7月15日は本来、博多祇園山笠のクライマックス「追い山」のはずだった。
しかし新型コロナの影響で、男たちの勇壮な姿はない。
山笠を愛し、追い山のない夏を惜しむ博多の人たちを取材した。

願うのは新型コロナウイルスの収束

午前3時、福岡市の櫛田神社に集まったのは長法被をまとった山笠の男たち。
例年7月15日に行われる疫病退散の神事「祇園例大祭」に臨んだ。祈るは1つ、「コロナ」の収束。

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博多祇園山笠振興会・武田忠也会長:
いつもの年だとこれから太鼓台に向かう。なんとなく「本当に7月が来たのか?」という感じ

男たちが舁き山を担ぎ、博多の街を勇壮に駆け抜ける「追い山」。
太平洋戦争による中断から復活した1948年以降、途切れることなく続いてきた伝統が途絶える結果に博多の関係者は…

明太子ふくや・川原正孝会長:
もし私が若手だったら、荒れ狂ってると思います

山笠の「てのごい」で作られたマスクをつけて取材に応じたのは、博多名物の明太子の創業メーカー「ふくや」の川原正孝会長。

明太子ふくや・川原正孝会長:
生まれた時から出てるんですね、自分なりに趣味って言ったら博多山笠ですから。「思い」っていうよりはライフワークですね。やっぱり山笠でみんな元気になるんですよね、本当に。景気も良くなるし

物心ついたころから70年近く山笠に参加し続けているという川原会長。

ふくやの創業者であり、中洲流の結成にも携わった父・俊夫さんから受け継ぐ生粋の「山のぼせ」。
生まれて初めての「追い山」無き夏を迎えることに、川原会長は…

明太子ふくや・川原正孝会長:
「仕事を一生懸命する」「体調も万全にする」で、周りの人から山笠行っていいよって言われるような努力をして、1年間みんな過ごしてるんですよね。このコロナが収まって山笠が担げるような環境に、それから山笠を見に来ていただけるような環境になって欲しい

山笠用品店ハンダ・半田昭二さん:
ここの前も観光客の人がいっぱいいる。本来ならね

かつての活気を懐かしむのは半田昭二さん。
30代で台上がりも経験した生粋の舁き手。山笠好きが高じて、博多で唯一となる山笠商品の専門店を営んでいる。

山笠用品店ハンダ・半田昭二さん:
本来なら、すごく活気があって勢いがあるとですよ。ところがね、ことしは無い

半田さんが丹精込めて一本一本手作りする舁縄。
この時期、例年なら300本ほど売れるが、2020年はいまだ0本。

山笠用品店ハンダ・半田昭二さん:
仕方ないですよね、ことしは。来年できるように頑張らないといけない。コロナ退散といってね、それが山笠の始まりやけんね

男の祭り「山笠」に思いを馳せる女性も

男の祭りとして知られる山笠に特別な思いを馳せる女性がいる。

勢い水を浴びながら山を担ぐ男たち。勇ましい声が今にも聞こえてきそう。
山笠唯一の公認フォトグラファー八田きみこさん。レンズ越しに山笠を見守り続けて20年以上。初めての山笠のない夏を特別な想いで過ごした。

八田きみこさん:
やっぱり、あぁ寂しい、まさかと思っていたが、空虚感というかさみしさを感じたのがあります

櫛田神社の宮総代を努めていた祖父に連れられ、幼い頃から山笠を見てきた八田さん。
シャッターを切ることで、まるで自分が参加しているような喜びを感じるという。

八田きみこさん:
写真を撮ることによって、違った形で山を支えている…それはおこがましいことではあるけど、とても誇りに思うんですね、博多に生まれた人間として

八田さんが撮影するのは、決まって銀杏の木の下。

毎年撮影していた、清道旗をぐるりと一周する男たちの勇壮な姿。
しかし、2020年 その姿はない。
旋回の目印である清道旗が静かにそびえ立つ、誰もいない櫛田神社。
山笠のない博多の夏を記録しておきたいと撮影した。

八田きみこさん:
記録を残すという、役割が写真のなかにあると思うんですね。今年は残念なことに山笠のない夏という、とても考えられない状況になった。これがこうやって復活したんだっていうのを後世に残すためにも、写真の記録性というのが重要ではないかと思う

2021年の再開を待ちわびる全ての人たち

皆がそれぞれ2021年への思いを抱く中、神事終わりにはこんなサプライズが。
各流れの有志が櫛田入りの時刻に合わせて清道に集まり、「博多祝い唄」を唄い出した。

博多祇園山笠振興会・武田忠也会長:
本当にみんなウズウズしてますからね。日本国内でまずは病魔退散ということで、マスクせずに山が舁ける状態、一般の観光客の方、市民の方にも十分楽しんで頂けるような体制を早くとりたい

博多祇園山笠の熱気が感じられないままに迎える、2020年の夏。
山を舁く人、見守る人、伝統の祭りに関わる全ての人が、2021年の再開を待ちわびている。

(テレビ西日本)

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