金正恩委員長の精力的な視察、9か所連続?

カバン工場を視察する金正恩委員長
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7月17日、北朝鮮のメディアは不思議な状態だった。同日の日付に朝鮮中央通信では金正恩委員長が、「漁郎発電所の建設現場」・「軍の傘下にあるサケの養殖場2ヵ所」・「清津造船所」・「九月一日機械工場」・「塩盆津ホテルの建設現場」・「温堡保養所施設の現地指導」・「大規模野菜温室候補地」・「カバン工場」の9ヵ所を視察したという記事が出ていたのである。

ほぼ、同様の内容をKRT=朝鮮中央テレビでは、複数のアナウンサーが入れ替わりで報じていた。朝から深夜まで金委員長は、超人的な働きをしていると言わんばかり。

戦闘艦船VSV建造を堂々視察

清津造船所を視察する金正恩委員長

眼を引いたのが、清津造船所での画像と金委員長の発言。金委員長は、6銃身の機関砲塔の傍らに立っている。この機関砲塔は、旧ソ連で開発されたAK-630近接防御30㎜機関砲システムにそっくりだ。

AK-630は、テレビカメラやレーダーで、捉えた標的に向かって、30㎜機関砲弾を4㎞先まで、1分間に5000発~1万発も撃ちだす。この発射速度は、6本の銃身を高速で回転させ、次々に弾を装填・発射することで実現する。

AK-630らしき機関砲塔と金正恩委員長

AK-630らしき機関砲塔の後ろには比較的、幅の狭い艦橋が見える。こうしたことからインターネット番組「週刊安全保障」の視聴者である、ぐう・たらおさんは「金委員長が視察しているのは、ナルチ級VSV(30m級)と分析」した。

VSVとは、Very Slender Vessel(極細艇)のことで、極端に細い船型で、波の上を通らず、むしろ、波を突っ切るようにして、高速で走るフネのこと。他国では、特殊部隊の運搬用だったりするが、北朝鮮の使用目的ははっきりしない。

ぐう・たらおさんは「マストに航海レーダー(おそらくKODEN製)と各種アンテナ及び謎の装置用があり、艦首にAK-630もどきを装備。また、開閉式の魚雷発射口が見える」とのことで、高速性能を活かした高速魚雷艇の可能性や特殊部隊の侵攻作戦用の可能性もあるだろう。

また、VSVの上に「107㎜多連装ロケット砲やMANPADS(対空ミサイル)」もあるとみられることから、大きさの割に重武装の高速魚雷艇ということになるだろう。そうであるならば、北朝鮮VSVは、日本海に展開する弾道ミサイル防衛の要、日米のイージス艦に打撃を与えるのに適した兵器かもしれない。

金正恩委員長自身は、このVSVを視察するにあたって「最高指導者は、造船所で新しく建造した戦闘艦船の構造と戦術技術的諸元、武装装備設置状況も調べ、自ら試験航海も行い、造船所の労働者たちが海軍武力をより強化できるように機動および火力能力の優れた戦闘艦船を立派に建造したことについて評価した」(朝鮮中央通信7/17)という。

この30m級VSVは、北朝鮮に6~8隻存在するとみられている。トランプ米大統領との約束があるため、核や弾道ミサイルの生産は、大っぴらにしにくい状況下で、金委員長は「海軍武力をより強化」出来るよう、自らの姿も現して、VSVの生産を堂々と行っていることになる。

新貨客船建造決定は、制裁緩和を見越して?

造船所を視察する金正恩委員長

さらに、金正恩委員長は「新しく計画している近代的な貨客船の建造を、ここの造船所に任せることを決心したと述べ、すでに「マンギョンボン92」号を建造した経験もあるのでいくらでもできるだろう、清津造船所が旗印を掲げていくようにしようと語った」(朝鮮中央通信7/17)というのである。

マンギョンボン92は、北朝鮮のミサイル実験や核実験に対する制裁で、日本への入港が禁止されている船である。興味深いのは、国連経済制裁がまだ続いているにも関わらず、そのマンギョンボン92号建造の経験に基づく、新しい貨客船建造を「決定した」ということ。

つまり、国連や各国の制裁措置が緩和されることを前提に洋上の物資輸送による貿易の拡大を視野に入れているということだろう。

中国やロシアは、北朝鮮に対する国連制裁緩和に前向きな姿勢であり、韓国が南北首脳会談で合意した南北軍事ホットライン再開のためだとして、ガソリンの例外的輸出を求め、安全保障理事会は「人道目的」との理由で例外措置を認めている。

ポンぺオ米国務長官、制裁緩和を牽制

ポンペオ米国務長官(左)・康 京和韓国外相(右)

一方、ポンペオ米国務長官は20日、ニューヨークで国連の安全保障理事会のメンバーに加え、韓国の外相や日本の国連大使と会談した。

「安保理は、金委員長が合意した最終的で完全に検証可能な北朝鮮の非核化の必要性について、一致している。目標達成には制裁の厳密履行が重要だ」として、北朝鮮に対する制裁を完全に履行するよう促したという。

船の建造計画には、スケジュールも重要だ。北朝鮮の外交、経済、軍事を一手に握る金正恩委員長の頭の中には、すでに制裁緩和の日程もあるのかもしれない。ただ、それが、「完全な非核化」が先になっているのかどうかは不明だが。


「能勢伸之の週刊安全保障」(7月21日配信)