トランプ大統領は「盛り上げ派」

北朝鮮が北東部豊渓里にある核実験場を今月23日から25日の間に公開廃棄する。坑道の爆破などの様子を外国メディアにも取材させる予定だ。
アメリカの研究機関「38ノース」の衛星写真分析によると、既に廃棄の作業が始まっていて、メディアの前で破壊するため手つかずのままにした建物もあるというから念入りなことだ。

4月20日撮影(左)と5月7日撮影(右)の衛星写真

実験場は落盤などによって使用に耐えず、「非核化」の本気度をアピールするための演出にすぎないという指摘も多い。
が、公開廃棄は来月12日の米朝首脳会談へ向け『盛り上げ効果』が期待される。

具体的廃棄計画の発表にトランプ大統領は「ありがとう」ツイートで応じており、大統領は「懐疑派」ではなく「盛り上げ派」を演じている。そっちの方が得だと計算しているからだろう。金正恩委員長との首脳会談、そして「非核化」に臨む大統領の姿勢がうかがえるというものだ。

これに限らず、トランプ大統領は「歴史的会談が楽しみだ」「素晴らしい取引になる」などと楽観的発言がますます多くなっている。一方で「成果がなければ席を立つ!」という類の発言は、先月の安倍総理との共同会見以降、あまり聞かれなくなった印象だ。

非核化の期限に合理的根拠はない

トランプ大統領が非核化の期限として意識しているのは、今年11月の中間選挙、そして2020年11月の自身の再選選挙だと言われる。まず、完全な非核化のロードマップで合意し、そして非核化を完了するという二段構えだ。それはそうかなと思うが、中間選挙も大統領再選選挙もトランプの政治的都合でしかないという点はしっかり意識しておくべきだ。
そうした期限設定が現実的だとか達成可能だとする合理的な根拠は一切ない。

そもそも、北朝鮮が保有する核兵器の数すらアメリカは把握していない。
CIAの推定は「20超」であり、DIA=国防情報局は「およそ60」だ。アメリカの情報機関の間でも一致していないのだから、核兵器をいくつ発見し廃棄したら、「完了した」と言えるのか誰にも分からない。それが「完全な非核化」をめぐる現実だ。

「完全な非核化」を実現するには、過去数十年にわたる北朝鮮の核開発計画の全容を把握し、関係する全ての人と組織、開発データ、資材・設備・施設などを特定することが大前提になる。アメリカはその全てについて極めて不十分な情報しか持っていない。手っ取り早く把握するには、北朝鮮に洗いざらい申告させることだが、申告された内容が真正かつ漏れがないかどうかを確認するにも多くの専門家と時間が必要になる。そしてここでも、「完全な申告」かどうかを判断するのは極めて難しい。

秘密計画の全容把握は容易ではない

2018年2月8日朝鮮人民軍創建70周年慶祝閲兵式

アメリカはイラク戦争前の国連査察を信用せず、独自の情報収集で大量破壊兵器を隠し持っている十分な証拠があると主張した(当時のCIA長官は「スラムダンクだ!」と請け合った)が、結局、何も発見できなかった。
シリアの化学兵器も、ロシアがシリアに働きかけ、OPCW=化学兵器禁止機関も関与して全廃したはずだったのに、去年、さらに今年と使用され、トランプ大統領がそれぞれミサイル攻撃したのは記憶に新しい。

ことほど左様に秘密計画の全容把握は容易ではない。
北朝鮮の核開発計画を完全につかみ、2020年までに「完全な非核化」を実現できるとする根拠は極めて疑わしいと言わざるをえない。

アメリカを安全にする「素晴らしい取引」とは

アメリカはそんなことは百も承知だ。これまで何度も痛い目に遭っているのだから。
分かっちゃいるけど「完全な非核化」の旗は降ろせない。「同じ間違いは犯さない」と言い続けなければならないからだ。

そして、実質が伴わないから余計に『政治的成果』に傾斜することになる。選挙を意識して有権者受けを重視せざるを得ないので、往々にしてそれは『勝ち誇れる』『目に見える成果』となる。
豊渓里の核実験場の爆破・廃棄も、見え透いたイベントではあるが、何もないよりある方がずっと良い。「完全な非核化が始まった!」と喧伝するトランプの姿が目に浮かぶ。

6月の金正恩との首脳会談も同じだ。トランプが板門店での開催に未練たらたらだったのは、本人が述べた通り「こんなに絵になる場所は他にない」からだ。それは会談内容の薄さを補って余りある。間違いなく、視聴率男を自負するTVプロデューサーとしての経験と直感がそう言わしめるのだろう。

米朝会談後の展開

という観点からシンガポール会談、そしてその後の展開を考えてみたい。
筆者はトランプと金正恩の合意の中に、「完全な非核化」の文言が入ることを疑っていない。もしかしたら「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」と記されることすらあり得ると考える。いつまでに実現すると言えないからこそ、「完全な非核化」で合意したと言えることがトランプにとって大切なのだ。

「トランプを勝たせるが勝ち」と文在寅も習近平もアドバイスしているに違いない。その見返りに、金正恩にとって一番大切な「体制保証」の端緒となる「朝鮮戦争の終結宣言」を取ればいい。「非核化」に期限を設けようというなら「終結宣言」にも期限を認めさせる。

シンガポール会談後、7月27日の休戦協定締結65周年、9月9日の北朝鮮建国70周年のアニバーサリーがやってくる。それに合わせて「終結宣言」がさらに具体的に前進するのであれば、11月の中間選挙の前に金正恩からトランプにとても素敵なプレゼントがあり得る。

火星15

「火星15」を破壊するというベスト・シナリオ

ワシントン、ニューヨークを含むアメリカ全土を射程に収めるとされる北朝鮮のICBM「火星15」を破壊してみせることだ。
核弾頭については、どこに、どのような状態で、いくつ存在するのか把握するのが難しいし、核分裂物質の処理にも困難が伴う。一方で運搬手段としてのICBMは爆破処理が可能だ。運搬車両とセットで破壊すればさらに良い。

トランプ大統領は「北朝鮮からアメリカに向けてICMBが飛んでくることはなくなった」「俺の素晴らしい取引で、アメリカは安全になった!」と勝ち誇れる。
アメリカ人が北朝鮮を脅威と思う最大の理由は、ICBMが飛んでくる事態になったことだ。そのICBMを公開破壊となれば、正にアメリカ人を安心させる『目に見える成果』となる。
核実験場の廃棄よりはるかにインパクト大だ。

「完全な非核化」で首脳同士が明確に合意。
加えて、「火星15」の破壊をアメリカの有権者が目にする。
トランプ大統領はそんなべスト・シナリオを思い描いているのではないか。

(執筆:フジテレビ 風間晋 解説委員)