非核化「時間をかけても構わない」

トランプ大統領と金栄哲統一戦線部長

世界の耳目を集める米朝首脳会談まであと7日となった。
アメリカのトランプ大統領は1日、金正恩朝鮮労働党委員長の最側近である金英哲統一戦線部長とホワイトハウスで面会。その後、記者団に対し、北朝鮮の非核化について「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と伝えたことを明らかにし、段階的な非核化を主張してきた北朝鮮の立場に理解を示した。
また12日の会談は「互いを知ることが主な目的」で、「その場で何かに署名するようなことはないだろう」と述べた。

では、12日の会談で何が話し合われ、焦点の非核化やその見返りについてどこまで話が進むのだろうか。そしてそれは日本にとってどういう意味を持つことになるのだろう。

“非核化”めぐる米朝の思惑

まず、非核化の対象となる施設だが、北朝鮮がすでに数十発保有していると思われる核兵器とその組み立て施設、そして原材料となる核物質を製造する原子炉、ウラン濃縮施設など、さらにはICBMを含めた弾道ミサイルである。
アメリカの専門家などは、たとえ北朝鮮が核兵器廃棄に合意したとしても、完全な核兵器保有能力を無効にするためには10年間はかかる複雑なプロセスが必要になると指摘している。だからアメリカ政府は当初、主張していた短期間の一括廃棄をあきらめたのだろう。

対して北朝鮮は非核化は否定しないが、できるだけゆっくりと段階的に進める中で、金正恩体制の保証や経済支援などを引出して行く戦略であることは間違いない。

12日の会談で、トランプ大統領はアメリカに届くICBMや核実験、プルトニウムや濃縮ウラン生産の停止、核開発計画の申告などを求めるだろう。それが非核化への第一段階という位置づけになるのではないか。査察や既存の核兵器の搬出は次の段階になる。この段階ではとてもじゃないが、後戻りできない非核化などとは言えないが、金正恩氏はそれなりの見返りを求めてくるだろう。その時、トランプ氏はどう答えるのだろう。

安倍首相は非核化に向けた査察の費用の負担についてはすでに明言しているが、日本に対しては専ら経済的貢献が求められることになりそうだ。

朝鮮半島の非核化が実現するなら安いものだ、という考え方もあるが、リビアのカダフィ大佐の二の舞になるのをもっとも恐れている金正恩氏が本当に核を捨てる気があるのかは極めて疑わしいとみるのが妥当なところではないか。

“朝鮮戦争の終結”合意は?

一方、12日の会談では非核化とは別に、朝鮮戦争の終結宣言案に合意する可能性があると伝えられる。トランプ氏は歴史的な成果だと自画自賛しそうだ。戦争が終わるのは確かに良いことだ。しかし、なぜかしっくりこないのは、私だけではないだろう。朝鮮戦争が名実ともに終われば、南北国境を見守る国連軍は任務を終了する。そして在韓米軍の縮小あるいは撤退も予想される。その時、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わるのかも知れない。

2002年、当時の小泉首相が訪朝した際、表明した日朝平壌宣言の際、双方は戦後処理の一環として約1.4兆円の無償援助を行うことで合意していたという。勿論、非核化や拉致問題の解決が前提だが、万が一、北朝鮮が本当に非核化した場合、我が国はかつて韓国に支払ったのと同様に植民地支配に関する補償として数兆円単位の支払いを迫られることになる。

それだけではない。韓国の文在寅大統領はこの一連の平和外交の先に南北統一の実現を描いているという。最後の冷戦体制の解体であり、分裂国家の悲願であることは理解できるが、その場合は朝鮮半島に人口8千万人近い「高麗連邦」が出現することになる。日本はこの連邦国家との特殊な歴史的経緯を乗り越え、うまくやっていくことが出来るのだろうか。

12日にシンガポールで行われる会談は、我が国にとっても極めて重大な意味を持つことになりそうだ。

(フジテレビ解説委員 小林 泰一郎)