5万匹のアユが…

福岡県朝倉市にある、老舗川魚料理店「香魚」。

店のすぐ隣にはアユを育てるための養殖池があった。
しかし、去年の豪雨で、養殖池の縁の高さを越える濁流に洗われ、3つあった養殖池から5万匹のアユが一気に流されてしまった。

あれから一年、被災地の現在を追った。

被災後初めての「アユの旬」

香りが良いことから「香魚」とも呼ばれるアユ。

一年かけ順調に育ち、今、被災後初めての「旬」を迎えようとしている。
老舗川魚料理店「香魚」の3代目、田中康彦さん。

老舗川魚料理店「香魚」の3代目 田中康彦さん

「せっかく、先々代の祖父の時代からここまで作り上げてきたので、自分の代でやめたくなかった」と、被災後の営業再開に込めた思いを語る。

去年の豪雨被害だけでなく九州各地の河川は今までに幾度となく水害の被害を起こしてきた。
古くから「暴れ川」として知られる筑後川は、その代表格で、田中康彦さんの祖父、米廣さんの時代、昭和28年にも大水害に見舞われた。

しかし、米廣さんは裸一貫で川魚の卸売業を始め、後に「香魚」を開いたのだ。以来50年、たくさんの人々に親しまれてきた店は、3代目の康彦さんの代になり、再び被災した。

被災直後の店内の様子

復活を支えた“常連客”や“ボランティア”

被害総額は数千万円。
父の代から守ってきた店は大きな痛手を受けた。
そんな時、手を差し伸べてくれたのが、今まで大事にしてきた「常連客」や「ボランティア」の人々だった。

被災から一か月の間で、延べ300人以上がバケツなどを使い、泥の掻き出し作業を手伝った。

多くの人々の支援に支えられ、「香魚」は、今年1月に何とか営業再開にこぎつけた。

週末の午前11時。
開店と同時に待ちわびた客が次々に「香魚」の暖簾をくぐる。
正午を迎えるころには70ある席が埋まるほどの盛況ぶりだ。

3代目康彦さんの母親で今も店を切り盛りする洋子さんは、「被災後、手を差し伸べてくれた人々への感謝の思い、そして新しい人々との出会いが、店を続ける原動力となっている」と笑顔で語る。

3代目康彦さんの母 田中洋子さん

豪雨災害ですべてを失った「老舗」の川魚料理店。

あれから一年が経ち、先祖から受け継いだ「不屈」の精神と、常連客やボランティアの思いに支えられ、今日も“笑顔”で営業中だ。