主演に綾野剛、脚本に宮藤官九郎、監督を石井岳龍が務める映画『パンク侍、斬られて候』が6月30日、全国公開された。

企画制作は映像配信サービスの「dTV」。12万以上の映像作品を月額500円で楽しめるサービスだ。
映像配信事業者が実写映画を作るのは日本初。この取り組みは、今後の映像配信事業の未来を変えるかもしれないと注目されている。「映画を作る」という新たな事業を始めたdTV。
伊藤和宏プロデューサーが考える「映像の未来」について話を聞いた。
(映画の見どころや狙いに関するインタビューはこちら)
視聴者の意識が変化している

――テレビ、映画、ネット配信などにとどまらず、これからも動画メディアは増えていくと思いますが、どういったメディアが勝ち残ると思いますか?
一個人の意見ですが、動画メディアはどんどん増えていくけれど、人口は増えるわけではないですし、それだけなくなっていくものもあるでしょう。ただ、「このジャンルは残って、これはなくなる」というものはそんなにないと思います。
ライブエンターテインメント的な劇場もあるだろうし、家で見るものでいうとテレビという受像機もあるだろうし、スマホで見るものも変わらないのかなと思います。VRやARのような新しいものもいろいろ出ると思いますが、それでもそこまで変わらないと予想しています。
結局はその中でどのようなコンテンツを見せるかだけだと。すると、中途半端なものはなくなっていくだけだろうなと感じています。
――どのようなコンテンツを出すことが大事ですか?
今回映画を作って思いましたが、出来上がったものをみてわかる通り、すごく熱量がある作品を作ることができたなと思っています。僕らスタッフ全員が、『何か新しいものを作りたい』、『いままでみんなが経験したことがないことをやりたい』とみんな本気です。
マーケティングをしてできた作品は、どこか拠り所があるじゃないですか。別にどの作品とは言いませんが、なぜ作ったのかなぁと。この原作があって、この人たちが出ていたら別に命がけで作らなくてもヒットするんじゃないか、そんなことは思ってないと思いますが、委員会方式になっているため、お金儲けをしたい人が一人でもいると「まあまあ」みたいな空気になったりする。そして、本当にこれ作りたいのかなと思ってしまうのです。
すると、お客さんが「本気で作っているのか、結局二匹目のドジョウなのではないか」と敏感に感じて、興味がなくなるんですね。ライブ会場でアーティストが適当に演奏していたら嫌じゃないですか。それくらいの話だと思うんです。
お客さんの意識、視聴者の意識が変化してきていると実感します。
――配信という枠にこだわらず、映画に出るなど多面的な展開ができるメディアは強いと思いますか?
どうでしょう。やはり僕らのホームグラウンドは配信なんです。この映画で大ヒットしたとしましょう…すると思いますが(笑)。100億円儲かったから、『映画の方が儲かるから配信をやめて映画にシフトしよう』ということは絶対にならない。100億円儲かったらもっとコンテンツを作ることができるし、どんどんお客様のサービスに還元できる。ベースは配信の会員事業なんですよね。
「本当にそんなことやるの?」を実現

――テレビ局もテレビが本業ですが、映画やイベントなどはテレビとの相乗効果がたくさんあります。映画が配信に与える良い影響はありそうですか?
純粋に企画プロデュースは僕が動いているので「dTVってすごく面白いものが作れるじゃん」というのは思ってもらえると思います。それがフジテレビなどが製作した映画『万引き家族』のように賞をとったり、大ヒットしたり、逆に仮にヒットしなかったとしてもすごく心に残ったりして、「では、あそこのサービスに入ってみよう」という流れはあると思うんですよね。それは大きい効果じゃないかなと。
それは、お客さんだけじゃなく、業界全体の「あ、dTVは面白いものを作るから、あそこに出てみよう」というものもあるだろうし、クリエイターも「こんなチャレンジングなものができるんだったら、なかなか今の映画の会社ではできないけど、あそこに企画を持っていってみよう」ということもありえそうです。
配信というもの自体が、一部の人にはNetflixやAmazon、dTVという名前を知ってもらっているけれど、「フジテレビ」とか「日テレ」ほどの知名度や利用度は全然ない。dTVのブランディングを上げるだけでなく、「映像配信サービスは面白い」ということに目を向けてもらえることもあるんじゃないかなと思います。
配信事業者同士はライバルですが、そもそも遅れてきたメディアなので、手を取り合っていかなきゃいけないところもあります。また、映画の会社を敵視するつもりもないですし、テレビ局ともやれることがあればやっていきたいし、メディア全体みんなで仲良くしたいですよね。
――それによって、イノベーションが起きるかもしれませんね。
映画でも動画でも、ハリウッドはもちろん、中国や韓国などもすごく存在感があり、日本のコンテンツの国際競争力が乏しい状況になっていると思うんです。国外にサービスとして出ていく必要はないですけど、国内のマーケットでも、海外にどんどん取られている部分はあるんですよね。外でも戦えるようにしないといけないのではないかと思っています。
――伊藤さんは今回の映画に限らず、dTV上でFNNのニュースを見られるようにするなど、これまで様々な取り組みをされてきました。新しい映像表現などでこれからさらにやってみたいことはありますか?
そんなに大それた新しいメディアを開発しようとか、新しい産業を開発しようなんてものはないです。ただ、いまの日本は、頭がよくなりすぎて過去の事例のヒットで「これ、当たるでしょ」というモノ以外の商品作りがなかなかできていないと感じるんです。
それは車だろうが、電化製品だろうが、エンターテインメントだろうが、似たようなモノを作ることが主流になっている。
あえて狭い世界だけを取ろうともしてないですし、コピー商品でもない。僕はそういうものを映画、配信、動画の世界で、もっともっとできると思うんです。
そういったことを一個でも多くやって、一個でもヒットさせないといけないですよね。
――先駆者としての責任もありますね。
責任はすごくあると思うんですよ。失敗例を作るとみんな萎縮するじゃないですか。「やっぱり失敗したらしいぜ、もっとターゲティングをして1万人がわかる作品を作ればいいんだ、予算もこれだ」と。なので、この作品は、2018年の興行ランキングのトップ10には入っていたいですよね。
本当にそんなことやるの?ということを実現して、ヒットさせて世の中に広めていく。
それを今後、エンターテインメントの世界としてやっていきたい。
それがいっぱいあると、未来が広がっていくじゃないですか。

『パンク侍、斬られて候』ストーリー(公式サイトより)
ある日、とある街道に一人の浪人があらわれ、巡礼の物乞いを突如斬りつける。自らを“超人的剣客”と表すその浪人の名は掛十之進(綾野剛)。掛は「この者たちは、いずれこの土地に恐るべき災いをもたらす」と語るが……。次々とあらわれるクセもの達。ある隠密ミッションの発令によって始まる前代未聞のハッタリ合戦。そして一人の女をめぐる恋の行方と、一人の猿が語り出す驚きの秘密。今、あなたの想像をはるかに超える、驚天動地の戦いがはじまる。