妊婦が感染すると60~80%の胎児が感染!

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性感染症梅毒」の患者数が、ここ数年で爆発的に増えています。
1990年代以降は年間1000人を下回っていたものが、2013年には1200人を超え、2015年は2690人、2016年は4575人、2017年は現行の集計となって以降、初めて5千人を突破しました。
さらに、今年も昨年を上回るペースで増加しています。
「梅毒」の初期は、自覚症状がないことも多く、潜在的な患者数はもっと多いと考えられます。

さらに気になるのは、女性患者が急増していること。この5年間で5倍以上になりました。
感染は、一般家庭の主婦などにも広がっています。
しかも、その年齢は妊娠・出産の時期と重なり、76%を15~35歳の若い女性が占め、特に20代前半の感染者数が突出しています。
妊娠中の女性が感染すると、無治療の場合、40%は流産や死産となり、生まれた場合も、肝臓や目、耳に先天性の障害を引き起こす「先天梅毒」が危惧されます。
胎児が胎盤を通して感染するリスクは、60~80%と極めて高確率です。

アトピー性皮膚炎と見分けが難しい場合も

「梅毒」がなぜ増えているのか、国立感染症研究所では「不特定多数との性行為が増えていると推測するしかない」としています。
また、「SNSを利用した業態など、病気の検査をしていない風俗業が増えた」「梅毒がまん延している国から持ち込まれている」などの諸説もありますが、明確な背景ははっきりしていません。

また「梅毒」は、多くの若い医師にとって、教科書でしか見たことのない性感染症という側面もあります。全身の湿疹を診て、「梅毒」と診断できないケースもあるかもしれません。
特に、アトピー性皮膚炎など、もともと皮膚の病気がある患者さんでは、見分けるのが難しい場合もあり得ます。

1回の性交で感染するリスクが高い!

「梅毒」の病原体『梅毒トレポネーマ』は、感染している人の性器などの患部に多く存在し、性行為によって接触した粘膜や、皮膚の小さな傷などから侵入します。
その感染力は、HIVなど他の性病と比べ非常に強く、たった1回の性交で感染する可能性は、15~30%と非常に高いのです。
また、性器の接触による性交だけでなく、オーラルセックスで咽頭部に感染したり、アナルセックスで直腸に感染するなど、性行為の方法によって性器以外の場所にも感染してしまいます。

キスやコップの使い回しでも感染!

「梅毒」の症状は、感染から「3週間後」、「3ヵ月後」、「3年後」の3期に分類しています。
3週間後の〈第1期〉では、陰部・くちびる等の感染した部位に、小さなしこりや潰瘍ができ、少し遅れて股の付け根部分のリンパ節が腫れます。
しかし、これらの症状は痛みや痒みが無く、放置しても2~3週間で消えてしまいます。
感染しても、「何かあったけど、自然に治ったな」と勘違いしたまま、あるいは感染に気付かないまま、性交渉をしてしまい、知らず知らずのうちに感染拡大を引き起こしてしまうのです。

くちびる等に「梅毒」の病変部分がある場合は、キスでも感染します。
感染者とのコップや箸の使い回し、皮膚に傷のある状態での愛撫などでも感染します。
だから、〈第1期〉が最も危険な時期とされるのです。

やがて全身に発疹が…!

〈第1期〉の症状が消えた後、梅毒の病原体は全身に広がります。
そして3か月後の〈第2期〉では、全身に発疹という形で表れます。
顔や手足にピンク色の円形のあざが出来たり、「バラ疹」と言われる赤茶色の盛り上がったブツブツが全身に広がります。
多くの感染者が、この段階で慌てて病院に駆け込みます。
「梅毒」は、〈第2期〉までに治療することが肝要です。

「梅毒で鼻が落ちる」は本当か?

〈第2期〉以降、約3年間は無症状で経過します。
3年以上経った〈第3期〉では、ゴム腫などといわれる大きなしこりが出来ます。
さらに進行すると、心臓・血管・神経・精神・目などに重い障害が現れ、場合によっては死に至ります。
以前はよく「梅毒が進行すると鼻が落ちる」などと聞きましたが、〈第3期〉のゴム腫が鼻骨にできると、崩れたり陥没することがあり、この状態を「鼻が落ちる」と表現したのでしょう。
ただ、現在では〈第3期〉以上に進行する患者さんは、ほとんどいません。

世界における「梅毒」の標準治療は、ペニシリンGという抗菌薬の筋肉注射が一般的です。
ただ、日本ではペニシリンGは認可されていないため、代用となる内服薬によって治療が行われます。(現在、日本医師会はペニシリンGが使用できるよう、働きかけています)
早期に発見されるほど、治療期間は短くてすみます。

過去3か月から1年間の性交渉相手も検査が必要!

残念ながら「梅毒」は、一度治っても何回でも感染してしまいます。
したがって、特定のパートナーがいるのなら、その人も血液検査をしなければなりません。
自分だけ治療を行っても、パートナーが感染していたら、感染を繰り返してしまうからです。
また、〈第1期〉の場合は、過去3カ月間に性的接触をもった全ての相手に、〈第2期〉の場合は、過去1年間の全ての相手に感染の危険性があります。
本来は、これらの人も検査を受ける必要があり、それが本人のためでもあります。

「梅毒」は初期段階で治療をすれば必ず完治する病気です。
不特定多数との性行為や、性交渉の相手の皮膚や粘膜に異常があったなど、気になることがある人は早めに受診してほしいと思います。

かなまち慈優クリニック 院長
高山 哲朗(医学博士)

高山哲朗
高山哲朗

日々の診療では患者さんの健康維持・増進により深く貢献できるよう努めております。的確な診断、共に疾患をコントロールすること、日々の健康を管理し病気にならないようにすることは内科医の責務と考えています。常に学ぶこと、根拠に基づく説明を分かり安く行うことを心がけてまいります。
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、平成29年 かなまち慈優クリニック院長。医学博士。日本内科学会認定医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本医師会認定産業医。東海大学医学部客員准教授。予測医学研究所所長