外出自粛解除以降、オフィスに戻ったビジネスパーソンが増え、満員電車が復活した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は収束しておらず、リモートワークの日々も続く。

連載企画「withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」32回目のテーマは、子育て世代が悩むリモートワークと家事・育児の両立について。2009年の創業以来、社員全員がリモートワークを行っている「子育てシェア」株式会社AsMama(以下アズママ)の創設者、甲田恵子代表取締役CEOに聞いた。

「子育てシェア」AsMamaの創設者・甲田恵子さんはリモートワーク歴18年。
「子育てシェア」AsMamaの創設者・甲田恵子さんはリモートワーク歴18年。
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男女で「ながらワーク」に経験差

――外出自粛期間は日本で初めて全国規模のリモートワークが行われたのですが、特に子育て世代からは「子どもがいると仕事に集中できない」という悲鳴と、子育て分担をめぐるストレスが多かったようですね。

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甲田さん:
「子どもがいると仕事に集中できない」という声は、男性側からよく聞きましたね。中には、家の一室を占拠して朝から晩まで閉じこもっていたとか、近くのホテルやスペースを借りて仮の仕事部屋を作ったという人もいたようです。そういう場合、家事・育児を残った片方が押し付けられるかたちになりがちなので、当然不満がたまる結果になりやすいです。ましてや共働きともなれば、「私だって仕事があるのに」と思うのは当然です。

――共働きの場合は、女性が子育ても担当となるケースが多いですね。

甲田さん:
もともと多くの女性は「ながらワーク」に多かれ少なかれ慣れています。例えば、産後3カ月ほどは、ほとんど外出もせず子どもと家にこもって家事や自分事をこなすのが一般的です。

一方で男性の育休取得率は未だに6%程度で、取得しても過半数が5日未満です。こうした「ながらワーク」の経験差からも、男性の方が「育児と仕事を同じ場所で両立する」ということが苦手なように思います。

仕事のスケジュールや内容を家族で共有

――とはいえ、だから男性が子育てをやらなくてもいいという理由にはなりませんね。

甲田さん:
子どもが小学生ぐらいまでは、リモートワークで子どもが放置されないように、家事育児に加えて「子ども担当」を決めておくことが大事です。そのために必要なのは、互いの仕事のスケジュールや内容をきちんと家族で共有しておくことですね。

例えば、保育園のお迎えにどちらが行くのか事前に決めるように、「この時間はママが大事な会議があるのでパパが遊んであげてね」とか、「子どもと1日の学習内容を確認するのをどちらがやるか決めておこう」などです。そうすることで、子どもも大人の仕事時間を理解しながら、自分の生活リズムも作っていけるのですね。

――事前に親のスケジュールがわかれば、子どももストレスなく動けます。

甲田さん:
いつ話しかけていいのかもわからなければ、子どもだって気を遣います。子どもにも「この時間は話しかけても大丈夫だよ」「〇〇時には仕事が一段落するよ」など、オンとオフを共有しておくことも大事ですね。

また、「ゲームは1日〇時まで!」などと親が一方的に決めてしまうより、子どもの遊びややりたいことも親子会議などでしっかり話し合う。その上でルールを決めるようにすると、親子ともに納得感がぐんと高まるはずです。子どもの年齢に関係なく、夫婦の収入差に関係なく「チーム」としての情報共有と協力を意識することが大切です。

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家事や育児は定期的に洗い出して話し合う

――家事の分担については何かアドバイスはありますか?

甲田さん:
これは、ワンオペでも在宅パターンでもひとり親でも、このカタチがおすすめ!というものはなくて、各家庭が納得されていれば全く問題ないと思います。共働きでも「パパが家事も育児も全部していて、ママも子どもも全く不満がない」という家庭もいれば、「調味料の買い足しひとつまで役割分担を決めていることで、喧嘩が減った」という家庭もあります。大切なことは、定期的に家事や育児の洗い出しをして、どういう役割分担になっているのか、その内容や負担感が重荷やストレスになっていないかをしっかり話し合うことです。

――なるほど、役割分担を洗い出して共有化するのですね。

甲田さん:
ストレスが多いのは、収入の少ない方が家事・育児負担を背負っているというケースや、時間がない中で一生懸命家事・育児をしているのに、相手方がより丁寧(ハイレベル)な家事・育児を求めているケースです。

いずれの場合も家族の誰かに過度なストレスがかかっているので、分担を話し合ったり、一部は親族や外部の手を借りることが必要です。もし話すとヒートアップするなら、ポストイットに自分がやっている家事・育児や代わってほしい負担を書き出して、子どもも交えてゲーム感覚でやってみることをお勧めします。

