「定数6増法」を改めて冷静に見つめてみると…

7月22日に閉幕した通常国会の最終盤で成立した、参議院の定数を6増やす改正公職選挙法。野党が「定数削減・身を切る改革の流れに逆行する」などとして猛反発する中、与党が押し切る形で可決され、来年の参院選から適用されることが決まったが、改めてこの改正について詳しく見ながら、来年の参院選を展望してみたい。

二律背反…1票の格差是正か各県代表か

「1票の格差を是正するのか、それとも各都道府県の代表をきちんと国政に送り出すのか」

こんな二律背反ともいえる問題に直面していたのが2016年の参議院選挙だ。都市部の人口増加と地方の過疎化が進み、1人の議員を選ぶ有権者の数に大きな差が出てしまうのが「1票の格差」。人口(有権者)の多い地域は1票の価値が下がりやすく、逆に少ない地域は1票の価値が上がる。

2013年の参院選では、有権者約48万人で1人を選出する鳥取県と、有権者が約460万人もいて2人しか選出できない北海道の一票の格差が4.77倍という状態に、言いかえれば鳥取県民が議員1人を選ぶ1票の価値に対し、北海道民は議員1人に対し0.21票の価値しかないという状態になった。

そのため最高裁が、「違憲状態」の判決を下し、都道府県単位の区割りの見直しにまで言及したのを受け、国会は改革を迫られていた。

その解決策として2016年の参院選から導入されたのが「合区」だ。人口の少ない、島根と鳥取、徳島と高知をそれぞれひとつの選挙区とし、2県で1人の議員が選ばれることになった。結果として1票の格差は縮小するが、合区の対象となった県のどちらかは地元の議員を選出できなくなる仕組みだ。

司法が「投票価値の平等」を立法(国会)に迫る一方、世論はというと、合区よりも各都道府県からの代表選出を支持する(今年3月のFNN調査で67.3%が支持)という状況になった。司法と世論の評価が分かれたのである。

そんな中、来年の参議院選挙に向けて今年の通常国会終盤に自民党が提出し、成立したのが、議員定数を6増やし、比例の一部候補を優先的に当選させられるようにした、今回の選挙制度改正である。

この記事の画像(3枚)

今回の改正でどう変わる?

今回の改正を具体的に言うと、選挙区では1票の価値が最も低い埼玉県を2議席増やして(参院は3年ごとに半数が改選されるため、1回の改選で1議席増)格差を縮小させる。

比例区は一部拘束制、つまり獲得する票数に関わらず、一部の候補者を比例名簿の上位に掲載できる「特定枠」を設け、比例の定数自体も4議席(1回の改選で2議席)増やすというものだ。この比例区の「特定枠」は、合区の対象となる島根、鳥取、徳島、高知の全てに現職議員を抱え、来年の参院選で候補者の調整が必要な自民党の事情を反映したものだ。

まさに「自民党の自民党による自民党のための6増」(国民・玉木共同代表)で、野党は一斉に反発しているが、今回の6増自体は、実は自民党以外の各党にも利点がある制度であるのだ。

前回選挙にあてはめると少数政党が得する!?

埼玉県での議席増は、特に公明党や共産党にとって「渡りに船」だ。埼玉選挙区の改選定数は来年以降3から4へと1増える。

前回2016年の埼玉選挙区(改選定数3)では、トップ当選の自民、2位当選の民進の候補に続き、公明党の候補が最下位当選で、共産党の候補が次点だった。改選定数が1増えれば、公明党は議席確保がより確実になるし、共産党も議席獲得が視野に入る。

比例区の定数4増=改選定数2増も、得票数に応じて議席が配分されるので、選挙区に比べ小政党に比較的メリットがある。

2016年の選挙で仮に改選定数が2増えていれば、維新と自民の候補がそれぞれ当選し、次点と次々点に共産と民進が続く形になっていた。また2013年の選挙にあてはめてみると、自民とみんなの候補が当選し、次点と次々点が公明と生活となる。

このように、比例の定数増加分は与野党にバランス良く配分され、小政党の議席獲得のチャンスが増えるのだ。「1議席の確保」が死活問題の小政党にとって、これほどありがたいことはない。

建前反対で本音賛成…永田町のありふれた話

また比例の「一部拘束式」も、現時点で使うとしているのは自民党だけで、他の党は使用に否定的だが、党が国政に送りたい人材をほぼ確実に当選させられる仕組みだけに、今後自民党以外でも利用する党が出てくる可能性も否定できない。

「ウラでは野党もわかっている(参議院重鎮)」「誰のハラも痛まない改正(自民党関係者)」という声が聞かれるのも、ある意味当然だ。建前は反対、本音は賛成というのは実は政治の世界ではよくある話で、永田町ではこの法律が間違いなく成立すると皆が思っていただろう。

多様な意見を反映し充実した議論を

では私たち有権者にとって、この改正に建設的な立場から期待できることは何か。それは「少数意見の反映」された参院での「議論の充実」ではないだろうか。

確かに野党の言う自民党の「党利党略」という指摘はもっともだ。それを反映し、今回成立した法律に対する世論の評価は「賛成」が26.5%にとどまり、「反対」が60.8%に達している。(FNN7月調査)

しかし見方を変えれば、議席が増えたということは、より多くの民意が国会に反映されるようになったとも言えるのではないか。法改正の評価は別として、この新しい選挙制度の下に来年の参院選が行われるのは、もはや変わらない現実だ。

議員定数の削減については別途しっかり議論するとして、今は議席が増えることで「少数派や幅広い地域の意見や見方」がより国の施策に生かされるような議論の活性化を期待する、というのは理想にすぎるだろうか。

少なくとも、国会での党首討論について、与野党の党首双方が自ら「歴史的使命を終えた」などと語るような深刻な国会の状態を改善する一助となってほしい。
 
「国民不在の政治」が叫ばれて久しいが、政治が見放されないよう、選良たる議員の奮起と議会の充実を待つばかりだ。もちろん有権者やメディアの適正な視点とチェックが必要であることも論を待たない。

(政治部デスク 山崎文博)