82歳のおばあちゃん画伯

今やSNSを使えば、誰でも不特定多数の人に情報を発信できる時代。
その情報を聞きつけた82歳のおばあちゃんが孫に頼んだ。

ツイター?ってやつに載せたら皆んなに見てもらえるんやね。載せてみてくれへんかぁ


そんなおばあちゃんの頼みを聞いて「ツイッター」にアップした絵が人気を集めている。それがこちら!

 



タイトルは『ゴンドラ』。水の都・ヴェネツィアの風景が鮮やかな色彩で描かれている。
目に飛び込んでくる2艘のゴンドラは、水路が入り組むヴェネツィアに欠かせない交通手段。
青の船体に影が掛かり、その半分が海に溶け込みそうな濃い色に変化している。海との境界を示す波は白くうねり、泡立っているようだ。

淡い光に照らされたその先の海にも、ゴンドラが体を休めるようにして停泊している。
遠くに見える建物は、「水辺の貴婦人」と呼ばれるサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会だ。


光と影の表現が見事なこの作品に多くのユーザーが魅了され、9万超のリツイートと18万を超える“いいね”を獲得(26日現在)。
「涼しげな絵。猛暑が楽になった」「美術館に飾ってありそうなくらい素敵」「おばあさまカッコいい!」「一瞬写真かと思った」といったコメントが寄せられ、美術大学卒だという人の専門的な高評価もあった。

「齢82歳のうちのおばあちゃんが描いた絵が素敵」という見出しで投稿したのは、生松圭悟(@keeeeigo5)さん。
現在は、高校の同級生で結成したHEADLAMPというバンドのギター担当で、来月には全国ツアーも開催予定だという。
“完全なおばあちゃんっ子”だという生松さんは、新曲ができるとすぐにおばあちゃんに聴いてもらい、おばあちゃんも絵が完成すると「ちょっと見て!」とお互いに披露し合う関係だという。


「良いと思ったら是非RTしてあげて下さい」というおばあちゃん思いの生松さんの優しさも素敵だが、やはり82歳のおばあちゃんのことがもっと知りたい。

このプロ並みの画力はどのようにして培われたのか? また、大反響を受けてどう思っているのか?
生松さんを通して、おばあちゃんに話を聞くことができた。
 

55歳から旅行先の風景を絵に「少しでも伝われば」

ーーゴンドラを題材に選んだのはなぜ?

これまでにヴェネツィアを3度訪れているのですが、その美しい景色を絵に残そうと、現地でデッサンを描きました。

ーーいつから絵を描いている?

絵を描きはじめたのは、55歳です。
主人が他界し、昔から絵心があるという娘からの薦めで、地元の絵画教室に通い出しました。
あくまでも個人の趣味として楽しんでおります。
 

 
 
この記事の画像(8枚)

ーーこれは油絵? 大きさはどれくらい?

主にペン画で描いて、水彩とガッシュを使って色をつけています。(ガッシュとは、不透明な水彩絵具のこと)
サイズは50号Fで、縦1670mm、横910mmです。


ーー特にこだわった部分は?

制作時には、常にお洒落な作品をイメージしながら、それぞれの作品の持つ独自の色を作り出すよう心がけています。
『ゴンドラ』で特に力を入れた部分は、波の光です。描きあげるまでにかかった時間は約1ヶ月ほどです。

ーーこの作品に込めた思いとは?

自分が気になる風景を自分なりの作品に仕上げるまで過程を楽しみ、無我夢中で描いております。
見ていただいた方々に、少しでも旅先での風景が伝わればと思います。
 

ヨーロッパ風景画 5作品

55歳から絵を始め、これまで数えきれないほど描いてきたというおばあちゃん。『ゴンドラ』は7月20日に完成したばかりの最新作だという。

「他の作品も見てみたい!」という多くの要望に応えて、孫の生松さんは追加でヨーロッパの風景画5作品を公開。
ゴンドラと同じくヴェネツィアの『溜息橋』、スペインの都市を描いた『ゴルドバの裏通り』、『フランスの朝市』、シチリア島の都市『タオルミーナの一隅』、ヴェネツィアの中心的広場『サンマルコの丸い屋根』は、どれもおばあちゃんが実際に訪れて目にした景色を描いたものだ。
 

左『溜息橋』  右『ゴルドバの裏通り』
左『溜息橋』  右『ゴルドバの裏通り』
『フランスの朝市』
『フランスの朝市』
『タオルミーナの一隅』
『タオルミーナの一隅』
『サンマルコの丸い屋根』
『サンマルコの丸い屋根』

右目見えなくても「苦労も楽しむ」

絵を描いていて楽しいことや苦労することはどんな時かを聞くと、思いもしない答えが返ってきた。

ーー細かい作業は目が疲れると思いますが、リフレッシュ法は?

実は、8年前に緑内障で目を患い、右目は失明しています。
描きたいものに出会う度、思い立ったら筆を持ち、出来上がりのイメージにたどり着くまで何度も描き直しています。
苦労も楽しみとしながら仕上げています。

ーーツイッターに投稿しようと思った理由は?

全く無縁の世界でしたが、孫がバンドの情報発信をしているという話を聞いて、いろいろな方に見てもらえるんだ!と。
孫のバンド仲間に 見てもらえればくらいの軽い気持ちで、載せてみてと言ったら、早速ツイッターに投稿してくれていました。

ーーユーザーの反応をどう感じている?

沢山の方々から嬉しいお言葉を多く頂き、正直、信じられない状況に感謝しております。
皆様のお言葉を胸に、日々益々楽しみながら作品に取り組みたいです。
 

左:おばあちゃん  右:生松圭悟さん
左:おばあちゃん  右:生松圭悟さん

反響を受けて、生松さんは翌朝のおばあちゃんとの会話を報告。

孫「これが今の言い方やとバズってるって言うんよー」
祖母「絵描き仲間に自慢するねぇ」
その仲間に送ったメールを見ると、「私の絵がバジってるみたい」と書かれていた。おばあちゃん、惜しいです!

さらに、「この絵を飾りたい」という声が多数寄せられ、倉庫に眠る予定だった絵を欲しいという人に譲る考えだ。
生松さんも「おばあちゃんの絵の一ファンとして、気に入ってくれた人がいたらお譲りして、この先も飾って頂けるのが作品にとっても一番だと思います」とコメントしている。

おばあちゃんは絵、孫は音楽と分野は違うが、互いに刺激しあういい関係にほっこりさせられた。
次回作は現在のところ未定で「暑い夏は一休み致します」ということだが、新作が今から楽しみだ。



(画像:生松圭悟さんツイッターより)

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プライムオンライン編集部
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