記憶に残りやすい「嗅ぐ」あそび

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特集の最後となる今回のテーマは「嗅ぐ」。東京大学の発達保育実践政策学センターで准教授を務める、野澤祥子(のざわさちこ)さんは、においが人に与える効果について、このように語る。

においは、その時々の記憶を、感情を伴って想起させるといわれています。その一方、日頃はよっぽど特別なにおいを感じない限り、能動的に『嗅ぐ』ことを意識していない人が多いはずです。そういった意味では、親と子どもでにおいを意識し、共有しながら散歩をするだけでも、特別な感覚が得られると思います」(野澤さん)

確かに、河原や図書館、神社など、街はたくさんのにおいで溢れている。保育士のてぃ先生はそんな“においを探す散歩”の中でも、とあるスポットが特に興味深いと語る。

「たくさんのにおいが楽しめる場所といえば、スーパーやデパートの食品売り場でしょうか。野菜や果物、肉や魚、パンなど、売り場によってさまざまなにおいがあります。『焼きたてのパンのにおいが分からない子どもがいる』という話もあるほどで、そのような子は、作られてから時間の経ったパンしか知らないのかもしれません。パン屋さんで焼き立てのパンの豊かな香りに出会えば、食べ物を味だけでなく、においで楽しむという感覚を得られると思います。さまざまなコーナーを寄り道しながら、『これは何のにおいだろうね?』『この野菜はこんなにおいがするんだね!』と“におい探し”をするのも良いですね」(てぃ先生)

「料理」は偉大なあそび

前回の「味わう」では料理というキーワードが出たが、やはり今回も、スーパーやデパ地下でにおいを嗅ぐといった、食材にまつわるあそびがあげられた。料理は「味わう」「嗅ぐ」に加え、食材を「見る」「触る」、料理中の会話やさまざまな音を「聞く」など、五感のすべてを刺激する“あそび”であるといえそうだ。その上で、野澤さんは料理を主軸とした、さらなるあそび方を提案してくれた。

「まずは何を作るのかを話し合い、必要な食材を考えるところから始めてみましょう。このとき『○○○○円以内で収めよう』などと予算を決めれば、ゲーム的な要素も取り入れることができます。また、インターネットでレシピを調べるといった工程では、日頃パソコン仕事をしているお父さんの得意分野も活かせますね。買い物に行ったら、ちょっと良い値段のお肉を買ってみたり、変わった形の野菜を買ってみたりと、普段お母さんがなかなか手に取らない食材に触れてみるのも貴重な体験になると思います」(野澤さん)

“子どもを楽しませる”のではなく“一緒に楽しむ”

今回の特集で3名が語ったあそびは、決して正解を示した「マニュアル」ではない。ボーネルンド「キドキド」のプレイリーダーである鈴木洋滋(すずきようじ)さんは「どんなあそびをするか」ではなく、「どうあそぶかが大切」だと話す。

「どんなに素敵なあそびをしても、大人がつまらなそうにしていると子どもは付いてきてくれません。まずは、大人が楽しそうにあそんでいる姿を見せる姿勢がとても大切です。そして、子どもがあそびの世界に入り込んだら、そのまま子どもの様子をよく観察しましょう。小さな変化に対して思いっきり褒めてあげることで、子どもは大きな喜びを感じると思います」(鈴木さん)

また、てぃ先生は子どもとのあそび方に悩む父親に向けて、心安らぐ一言を最後に贈ってくれた。

「いろいろなあそびを提案しましたが、子どものことだけを考えるのではなく、お父さんがやりたいことにチャレンジするのも良いと思います。子どもは、お父さんが釣りをしている姿を近くで見ているだけでも、ドライブの助手席に乗っているだけでも嬉しいんです」(てぃ先生)

全5回にわたって父親と子どものあそびを考えたこのGW企画。子どもと深く関わる識者3名から聞いたあそびは、どれも身近でありながら、子どもとの関係を深めるための様々なヒントが隠されていた。わざわざ遠出せずとも、身近な場所で子どもの「五感」は育てられる。まずは、子どもと一緒にどうやってあそぶかを計画してみよう。

■プロフィール

左:てぃ先生
Twitterのフォロワー数が40万人を超える “日本一有名な男性保育士” 。本人の実話から生まれた、笑えて泣ける保育日誌を完全コミカライズした漫画『てぃ先生』(KADOKAWA)も発売中。

中央:鈴木洋滋(すずきようじ)
ボーネルンドあそびのせかい たまプラーザテラス店 副店長。親子の室内遊び場「キドキド」で「プレイリーダー」として日々こどもと触れ合っている。

右:野澤祥子(のざわさちこ)
東京大学教育学研究科 発達保育実践政策学センター准教授。

取材・文=下條信吾
イラスト=木下きこ