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ストレスは当たり前。どう表現するかが大事

――1日中、親子が家に一緒にいるとストレスがたまるというのも、外出自粛期間中、話題になりました。

甲田さん:
自宅で仕事も家事も子育てもしていて、ストレスがないなんてあり得ません。ただ、それをどのように表現するかが大事です。

「大人が子どもを見ている以上に、子どもは大人を見ている」ということを意識する。数年後の子どもの姿は、今の自分の姿です。子どもにどう育ってほしいのか、「働く」ということや「家族との時間」「家での時間」をどう捉えてほしいのか忘れないこと。忘れてしまった途端、自己本位な感情やストレスが先立った言動をして後悔しがちです。

――今は学校や遊ぶ機会が減って、子どももストレスがたまっていますよね。

甲田さん:
今は友達と自由に遊ぶこともできず、楽しみにしていた行事もなくなり、どこに行くにもマスク着用を義務付けられ、大人以上にストレスを感じながら日常を送っている子どもも少なくないはず。「夫婦で・母子で・父子で・家族で」の時間を1日30分でも、毎日が難しければ週単位ででも作れると、親子ともにストレスを抱え込むことが少なくなると思います。

パパは「ながらワーク」スキルを鍛えるチャンス

――パパからは「平日は難しいから、せめて休日ぐらいは子育て参加する」と。

甲田さん:
「休日は私が子どもと遊んでいます!」とか「お風呂は私がいれています!」いう声がどこかから聞こえてきそうですが、子育てに休日はありません。これまでは何となく、平日子育てに携わってこなかったパパですが、今はむしろ子どもの様子を知ったり、パートナーのマルチプレーに改めて感謝する良い機会だと思います。

どうしても集中したい仕事があるときは、夫婦や家族できちんと話し合って、どこかに引きこもらせてもらって仕事をするという方法もあると思いますが、むしろ時間管理や集中力を鍛え、「ながらワーク」スキルを向上させるいい機会かもしれません。

――「ながらワーク」スキルを鍛える、逆転の発想というか…

甲田さん:
家事・育児・仕事をバランスよくできることは、これからスタンダードになってきます。「ながらワーク」の中で出てきたアイデアや課題が、仕事への気づきにつながることも大いにあります。

最近の朝晩の電車は、かなり自粛前の状態に戻ってきた感じがしますが、感染拡大を止める絶対的な方法がない中、まだまだリモートワークは積極的に取り入れられて良いはずです。そんな中で、家族全員の家事・育児・仕事のバランスが、誰かの我慢の上に成り立っていないか、親は子どもにとって良い将来の見本となれているかどうかを、パパから積極的に話し掛けてくれるような家族は、きっと素敵な家族なんだろうと思います。

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失敗の理由は自分の感情コントロール

――ところで甲田さんは、リモートワーク歴18年で今も子育て中ですね。

甲田さん:
前職、前々職の時はオフィスワークでしたが、1年間の育休後に復職して以来、子どもが4歳になるまでは、オフィスワークとリモートワーク+家事・育児、起業してからはリモートワーク+家事・育児の「ながら」生活です。

――リモートワークしながらの子育てで、失敗談はありますか?

甲田さん:
数えきれないほどあります(笑)子どもに聞けば、私が思っている以上に出てきて、冷や汗が出ます。リモートワークや子連れワークのコツを話す講演で、「どんな仕事をしているのか、なんのために仕事をしているのかを子どもは3歳からでも十分理解します。だから仕事の前に子どもやご家族とは十分に話しておくことが、気持ちよく子連れワークをするコツです」などと話しているのですが、当時の自分は「会議が終わったらおやつにするから、それまで静かにして!」なんていう脅し文句を何度となく言ってきました。

――10年以上前だと、まだリモートワークが一般的でなかったですね。

甲田さん:
そんな環境で働くことがまれだったので、毎日ひやひやしながら「子どもを同席させてもいいでしょうか」と聞いていました。でも大体の企業で快く受け入れられましたし、子どもがいることで場が和むということも結構ありました。

失敗はむしろ自分の感情コントロールや、子どもや家族とのコミュニケーション不足によるものだったと思います。

リモートワークをしながらの子育ては日々奮闘
リモートワークをしながらの子育ては日々奮闘

子どもが多様性や社会性を学べる機会

――リモートワークと子育ての両立はなかなか難しいのですが、甲田さんのリモートワークの経験の中で、「これがよかった」と思えることは何ですか?

甲田さん:
子どもの頃から親が家事・育児・仕事を両立する姿を見せてきたことで、子どもはそれが「当たり前」だと思っていることがあります。打ち合わせによく同席させたこともあって、「未来をよくするために大人たちが切磋琢磨するのが仕事だ」ということを目で見て、耳で聞いて、学んできたことが何よりの産物でした。多様性や社会性をこうして学べる機会を創ってあげられたのは、私がリモートワークと子連れワークを徹底してやってきたからだと思っています。

――娘さんが大人になる頃には、リモートワークは一般的になっているかもしれませんね。

甲田さん:
仕事と育児の両立や場所を選ばない働き方が当たり前の時代になっていると思いますが、まだまだ身近なロールモデルがいない中で、反面教師になることも含めて、自分がモデルケースを見せられたのはよかったと思います。

――ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。