世界では2例目「洞窟性アリ」
25日、3カ月予報を発表した気象庁は「35度以上の猛暑日が続くようなところが出てきてもおかしくない」と会見で語った。こんなに暑い夏はあまり外出せず、涼しいところで過ごしたいという人は多いと思うが、アリの世界にも太陽を避けて生活するアリが日本に存在することがわかった。
日本語で「洞窟に引きこもる者」を意味する名前を持つ新種の「アリ」が、沖縄の洞窟で発見されたのだ。

発見された場所は、沖縄の洞窟と言えば真っ先に思い浮かぶ「青の洞窟」ではなく、沖縄県中城村にある小さな洞窟だ。7月23日、那覇市の昆虫研究家・名嘉猛留さんが、九州大学総合研究博物館の丸山宗利准教授とともに、研究成果を九州大学で発表した。
以前に確認された洞窟性アリは、2003年にラオスで発見された「ハシリハリアリ属」の1種類だけであり、今回の発見は世界でも2例目で、日本国内では初めてのことだ。

学名は「Aphaenogaster gamagumayaa(アファエノギャスター・ガマグマヤア)」で、アファエノギャスターは「アシナガアリ属」を指し、ガマグマヤアは沖縄の方言で「洞窟に引きこもる者」を意味する。和名は「ガマアシナガアリ」だ。
洞窟で暮らすアリはすごい!
丸山宗利准教授によると、アリは社会性の集団生活者のため、ある程度の餌源が必要なのだが、洞窟の中は栄養に乏しく、生き抜く上で決定的な要素が欠けているため、洞窟はアリにとって暮らしにくい環境とのこと。そのため、洞窟にしか生息しないアリは非常に少なく、まさか日本で発見されるとは思っていなかったそうだ。

そして、これまでに何度か、ガマアシナガアリがコウモリの糞を運んでいる様子が観察されていることから、糞に含まれる消化された昆虫の死骸等から、栄養のある部分を選んで食べているものと推察できるという。
動物の糞を食べるアリ自体は珍しくないが、洞窟内のみの生活という特殊な環境下で、その糞のみに依存しているアリは、極めて稀だ。
ガマアシナガアリは、洞窟で暮らす他の生物と同様に、体の色が薄い・目は小さい・脚と触角が長いといった特徴を有している。
今回発見されたのは約8mmで、アリにしてはだいぶ大きい方だという。
自身のTwitter上にて「アリで洞窟性種と言うのは本当にすごいのです」と興奮気味に、今回の発見について語っている丸山准教授と、第一発見者の名嘉さんにお話を聞いてみた。
洞窟内のみで暮らしているのがまずすごい
ーー「洞窟性アリ」が発見されたことは、どれだけすごい?
栄養要求性の高い社会性昆虫であるアリが、洞窟内のみで暮らしているのがまずすごいです。
そして、それを可能にしているのが、同じ洞窟に住むコウモリの糞であることが強く示唆されるところが、洞窟生物の進化史としてすごいです。
今回発見されたアリのいるような、ある程度中に入った洞窟内は、年間を通して気温・湿度の変化が少なく、当然一年中、暗闇です。地上のアリの多くが、種によって季節性を伴いながら「結婚飛行」を行い繁殖するのに対し、季節性の乏しい洞窟内で、どのように配偶行動を行い種をつないでいるのか。
どうやって配偶者に出会うのか、地上ほど楽ではないと思われます。通常のアシナガアリにはない特殊な生態をもつ可能性もあります。今後研究が進めば、洞窟に入らざるをえなかった理由も含め、このアリの凄さが明らかになると思います。
ーーアリは集団生活者とのことだが、今回発見されたのは何匹?
発見したのは、12個体です。同時に歩いているところを発見しました。洞窟内を探索していましたところ、割れ目のような部分を発見しまして、それが巣の入り口だと判明しました。
現在、見つかっている巣はこの1つだけで、働きアリの個体数は非常に少なく、私達も必要最小限の数を、間隔をあけて採集しました。

太陽と暑さが苦手…女王アリはまだ未確認
ーー「洞窟性アリ」を洞窟の外に放した場合どうなる?日光は苦手?
洞窟内は非常に涼しくなっています。洞窟内で繁殖したこともありまして、洞窟外の暑いところや、太陽の直射日光に対しての免疫がありません。洞窟内の気温は、大体25℃くらいですので、今のたとえば35℃とかの猛暑日に外へ出すと、死んでしまうと思います。
日差しを浴びない種のため、目は退化し、小さくなりました。
ーーアリは1日中、働いているイメージがあるが、洞窟性アリも同じように、洞窟の中で1日中、活動している?
おそらく、そうだと思います。洞窟外と違い、気温差がなく昼夜もないので、ずっと快適に活動していそうです。
ーー通常のアリ同様に、女王アリは?
そこのところが、今まさに今後の課題としています。通常のアリの場合ですと、女王アリはもちろんですが、羽アリというのがいます。羽アリは外で交尾後、羽を落として、単独で巣を作り始めます。
その後、働きアリが量産され、巣が成熟すると、ある時期に巣内でメスとオスの羽アリがたくさん生まれます。その羽アリが、再び巣の外に飛び出し、別の巣の異性と交尾し…という繰り返しで繁殖します。つまり、巣の外で交尾した羽アリのメスが、女王アリとなるのです。
このガマアシナガアリに、羽アリがいるのかどうか。そこが現在、不明な部分ですので、そこを明らかにすることで女王アリの発見につながると思います。
ーー発見したガマアシナガアリは現在どこに?展示予定は?
現在は標本として、九州大学に保管してあります。研究の為、研究者に貸し出すことは可能ですが、一般の方々へ公開する予定は、今のところございません。

丸山准教授は「材料(標本と文献)と熱意さえあれば、大抵の人は新種発表ができる」とし、興奮冷めやらぬ様子で
「そもそも研究が進んでいる日本でアリの新種発見というのがすごいのです。近年もいくつか発表されていますが、いずれも昔に標本が得られているものを研究したり、DNAで調べて違いが見つかったというもので、こういう全くの新しい発見というのは、なかなか無いのです」とツイートしている。
今回の新種発見のすごさは取材から十分に伝わってきたが、ガマアシナガアリについてはまだ未解明な部分も多いようで、通常のアリと違う生態など今後の研究が進むのを待ちたい。
(タイトル写真 撮影:島田 拓氏)