な見本を見せてしまうと、『ぼくはパパみたいに凄いことはできない』と自信をなくしてしまう場合があります」(てぃ先生)

決して上手い見本を見せることが子どもにとっての正解ではない。そういった意味では、料理が苦手な父親の方が、子どもの可能性を引き出せるともいえるだろう。

逆に、料理上手な父親が凝ったメニューに挑戦すると、気付けば自分自身が夢中になり、子どもを置いてけぼりにしてしまうという本末転倒な結果も想像できる。おにぎりやサンドイッチ、焼きそばといった簡単な料理でも良い。ぜひ子どもと一緒に、考えながら、悩みながら料理に挑戦してほしい。

もしかすると、慣れない手つきで包丁を握るお父さんに、子どもはおままごとで培った包丁の握り方を教えてくれるかもしれない。母親の料理姿を見て知っている、食器や調理器具の場所を教えてくれるかもしれない。そうしてできあがった料理は、例え不出来だとしても、親子の心に“美味しい記憶”として残るだろう。

■プロフィール

左:てぃ先生
Twitterのフォロワー数が40万人を超える “日本一有名な男性保育士” 。本人の実話から生まれた、笑えて泣ける保育日誌を完全コミカライズした漫画『てぃ先生』(KADOKAWA)も発売中。

中央:鈴木洋滋(すずきようじ)
ボーネルンドあそびのせかい たまプラーザテラス店 副店長。親子の室内遊び場「キドキド」で「プレイリーダー」として日々こどもと触れ合っている。

右:野澤祥子(のざわさちこ)
東京大学教育学研究科 発達保育実践政策学センター准教授

取材・文=下條信吾
イラスト=木下きこ