米中貿易戦争の最大の懸念は”経営の萎縮”

この記事の画像(4枚)

”Tit-for-tat”

特にイギリスで見かける表現だと思うが、仕返しや報復のことを指している。
今年3月に起きたロシア人の元二重スパイ父娘襲撃事件の後、英露が外交官の追放合戦を繰り広げたが、その時もこの表現が使われたと記憶している。

今回の米中の25%の関税発動合戦の報道でも、イギリスのBBCはこの”Tit-for-tat”という、筆者には子供の喧嘩を想起させる表現を使って、今後の世界経済に与える懸念を報じている。

“貿易戦争”なるものがエスカレートすると、貿易は落ち込み、経済は収縮する。
大昔の事例では通商規模が半分以下に落ち込んだこともあるというから恐ろしい。
21世紀の今、そこまで悪化しなくとも、トランプ大統領の思い付きで狙い撃ちされたら、世界最大のマーケット・アメリカでの売れ行きが激減するおそれがある訳で、経営者達は前向きな投資や積極的な事業展開には慎重にならざるを得ないらしい。

ワシントン・ポストが報じた事例では、トランプ政権が今年1月に輸入洗濯機に20%の関税を課したケースで、アメリカ国内の洗濯機の価格は3月から5月までで16%上昇したという。この結果、輸入韓国製品に押され青息吐息だった米国メーカーの業績は急速に回復したのだが、当然ながら、韓国メーカーは打撃を受けたはずである。個別のケースの是非を論ずる立場に筆者は無いが、トランプ政権に狙い撃ちされたら影響甚大であることは間違いない。

目下の最大の懸念は、こうしたトランプ政権の一連の保護主義的な措置に起因する不透明感・先行きへの不安と、それがもたらす”経営の萎縮”ということになる。

BBCが報じた専門家の試算では、このまま米中の”貿易戦争”が続けば、両国の経済成長は今後1年で0.25%程度押し下げられ、翌年には0.5%程度の押し下げ要因になる恐れもあるという。日本を含む第三国への影響も避けられない。

ディール・メーカー氏は “戦争屋” ではない

「米中両国は共に関税を課すことになるだろう。そして、行き詰まり、また交渉になるだろう。」
通商交渉に精通するアメリカ政府関係者は、今後の米中摩擦の行方に関して、このような見通しを示してくれた。この通りとすれば、あのディール・メーカー氏(Mr. Deal Maker)に本格的な貿易戦争に突入する気はなく、あくまでも交渉による決着を目指すということになる。秋の中間選挙までは支持者受けを狙って突っ張る可能性もあるのだろうが、その後は現世ご利益に飛び付く可能性が高い。

となれば、習近平政権も、自らの面子をつぶされない限り、タイミングを見計らって、ディールに応じるだろう。そして、いつものように、ウィン・ウィンの成果を誇ろうとするだろう。李克強首相も、6日、訪問先の欧州で、貿易戦争は「解決策ではない。」「誰の利益にもならない。」と述べて、アメリカを批判しながらも、将来の話し合い決着に意欲を示している。

ディール・メーカー氏はアメリカの経済力や軍事力を誇示して脅しを掛けたり、ちゃぶ台をひっくり返すのは大好きなようだが、”戦争屋”ではないということでもある。

世界経済を滅茶苦茶にする前に・・・

「私は楽観していない。」” I’m not optimistic.”

しかし、つい最近まで、アメリカの対中政策に関わっていた専門家は、楽観を戒める。この専門家氏は「あのナルシストのエゴが思い付きでどこまで突っ走るのか全く油断できない。」「習側にはカードがいくつもある。対する彼には味方がいない。自らの行いで仲間をどんどん離反させていったからだ。」と手厳しい。

実際、今回の関税発動合戦で、あのディール・メーカー氏が全く火傷することなく得をすれば、図に乗って次にどんな手に出てくるか、それを考えると空恐ろしくなってくる。

一部報道のように、トランプ政権が自動車の輸入規制を強化したり、20%の関税を課すような事態になれば、その影響は甚大である。これまでのところは金融市場もわずかに動揺しただけで大きな影響を受けていないのだが、日欧vs米で自動車貿易戦争が始まったらただでは済まない。

そのディール・メーカー氏は間もなく欧州を歴訪する。ロンドンでは、おしめを付けた赤ちゃんトランプ人形の巨大風船を議事堂近くで空に浮かべて、抗議行動が行われる予定である。彼は、自分が悪く言われるのが大嫌いらしいが、ならば考え直すという精神は持ち合わせていない。

となれば、彼には誰かがお灸をすえねばならない。しかし、大統領の重しとなるべきアメリカ議会もメディアも司法当局も、その機能を果たせていない。同盟国もご機嫌窺がいに腐心しているのが現実である。非常に難しく微妙な段階にあるであろう米朝交渉が続く中、日本としても、アメリカとの同盟関係を弱体化させるようなことはできない。結局、来るべき秋の中間選挙で、アメリカの有権者にその役割を果たしてもらうしかない。彼が世界経済を滅茶苦茶にする前に。

(執筆:フジテレビ 解説委員 ニ関吉郎)